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AI Lab プロジェクト医療×AIの発展にご協力いただける方を募集しています

レセプト査定を減らし、業務負荷を削減する「AIレセチェッカー」開発ーMedical AI LABのCTOで佐々木研究所附属杏雲堂病院院長の相馬正義氏インタビュー

2020年4月13日(月)

2020年2月、株式会社Medical AI LAB(メディカルエーアイラボ、以下MILAB)が開発する、人工知能(AI)によるレセプトチェックシステムについて、東京大学医学部附属病院とソフトウェアライセンス契約締結並びに業務保守委託契約を締結したと発表した。MAILABのCTOを務めるのは、内科医で公益財団法人佐々木研究所附属杏雲堂病院院長の相馬正義氏。医師として、同時に病院経営の立場から、解決するべき課題としてレセプトチェックの改善に着手した経緯、実際の開発に際して行っている作業など、詳しく話を伺った。

レセプトは病院収入に直結する非常に重要な作業

AI技術を活用したレセプトチェックシステムを開発された経緯を教えてください。

3年ほど前に、友人(MILAB現COOの無相大拙氏)がAI開発会社に関わっているというので、何か医療のためになることを、AIを活用してできないだろうか、と考えて取り組んだのがレセプトチェックシステムです。

医療に関するAIって、いろいろ開発している例は聞きますけど、臨床現場に導入するのは難しいことが多いですよね。医療には幾つものステップがあり、それに沿って細かく開発するとコスト的に合わなかったり、判断責任の所在を明らかにしなければならなかったりすることも難しいことのひとつです。AIで医療の何かを置き換えたくても、現実的にはなかなか難しいのが実情です。

そんな中でも、レセプトというのは、医療行為の集大成であり、病院にしてみれば直接収入に結びつく、非常に大事な所です。医師も医事課の人たちも、相当な労力を払ってやっていて、医療事務という資格もある。医師の働き方改革が叫ばれている今、効率化できる一番いい場所なんじゃないかと考えました。

AIレセチェッカーの開発を始めて半年ちょっと経ったくらいで、プロトタイプができてきたのですが、触ってみたら「これはなかなかいけそうだな」と感じたので、引き続き開発を続けている最中です。

レセプトチェック作業に対する課題意識はいつからお持ちだったのでしょうか。

もともと若い時から、レセプトのチェックは煩雑で、あまり学術的でも学問的でもない、なんとかウマい方法はないものかと、ずっと考えていました。多くの医師は同じように感じているのではないでしょうか。

レセプトは、入院患者に関しては、担当している医師にチェックが回ってきます。今は高額な投薬や検査があって、レセプトの中で「こういう理由でこういう検査をやりました」「この為にこういう薬を使いました」と症状詳記しなければならない。だから病名を知らない、ということは発生しません。ただ、外来はだいたい、自分の担当している患者さんだけではなくて、手の空いた人が手分けしてチェックしますよね。

診療中は忙しくて病名を登録できないので、登録を後になってまとめてやるということになります。もちろん、皆さんなるべくその場で病名を付けるようにはしていると思います。今の電子カルテは、病名無しの場合はアラートが出るので、付けてないことは分かってはいると思うんです。でも、患者さんを待たせてまで病名付けをやるのかと問われれば、優先度は下がってしまう。

そんなわけで、後でチェックする時に楽にできるようになればいいんじゃないかと思ったわけです。だいたい病名付けのパターンは決まっていますので、これをAIで学習していく。その精度がよければ、最終的に、チェックするだけで済むんじゃないか。最終的な医者のチェックは常に必要なんですが、手間を省けるんじゃないかと考えたんです。

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株式会社Medical AI LABウェブサイトより引用

AIのレコメンド学習を総合的に監修、現在は査定を減らすフェーズへ

AIレセチェッカーの仕組みを教えてください。

AIレセチェッカーでは、病名の付いていないレセプトと、ほとんど病名の付いている提出直前のレセプトを教師データとして、深層学習によって学習させています。こうすることで、レセプトチェックする時にAIが「病名のレコメンド」を出してくれるので、医師は病名を付けるのが楽になります。病院によっては事務の方がある程度病名を付けて、それを医師がチェックするという方式を取ってる所もあります。そういう所では、事務の方が、より正確な病名を付けやすくなるということになります。

相馬先生は開発過程の中でどのような役割を担っておられるのですか。

データ提供の協力病院からデータをもらって、開発側がAIに学習させておいてくれるので、それを受け取り、週末にレコメンドの病名チェックをして開発に戻すというサイクルで作業しています。出てくる頻度の高い病名はすぐに学習してくれるんですが、頻度の低いものはなかなか難しいんですね。ある程度、正解を与えていかないといけないので、それを少しずつやっています。初めは病名のルールを決めていっていましたが、今は「査定」に対する対策を監修し始めているフェーズです。

レセプトって、出せばなんでも審査が通ってお金が払い込まれるわけではありません。大きく分けると、レセプトが差し戻されるパターンには2つあって、それが「返戻」と「査定」です。「返戻」は、再審査のチャンスが与えられて、再度内容を説明すれば払われる可能性があるパターン。一方で「査定」は、基本的に再審査してもらえず支払われない、というパターンです。病名が無かったり、適切な病名が付いていない場合には「査定」になってしまう。後付けしてもダメです。請求の根拠が「病名」なんです。

