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臨床研究をするうえでAIは武器に―東京大学医学部付属病院循環器内科大学院生・篠原宏樹氏に聞く

2020年4月20日(月)

医師ら医療者自身がデータやプログラムを扱い、医療データを活用する取り組みが進みつつある。本シリーズでは、データサイエンスやAIなどを学ぶ医師ら医療者に、その具体的な取り組みについてお伺いします。

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東京大学医学部附属病院では今年1月から、循環器内科助教の小寺聡氏が主宰する、AI(人工知能)の勉強会が開催されている(小寺氏については『医師がゼロからAI学ぶ、半年で論文投稿ー』を参照)。勉強会参加者は、同病院に勤務する医師ら大学院生。参加した2人の医師に、この勉強会を通じて得た経験についてお伺いした(1人目は『臨床と研究の傍ら1日2時間3か月間AIを学ぶ』を参照)。2人目は、循環器内科医で大学院生の篠原宏樹氏(2020年3月31日にインタビュー)。

先生がAIの勉強会に参加された経緯をお伺いできますか。

2019年4月から半年間、米マサチューセッツ総合病院(MGH)に留学して冠動脈血管内画像の研究をしていたのですが、昨年10月に帰国して、指導医の小寺先生から勧められたことがきっかけです。また、MGHにいたときに、工学系のグループと共同研究の話をしたことがあったのですが、その際、工学系の背景があると医学系の研究でもいろいろなことができると感じたことも頭にありました。臨床研究で統計処理にパッケージソフトを使うことが多いですが、自身でプログラミングをすることで、異なった解析手法を使うことができると感じました。私はそれまでプログラミング経験はなかったのですが、昨年12月から独学でPythonの勉強をはじめました。

勉強は具体的にどのように進められたのでしょうか。

Pythonの教科書とオンライン講座でプログラミングの勉強をしました。12月中にはその上で機械学習の勉強をして、1月に入ってからは、TensorFlow(機械学習のソフトウェアライブラリ)とKeras(Pythonで書かれたニューラルネットワークライブラリ)に関する教科書を使って勉強をしました。1日3〜4時間をこれらの勉強に当てていました。小寺先生が主宰したAIの勉強会が1月から開催されていたのですが、その勉強会の内容を先取りしたような内容を行っていました。

始めたばかりの頃は、「プログラミングは難しい」というハードルが高いイメージがあったのですが、最初の1カ⽉間勉強すると、「そうでもないかもしれない」と思うようになりました。今は、インターネットでツールや情報が手に入りやすく、初心者が勉強しやすい環境にあると思います。例えば初学者がつまずく点は他の人もつまずくことが多いので、その解決策をネットで発信している個人が多くいます。1カ⽉くらい経つと、どういうコードを書いたらどう動くのか、わからないことがあったらネットでどう検索したら解決策にたどり着けるのか、という感覚がわかるようになりました。

AIでどういったことをされたのでしょうか?

私は専門がカテーテル治療で、血管内画像の研究をしています。画像を扱うということでAIによる画像認識に興味があったので、1月に入ってからはディープラーニング(深層学習)での画像認識に対象を絞って勉強しました。

血管内超音波検査(IVUS)などの血管内画像の検査では、不安定プラークなどの病変を診て将来の心筋梗塞リスクを予測してカテーテル治療を行います。でも、その観察した不安定プラークが真に心筋梗塞を引き起こしているかの予測は完全にはできていません。また、安定した狭心症の場合はカテーテル治療を行うことが本当に患者さんの利益となっているかに関しても議論となっています。現状の研究の延長線上では正確な予後予測やリスク評価や層別化が難しく、虚血性心疾患の領域の研究は行き詰まっていると個人的には感じています。

こうした中で、AIは、画像だけではなく血液検査データなどを含めた時系列データもまとめて扱うことができるので、そこから正確なリスク評価や予後予測を行うことや、カテーテル治療の治療効果を上げることに繋げられればと考えています。

IVUSの画像から血管の内膜や外膜を機械学習モデルで認識するという先行研究があるのですが、内膜等だけでなく石灰化した部分などの病変の組織も含めてセグメンテーションして認識するモデルを作っています。もちろん専門医であれば画像を見ればある程度簡単に判別できるのですが、慣れていない人ではこうしたガイドが有効だと考えています。

苦労や困ったことはどんなことでしょうか。

困っていないことがないくらいです。プログラミングの方法でわからないことは、主にインターネットで調べています。具体的にはGitHubやkaggleでの議論やサンプルコードを読み込み、参考にしています。周りに同じようなことをやっている人がいないのですぐに人に聞くのは難しいですね。

今後についてお伺いできますか。

4月からはIVUSの画像認識について、医療機器メーカーと共同研究が始まります。博士課程修了後も診療をしながらAIを使った研究をやっていく予定ですが、臨床研究をする上でAIは武器になると考えています。

プロフィール

shinohara

篠原 宏樹(しのはら ひろき)
東京大学医学部附属病院循環器内科大学院生
2011年群馬大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で初期研修、帝京大学ちば総合医療センターで循環器内科後期研修を修了。2017年東京大学医学部附属病院循環器内科大学院入学。日本内科学会認定医。日本心血管インターベンション治療学会認定医。AIを利用することで、より良いカテーテル治療を提供できるようプログラミングの勉強中。

長倉克枝

長倉克枝 m3.com編集部