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オールジャパンで皮膚画像を収集―筑波大皮膚科・藤本学教授、藤澤康弘准教授に聞く(2)

2018年8月21日(火)

医療AIに取り組むトップランナーインタビュー

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 専門医よりも精度よく、人工知能(AI)で皮膚がんを判別する――。今年6月、筑波大学と京セラコミュニケーションシステムの研究グループがそんな研究論文を発表した(プレスリリースはこちら)。約4800枚の臨床写真を使いディープラーニング(深層学習)に学習させることで、感度96.5%、特異度89.5%で皮膚腫瘍の良性と悪性の判定をできるようにした。これは皮膚科専門医を上回る精度と言う。

 画像認識の精度を飛躍的に向上させるディープラーニングを用いた、画像診断支援への期待が高まっている。ただ、ディープラーニングの精度を高めるには、診療診断結果などの正解データが付与された画像のデータセットが必要だ。そこで今年5月、日本皮膚科学会は日本医療研究開発機構(AMED)の事業の一環として皮膚疾患の臨床写真を収集しデータベースを構築するプロジェクトを開始した。

 筑波大学医学医療系教授で日本皮膚科学会AIワーキンググループ委員長を務める藤本学氏と、同准教授で京セラコミュニケーションシステムとの共同研究を行った藤澤康弘氏に、皮膚科での今後の画像診断支援についてお伺いした(全2回の連載)。

 前半の『皮膚臨床画像から専門医よりも精度よく疾患判別』はこちら


筑波大の症例だけではデータセットを作るための画像データが足りないのではないでしょうか?

藤本 そのために、大学単位ではなくオールジャパンで共同して皮膚疾患の画像データベースを作りAI開発を進める必要があります。日本皮膚科学会では、2016年終わりにAIワーキンググループを作り、私が委員長を務めています。厚生労働省では、画像診断支援システム開発に向けた画像データベース作成を各領域の学会主導で進めていく計画で、日本医療研究開発機構(AMED)の助成事業として画像データベース構築事業を進めています。日本皮膚科学会でもこの事業に応募し、「皮膚疾患画像ナショナルデータベースの構築とAI活用診療支援システムの開発」が採択され5月から事業がスタートしています。

具体的にどのように画像を集めていくのでしょうか?

藤本 日本皮膚科学会全体のプロジェクトですが、筑波大のほか、東北大学や新潟大学など参加施設15大学が皮膚病変の臨床写真の収集を開始します。当初は病変の臨床写真が中心ですが、今後はダーモスコピーと病理画像も集める計画です。また、参加施設も拡大していきたいと考えています。

 私が委員長を務める日本皮膚科学会AIワーキンググループが中心になってAMEDの事業のコンセプトを作って進めています。

日本皮膚科学会でAIワーキンググループを作られた経緯を教えてください。

藤本 いま社会全体でGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)といった巨大IT企業に日本がのみ込まれるかもしれないという危機感がありますが、同じような懸念が皮膚科領域でもあります。海外では国家プロジェクトとして進められているケースもあります。

 GAFAは大量のデータを集めて、それらをもとにAIを開発しています。医療やヘルスケア領域でも開発を進めていますね。画像診断支援のAIも、データを収集できるところが強みを持ちます。

藤本 そこで、当時の日本皮膚科学会の理事長だった島田眞路先生に、「このままだと日本の皮膚科全体がまずい。今が日本のラストチャンスだ」という話をしました。そうしてワーキンググループを作りましょうということになったのです。

画像診断支援のAIは、皮膚科領域にどのような形で入ってくるとお考えでしょうか?

藤本 今後入ってくることは間違いないと考えています。最終的には皮膚疾患で困っている人の役に立つことが一番重要ですが、ただどのような形で臨床現場に入ってくるかが課題です。診療の質が下がるようなことになってはいけません。

 現在の皮膚科診療は医師の視診が中心で、ダーモスコピーやエコーなどを除いては診断支援機器のようなものはあまりありません。そこにどのようにAI診断支援デバイスが入ってくるのか、最終的にどのような機器になるかという明確なビジョンは今のところありません。最初は、スマートフォンなどで撮影してインターネットを介した形態で使われるのかもしれません。関係省庁でもどのような方針で臨床現場で実際に使うAI機器を認めていくのかは現在議論が行われているようです。とはいえ、考えてばかりいても仕方がないので、今はまず画像を収集して、画像認識の精度を高めていくといった試みを始めて走り出しつつ、今後具体的にどのような形の機器にしていくかを考えているのが現状です。

 いずれにしても臨床現場で使うようになるためには企業と一緒に進めていく必要があります。日本皮膚科学会の取り組みにも興味を持ってくれている企業もあります。

画像診断支援として臨床現場で活用されていくために、日本皮膚科学会はどのような位置づけにあるのでしょうか。

藤本 最も困るのは、様々な画像診断支援AIが世に出てくるようになったときに、その性能は玉石混交である可能性があり、質の悪いデバイスが広まってしまうようなことです。そのためには効果やリスクをきちんと評価できるようにする必要があります。学会として「推奨できる」「推奨できない」といった評価をするなどして、クオリティコントロールができるようになるといいと考えています。そのためにもまずはデータベースを構築していく必要があるとしてプロジェクトを進めています。


筑波大皮膚科・藤本学教授、藤澤康弘准教授に聞く

- (1) 皮膚臨床画像から専門医よりも精度よく疾患判別 - (2) オールジャパンで皮膚画像を収集

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