ただともひろ胃腸肛門科院長および、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEOの多田智裕氏が、消化器科領域におけるAI開発の現状について解説・対談を行う連載コラムです。
編集部より:胃がん検診の現場は、内視鏡診断支援AIやクラウドストレージの導入によって大きく変わろうとしている。コラム「多田智裕が語る『内視鏡検査におけるAIのこれから』」第5回では、多田氏と、日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科部長の二神生爾氏および宮城県対がん協会がん検診センター所長の加藤勝章氏との鼎談の様子を2回にわたりお届けします(前編はこちら)。
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鼎談者
二神 生爾(ふたがみ・せいじ)―日本医科大学消化器内科学教授、日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科部長。1990年、日本医科大学卒業。2017年より日本医科大学武蔵小杉病院で勤務。日本内科学会認定・専門医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。
加藤 勝章(かとう・かつあき)―宮城県対がん協会がん検診センター所長。1988年、東北大学医学部卒業。1997年、東北大学医学部附属病院第三内科助手。2004年より宮城県対がん協会がん検診センターに勤務、現在に至る。
多田:AIによる二次読影の負担軽減やクラウドでの画像保存は、集合読影による時間的・場所的課題を解決すると期待しますか。
二神:AIには、読影医の集中力をサポートするという役割が期待できるのではないかと考えています。前述のように川崎市は「AIを用いた胃がん内視鏡画像診断支援システムの構築と海外遠隔診断へのサスティナブルな展開システム」の開発に取り組んでいます(参考:AIメディカルサービス、NEDO事業に採択 「胃がん内視鏡画像読影支援AI」を構築へ)。怪しい病変があるとAIがマークを付け、サポートしてくれるものです。このような存在があれば、内視鏡実施医は非常に心強いと感じるでしょう。
加藤:内視鏡検診においてAIに期待していることは、適切な網羅性を持ったセットとして読影用のファイルを整えること、そして、読影する各画像の中で、疑わしい所見を拾い上げてくれる十分な感度です。AIが疑い所見を感度良くチェックし、再検査が必要かどうかを人間が最終判定するような流れは、今後の胃内視鏡検診のダブルチェックを効率化させていくためにはすごく重要なところだと思います。また、異常所見がない画像をAIにチェックしてもらえれば、読影医の負担もかなり減るのではないかと大きく期待しています。
多田:現在われわれはAI研究において、胃がんや食道がんを始めとして多数の論文を発表しています。直近では胃がんの深達度、鑑別に関するものがありますが、二次読影に関するものもあります。その中で、AIを使って読影すると、読影時間が約4分の1になり、なおかつ人が見逃していた病変を発見できたという結果が出ました。
アップロードした画像にAIをアドオンすると、画像の中からがんの有無をチェックして怪しい箇所をマークしてくれる。具体的な仕様としては、AIが怪しい箇所を重点的にピックアップしてくれて、画面を拡大してじっくり見ることができるようなものをイメージしています。加藤先生が行われているような医師会の先生方の理解を得たシステムがあると、二次読影の精度の向上と読影時間の短縮に役立つのではないかと思い、プロトタイプの開発を進めています。
二神:余計な画像をチェックしてそれをなくす、病変部分をクリアにチェックしてくれるというシステムは非常に良いと思います。
加藤:拾い上げの感度を上げて、注意喚起をしてもらうのは非常にありがたいシステムだと思います。たくさんの画像を読影する際、自分が普段撮っているのとは違う、系統立った画像ではないものであった場合、非常に頭が混乱します。また、どうしても人間は画像の中心に目が行きますが、見逃しは画像の端の方にありますから、AIによるアラートシステムは非常に良いと思います。
多田:我々は既に10万本弱の高画質動画を集めて開発を進めています。今後、検診のデータも動画で保存し、その中からAIが網羅的に効率良く画像を抽出してチェックしていきたいと考えています。撮影した動画までチェックできるような方向で製品開発を検討しています。
加藤:動画の段階で最適画像をAIが抽出して、一つのシリーズを作ってくれる。それを読影でチェックする形は非常に理想的な形ですね。
多田:クラウドシステムは全国でも他にない試みですが、地域的な医師不足問題や地域格差の均てん化の解消にも繋がるとお考えでしょうか。
加藤:われわれはいま、仙台に加えて近くの小さな自治体でも同じようなシステムで内視鏡検診を行っています。今後、県全体の取り組みとして、広域医療圏で内視鏡検診を受けることができ、胃X線検診も含めて一元的に管理できる検診データ管理システムを構築しようと考えています。
広域で内視鏡検診を受けられるようにするためには、胃内視鏡検診にAIを然るべき形で応用した遠隔読影システムを広域医療圏で構築し、読影などの省力化、効率化をできるだけ図ることが今後大きな課題だと思います。将来的には、広域医療圏の中核となる基幹病院や読影センターにAI診断システムをハブ的に置いてダブルチェックのサポートを行い、その結果を中央データセンターに集積し、要再検査例や問題症例などについては中央の専門医の目をくぐらせる2段階の構えで管理できれば良いですよね。そのためAIには非常に期待しています。
多田:最後の話題になりますが、新型コロナウイルス感染症の影響で、検診は今後どう変わっていくとお考えでしょうか。
二神:川崎市では、今は胃がん検診を再開しているのですが、一時的に休止に追い込まれました。現在、どういう点に注意して内視鏡診療を行えばよいか、徐々に分かってきてはいます。感染力の非常に強いウイルスですが、検診や内視鏡手技をしないと、早期がんを見逃してしまう、あるいは治療できる人ができなくなってしまうことが後々生じてきますので、今後も試行錯誤しながら続けていく必要があるだろうと思います。
加藤:宮城県の住民検診は、4、5月は9割方ストップしましたが、今はほぼ通常通りになっています。ウィズ・コロナの時代では、検診が持つ集団性に伴う感染リスクにも十分、配慮しなければなりません。中長期的に見れば、がんは日本人の死亡原因のトップであり、疾病負荷が高い疾患ですから、がん検診を受けることのメリット、デメリットのバランスを考え、その人にとってのがん罹患リスクなどを考慮しながら、必要ながん検診を受けていただくべきだろうと思います。今後、長期間ウィズ・コロナ時代が続くとすれば、三密を回避しながら、新しい生活様式にマッチしたがん検診の提供体制を考えて、がん対策を継続していかなければならないと考えています。
多田:検診も、単に集めて検査すればいいという段階から、よりレベルアップしなければならないですね。二神先生、加藤先生、今日は長丁場でしたが、ありがとうございました。
多田智裕 ただともひろ胃腸肛門科院長、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEO
1971年生まれ。東京大学医学部ならびに大学院卒。東京大学医学部付属病院、虎の門病院、多摩老人医療センター、三楽病院、日立戸塚総合病院、東葛辻仲病院などで勤務。2006年にただともひろ胃腸科肛門科を開業し院長就任。2012年より東京大学医学部大腸肛門外科学講座客員講師。浦和医師会胃がん検診読影委員。日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。『行列のできる 患者に優しい“無痛”大腸内視鏡挿入法』など著書複数。