現状では、病院によって違うけれど、どんなに少なくても請求額の0.3〜1%くらいで「査定」は出てきてしまうんですね。民間はだいたい0.3%くらいの査定に抑えているはずです。大学病院で高いところは0.5%を超えているかもしれません。1%超えてきたら大変です。300億円の売り上げがあったら、3億円支払われないってことですから。「返戻」についても、支払われたとしても時期が半年後くらいになってしまうので、経営的には厳しい内容ですので、病院側としてはなるべく減らしたい。

今、どういう病名付けが査定になってくるのかについてもデータをもらってきているので、発生を少なくするようにチェックをしています。なかなかこれが、AIの学習だけでは難しいので、人間が正解を教えないといけません。AIが査定が出てしまいそうなレコメンドを出してきているときに、修正するという監修を行っています。

病院経営者として、レセプト業務の課題はどのように見えておられますか。

病院経営側としては今の時代、「働き方改革」で残業も減らさなきゃいけないですし、有給休暇も強制的に取らせなきゃいけない。病院は人件費がとても高いんですが、業務の効率化がなかなか難しいんです。患者さんに対して手厚く接していくという仕事だから、そこは当然人件費をかけないといけない。一方で、バックヤード業務であるレセプトや複雑な保険申請にも、熟練した人手が必要で、人数もかかっています。病院が人件費を削減する場合、そういうバックヤードの業務効率化をするしかありません。それを進めていく為にも、このようなシステム導入は非常に有効だと思います。

レセプトって、毎月、月初の決まった期間に提出しないといけないんですね。その期限を超えると請求できなくなってしまうわけですから、医事課の人は「できませんでした」とは言えない。ですからその時期に残業も発生しがちです。レセプトは結構複雑ですし、今は高い診療行為や検査も多いので、もしそれを「査定」にされてしまうと、かなり被害が大きい。医事課の人たちも敏感になっていて、負荷に感じている部分だと思います。

今私は病院の院長ですので、病院の収入というのはすごく大事なことです。「査定」というのは、医療行為をやって、最終的に請求して、それが支払われないということなので、実質的には請求額面の倍の損失なんですよ。非常に損失が大きいので、それはできるだけ少なくしてほしい。査定が少なくなるソフトが開発されれば、病院の経営状態も良くなります。今は人材確保も難しいので、保険申請に関わる人数を減らせる可能性もある。病院としては非常に助かりますよね。

レセプトを審査する側は、どのようなフローで動いているのですか?

いろんな病院の中堅以上の医師に、国民保険や社会保険の団体が依頼してチェックしています。まず病院からレセプトを受け取ったら、事務の方がチェックして、最終的には医師がチェックするという流れです。本当に枚数が多いので、事務の方が「これは査定でもいいですか」等、付箋をつけておいてくれるんだけど、依頼されてる医師は大変ですよ。レセプトを上げる方の精度が上がれば、チェックする方の労力も減りますよね。

自分も若い時は、分厚い外来のレセプトをチェックして、ある程度年を取った後は健康保険から頼まれて審査側でレセプトをチェックしてきました。正直なところ、一⼈の医師としては、自分もレセプトって興味がない行為でしたし(笑)、そんなことに費やす時間があったら勉強に使いたいですよね。その方が患者さんの為にもなります。でも、病院の経営側になるとこのレセプトは非常に重要なことになるんです。だからこそ、本当にいいソフトが開発されると助かると思いますね。

レセチェッカーを始めとして、今後も医療現場の効率化支援の開発を目指す

開発工程で大変だったことはありますか?

エンジニアが一番大変だったんじゃないかな。開発を始めた頃は、エンジニアが保険の仕組みを全く知らない状態ですから、まずそれを勉強してもらう必要がありました。保険の仕組みって、結構複雑なんですよね。何を画面に表示しなきゃいけないか、これとこれがあればこういう管理料を取れるとか、細かいルールがいっぱいあります。開発の初めは、うちの病院の医事課スタッフにいろいろ質問して、自分で勉強していたようです。でも、優秀なエンジニアなので、今はもう医事課のデキる職員くらいの知識レベルにはなっていますよ。

あとは、完成度を上げていくのが大変というのはありますね。半年くらいでそこそこのプロトタイプはできたのですが、そこから今まで、2年弱くらいかけて修正をしています。今後は、このAIレセチェッカーを使ってみた請求結果が2ヶ月後くらいに来ますので、出てきた査定を見て、それを改善させていくというフェーズです。これに数カ月はかかると思います。あともう2〜3カ月でだいぶ精度は良くなると思っています。

MAILABとしては、レセプトチェックシステムは“初め”の仕事です。レセプトはAIが一番入りやすい所だったのでそこから始めましたが、今後はもっと、バックヤード業務に限らず、実際に医療現場で働いている人たちの“効率的でない作業”というのを効率化するシステムや製品を開発していきたいと思っています。

Medical AI LABスタッフ

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