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iPhoneアプリで花粉症状の軽減目指す―順天堂大眼科学教室助教・猪俣武範氏に聞く(1)

2019年3月20日(水)

医療AIに取り組むトップランナーインタビュー

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花粉症やドライアイなどの症状をスマートフォン上で気軽に検査することで、重症化を防いだり予防したりする新しい診療補助アプリが開発されている。ドライアイを患う人は、日本では2200万人、世界では10億人にも至ると推測されている。しかし、重症化しない限り病院で診療を受ける機会はそう多くない。果たして、スマホアプリという形で重症化の兆しを捉えることはできるのだろうか。

花粉症に対するアプリ「アレルサーチ」およびドライアイに対するアプリ「ドライアイリズム」を開発した順天堂大学医学部眼科学教室・助教の猪俣武範氏にアプリ開発および今後の展開について話を伺った。


「ドライアイリズム」および「アレルサーチ」とは、どのようなアプリなのでしょうか。

2016年11月2日にリリースした「ドライアイリズム」には大きく2つの機能があります。1つ目は「ドライアイ指数」を判定するための機能です。ドライアイ指数とは、iPhoneのカメラを用いて測定する実用視力およびまばたき測定、そしてドライアイの疾患特異的な質問結果から導き出す指数です。この指数をもとに、これまでの臨床検査と現在のドライアイの状態を比較することができます。

2つ目は、ユーザーのライフスタイルのログを集める機能です。上記の質問事項に加え、身長、体重、性別などの基本情報や既往歴、運動習慣、ディスプレイを1日にどのくらい見ているか、点眼薬の種類、コンタクトレンズの使用の有無、コーヒーの飲料回数などライフスタイルに関する質問に答えてもらう事で、ドライアイとの関連性を調べます。このアプリを用いることで、見落とされがちなドライアイの症状を認識してもらい、重症化を防ぐことを狙っています

dryeye

「ドライアイリズム」画面イメージ

2018年、「ドライアイリズム」にて収集したデータをもとに、ドライアイの重症化に至る因子を同定した研究を科学雑誌『Ophthalmology』に発表しました。対象期間は2016年11月から2017年11月までの1年間で対象者は、1万8225ダウンロードのうち、基本情報および生活習慣を入力いただいた5265人としました。またこれまでの我々の研究から、ドライアイ患者では最大開瞼時間(まばたきをできるだけ我慢できる時間)が有意に低下しており、最大開瞼時間が12秒以下の場合は、ドライアイである可能性が高いことが明らかになっており、今後は「ドライアイリズム」で収集したまばたき計測のデータと検証する予定です。

2018年2月1日にリリースしたもう1つのアプリ「アレルサーチ」は、主に花粉症の症状と情報を提供することで、ユーザーに花粉症の予防行動を取ってもらうことが狙いです。このアプリでは、入力していただいた花粉症の自覚症状と、iPhoneカメラでユーザーに眼を撮影してもらうことで、その充血度から花粉症の度合いを測定しています。また、本アプリを使用しているユーザーの位置情報を日本地図上に示すこと(みんなの花粉症マップ)で花粉の飛散状況を可視化し、花粉症予防に役立ててもらおうと考えています。こちらのアプリでも、基本情報と生活習慣の情報を入力してもらうことで、その関連性を調べています。リリースして約1年経ちますが、現在、約7500人にダウンロードいただいています。

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「アレルサーチ」画面イメージ

このアプリのベースとなる「ResearchKit」とはどのようなものなのでしょうか。

ReaserchKitとは、Appleが提供する医学研究用iOSプラットフォームです。オープンソースフレームワークであるResearchKitを使ってアプリケーションを開発することで、より簡単に被験者を登録し、研究を行うことができます。また、オシャレでユーザビリティを意識したテンプレートや同意・質問テンプレートなどもそろっているため、開発にかかる費用および時間を圧縮することができるというのも大きな利点です。

現時点では、Appleと議論して開発を進め、日本国内において1疾患につき、1つのアプリしか作成できないようになっています。同じ疾患に対して似たようなアプリが複数あることで、ユーザーが選択に迷ってしまうことを防ぐための措置と考えられます。そのため、花粉症およびドライアイに関してはそれぞれ、「アレルサーチ」と「ドライアイリズム」のアプリしかありません。ただし、アメリカでは似たようなアプリがいくつかあります。

さらにResearchKitは、健康関係のデータをiPhoneの『ヘルスケア』アプリに連携させる、開発者向けのツールである「Healthkit」と組み合わせることで、脈拍や生活習慣データを効率よく集めることができます。ResearchKitを用いたアプリは国内に17個あり、順天堂大学ではその中の7個の開発を行いました。

研究において、これらのアプリを使うことのメリットとデメリットは何でしょうか?

まず、「リアルワールドデータ」を使って、複数の関連因子を解析できる事が最も大きなメリットです。また、日本全国にわたる多くの被験者から症例データを簡便に集められる事も大きな利点です。さらに、アプリを継続的に使用いただくことで、頻回データが得られるのも特徴です。開発費用の面でも、ReaserchKitを使用することで研究開発費を抑えることができます。

一方、デメリットとしては「想起バイアス」が問題となります。想起バイアスとは、ユーザーが質問に答える際に、記憶違いで答えてしまうことによって正確性が失われる偏りのことです。またアプリの性質上、被験者がiPhoneユーザーに限られることや、比較的年齢が若い方に限られるという「選択バイアス」も生じます。

実際、「ドライアイリズム」ユーザーの年齢は27.2±12.4歳であり、65歳以上は全ユーザーの0.8%であるため、実際の年齢分布と大きな乖離があります。加えて、ユーザーの居住地についても、現時点では大都市圏に偏っています。しかし、これらのデメリットや偏りは、使用ユーザーが増えるとともに、アプリが使用される年月が伸びることによって補正されていくと考えています。さらに、今後Android版も作成することで端末の偏りも軽減できると考えています。(後編に続く)


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