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精神科医が「バーチャルYouTuber」として活動するわけ―一林大基氏インタビュー

2019年3月26日(火)

医療AIに取り組むトップランナーインタビュー

» 連載1回目から読む

「どうも、バーチャル精神科医クロネコ(仮)です。お花見だったり、お酒を飲むことが増える季節ですね。今回はお酒と認知症について、すこしお話をさせていただこうと思います」――。女の子のキャラクターが⾝振り⼿ぶりに加え、字幕やイラストなどを使い、精神疾患や精神科についてわかりやすく解説する。そんなYouTubeのチャンネルが昨年11月に開設された。

運営するのは石川県の病院で精神科医として働く一林大基氏。YouTubeでキャラクター(アバター)を自在に動かして、あたかもYouTuberのように発信する「バーチャルYouTuber(VTuber)」が一昨年頃から注目されている。一林氏は、VTuberである「バーチャル精神科医クロネコ(仮)」として活動を始めた。一林氏は、VTtuberの活動はあくまでも「趣味」と言う。始めた経緯、その狙い、今後についてお伺いした(2019年3月15日にインタビュー)。


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一林氏が運営する「クロネコ仮チャンネル」より

2018年11月にYouTube上に「クロネコ仮チャンネル」を開設し、VTuber「バーチャル精神科医クロネコ(仮)」として一般の人への精神医学の知識などを伝えていらっしゃいます。始めることになった経緯を教えてください。

VTuberを始める以前から、匿名質問をSNS(ソーシャルネットワークサービス)で受け付ける「Peing(質問箱)」というサービスを使って、Twitterで精神医学などに関する質問に回答していました。

またもともとYouTube、アニメ、マンガ、音楽、ゲームが好きなのですが、VTuberも好きで配信を見ていました。「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」や「電脳少女シロ」といったVTuberが好きです。

ところで、自閉症スペクトラム障害や強迫性障害、統合失調症では人の視線が苦手で、医師の目を見て話せない患者さんもいます。でも、VTuberのようにキャラクターの目ならば、そうした患者さんでも目を見て話を聞けるのではと考えました。そこで、自分でもVTuberをやってみようと思いました。

「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」は女の子のアバターですが、声はおじさんの地声です。「バーチャル精神科医クロネコ(仮)」さんも女の子のアバターで声は先生の地声ですが、これは関係があるのでしょうか?

のじゃロリおじさんはとても好きですが、真似してできるものではありません。

そうではなくて、精神科の患者さんは医師の生身の声を聞くほうが安心するのではと考え、自分の声で話しています。患者さんと話すときは、自分の声の方が良いと考えています。

「バーチャル精神科医クロネコ(仮)」はひとりで始められたのでしょうか?

はい。VTuberの3Dアバターを手軽に作ることができるVTuber支援サービス「Vカツ」が昨年夏ごろにリリースされ、これがあればアバターを簡単に作れると、始めることにしました。

それまでプログラミングの経験はありませんでしたが、土日にオンライン学習の「Aidemy(アイデミー)」などで勉強し、ゲームもアプリも自分で作れるようになりました。VTuberは、始めてから1~2か月ほどで配信までできるようになりました。VTuberの配信には、ヘッドマウントディスプレイ「VIVE」を購入し、自身のパソコンを使っています。

それはすごいですね。

始めるときに、「こういうことをやりたい」と同僚の医師に言ったら、「気が狂ったのか」と言われました(笑)。

VTuberならでは、一般の方に伝えることができるのは、どのようなことでしょうか?

精神医学の対象は若い方が多いですが、中高生や大学生といった10代の方は、そもそも精神医学の知識や精神科になかなかたどり着きません。精神医学の情報は、ネットニュースなどで見ても、文字の羅列ばかりで分りにくい。若い人にはなかなか伝わりません。また、特に統合失調症では、治療開始が早ければ早いほど治療効果もありますが、まだまだ「精神科はアンタッチャブル」という認識があり、親が精神科を受診させてくれないという子もいます。

そこで、VTuberなら少しでも分かりやすく伝えられるのではと考えました。そうした若い方が、精神科で治療を受けるためのきっかけに少しでもなればと考えています。僕はVTuberの配信でも、厚生労働省や正式なガイドラインなどにリンクを張っています。また、精神疾患では、精神科だけでなく各自治体に設置されている精神保健福祉センターや保健所で支援を受けられるケースも多く、本来は最初に行くべきなのですが、多くの人は知らずにいます。そうした啓発を図っています。実際、VTuberの配信にコメントをくれるのは、中高生や大学生が多いです。

VTuber以前から、Twitterで一般の方からの質問に回答されていたということですが、これはどのような経緯で始められたのでしょうか?

同僚の医師に「今後生きていく上でSNSは必要」と言われ、2018年5月からTwitterを始めました。それまではSNSは苦手でやったことがありませんし、SNSを通じて一般の方に医学の専門知識を伝えることに懸念もありました。

始めた当初はよく行く喫茶店や気になった論文などをツイートしていたのですが、夏ごろから「Peing(質問箱)」を使い始めました。そうすると、精神医学に関する質問もたくさん来るようになりました。なるべく多く答えようとこれまでに2000件ほど回答を返しているのですが、まだ未回答の質問が1800件ほど残っています。

とても人気ですね。VTuberを始められてからで変化はありますか?

質問箱やコメントで、「自分はこれに困っている」といった、自分自身の話をしてくれる方が増えました。VTuberでは実際の顔ではありませんが、アバターで話しかけていることで、より身近に感じてもらえるようになったのかもしれません。

今後についてお伺いできますか。

VTuberは続けられる限り続けたいと思っています。精神医学の中で一般の人に知ってもらいたいことを伝えるために、30~40本は作る予定です。一時期忙しくて更新できなかったのですが、「(VTuberを)やってほしい」というコメントがありました。

ただ、VTuberはあくまでも趣味としてやっています。お金をいただいているわけではありません。生放送でやってみたいのですが、診療行為ではないので、グレーなのではないかと気を付けています。

将来は、医師をしながら起業することも考えています。病まない社会を作るには、医療だけでは限界があると思うんですね。かつては医師は、勤務医、開業医、研究医くらいしか選択肢がなかったと思いますが、第4、第5の選択肢を作っていければと考えています。

プロフィール

一林 大基(いちばやし・たいき)氏
精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。
2012年金沢医科大学卒業、昭和大学病院などを経て石川県内の病院勤務。Twitterのアカウントは@ichiipsy

長倉克枝

長倉克枝 m3.com編集部

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