医療AIに取り組むトップランナーインタビュー
カプセル内視鏡で小腸のびらんや潰瘍を自動判別する人工知能(AI)を開発ーー。東京大学医学部附属病院消化器内科とAIメディカルサービス(本社:東京都豊島区、代表取締役社長・CEO:多田智弘)の研究チームによる、こうした研究結果が、今年10月に米医学誌に掲載された(『小腸カプセル内視鏡画像を自動読影、東大病院が開発』を参照、論文はこちら)。東大病院で撮影された小腸のカプセル内視鏡画像を機械学習のアルゴリズムに学習させることで、カプセル内視鏡画像から感度88%、特異度91%、正確度91%でびらんと潰瘍を検出できるようにした。
研究を進めた東大医学部附属病院消化器内科助教の山田篤生氏と医師で博士課程4年生の青木智則氏はこれまで多くのカプセル内視鏡に携わってきたカプセル内視鏡の専門家だが、今回の共同研究で初めて機械学習を使った画像診断支援に挑戦した。その経緯や、今後についてお伺いした(2018年10月29日にインタビュー)。
カプセル内視鏡AIを始めた経緯をお伺いできますか?
山田 カプセル内視鏡は1症例当たり、6万枚の画像がビデオの状態になっています。撮影時間は8~10時間なので、20~25倍速で見ているのですが、それでも熟練した医師でも30分はかかります。それを見落としがないように、というのと時間がかかるところをAIでサポートしてもらいたいと始めました。
青木 カプセル内視鏡検査は、胃カメラや大腸カメラと異なり検査件数はそれほど多くはありませんが、一人の検査にかかる読影医の負担が他の検査よりも格段に大きいのが課題です。
実際にはどのような用途で使いますか?
青木 カプセル内視鏡では、6万枚の画像の中で病変は1-2枚しか映らないことがあります。カプセルはコントロールできないので、病変の部分だけを集中的に撮るといったことができません。ダブルチェックをしていますが、こうしたシステムで、ダブルチェックのどちらかを補うことで、人の手や集中力の負担を減らせると考えています。
今回機械学習の学習用の画像を約5千枚使われていらっしゃいますが、5千枚あれば十分な精度のでる画像診断支援システムが作れるのでしょうか。
青木 AIのアルゴリズムはAIメディカルサービスと共同研究をしているのですが、そこからは、ひとつの病気で画像が千枚以上あればやる価値はあると言われています。カプセル内視鏡検査や画像自体がそれほど多くないのですが、5千枚集められて、十分な検出になっていると思っています。
これまでもこうした画像診断支援の研究をされていたのでしょうか?
山田 これまではないですね。CAD(コンピュータ支援画像診断)をやっていたこともないですね。
青木 AIメディカルサービスでこれまで胃や大腸といった内視鏡に特化した画像診断支援の研究をしていますが、小腸はされていない。我々はこれまで小腸のカプセル内視鏡をやっていて、実際に画像診断支援の実用化に向けて進めているところを一緒に進めることで、カプセル内視鏡AIの臨床応用に近づければと考えています。
いつくらいから始められたのでしょうか?
山田 AIメディカルサービスに相談を始めたのが今年の2月で、研究のために学内の倫理委員会を通ったのが5月ですね。
AIメディカルサービスは昨年、ピロリ菌感染の診断支援の研究を(大阪国際がんセンター消化管内科診療主任の)七條智聖先生が中心になってされました。七條先生はここ(東大消化器内科)のご出身で、「やってみたいんだけれど」と相談したらとんとんと話が進みました。
いったん会社に伺って、どうやればいいのかと相談しました。ほかが絶対にやっていないので、小腸のカプセル内視鏡をやろうと話しました。カプセル内視鏡の読影は、我々が実際に日常の臨床で困っているので、その解決する方法がありそうだと始めることにしました。
画像の収集とアノテーションは先生方でされたのですか?
山田 そうですね。アノテーションはネットワークを介して、AIメディカルサービスが提供しているソフトを使いクラウド上で作業しました。ブラウザで作業できるので、家でもどこでも作業ができます。画像は匿名加工してあるので、どこで作業しても大丈夫です。
それまでも先生方は機械学習についてお詳しかったのでしょうか?
山田・青木 いえ、全く。やったことはないです。
山田 ゼロから、教えてもらいながら勉強しました。
実際に機械学習で画像解析をしてみて、いかがでしたか?
山田 結構いいなと。一回目の解析であの結果が出たので。まずまずいいなと思いました。
大変だったところは?
山田 アノテーションを付けるところです。基本は医師の診断を(機械に)覚えさせるのが目的なので、自分たちでアノテーションを付けます。結構大変ですが、家へ帰ってからとか空いている時間を使ってアノテーションを付けていました。
疾患の検出や精度を上げるためにはアノテーションを付いた画像データが必要ですが、カプセル内視鏡の画像データは十分にあるのでしょうか?
山田 東大では1000症例以上ありますし、共同研究施設の症例も併せると十分にあると考えています。
青木 病変がない画像も含めて大量にあるのですが、アノテーションに時間がかかります。アノテーションを付けて精度を上げるか、ある程度精度が出たら実用化に持っていくか、その折り合いが必要だと思います。
山田 実際に使うためのプロトタイプができたら、臨床で使ってみてそれで画像がたまり、そのデータをもとにして精度を上げていくこともできるでしょう。
画像データがあれば検出する疾患を増やしたり精度を上げたりして進められるように思うのですが、実際に臨床現場で使えるようにするにはどのようなステップを踏むのでしょうか?
山田 今のカプセル内視鏡の読影ソフトに実装できるのが一番にいいのですが、メーカーとの関係もあります。多分同じことをメーカーも考えていると思うので、今後共同研究ができるといいかもしれないですね。
今後の展開はいかがでしょうか。
山田 現状はびらん、潰瘍を検出できるだけなので、それら以外の他の疾患、例えば小腸だと血管、隆起性の疾患も重要なのですが、これらも検出できるようにしていければと考えています。 もともと、カプセル内視鏡は消化管の原因不明の出血を対象にしているので、それらのメジャーな病気がすべて引っかかるようにできればと。それでうまくいきそうなら前向き研究をしようと思います。
山田篤生(やまだ・あつお)
2001年山口大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院、関東中央病院での研修を経て2004年より東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程、2009年より東京大学医学部附属病院消化器内科特任臨床医、2011年より同助教。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本カプセル内視鏡学会認定医、日本内科学会認定医。
専門は消化管で特に下部消化管出血や小腸疾患を中心に診療や研究に取り組んでいる。
青木智則(あおき・とものり)
2010年東京大学医学部卒業後、国立国際医療研究センター病院での初期研修・消化器内科後期研修を経て、2013年より東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本内科学会認定医、日本カプセル内視鏡学会医。現在の研究領域は消化管出血や小腸疾患。
長倉克枝 m3.com編集部