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アプリで治療する未来を創造する―株式会社キュア・アップ代表取締役CEO佐竹晃太氏に聞く

2019年6月3日(月)

医療現場での課題解決に向けて取り組む、起業家医師(アントレドクター)にお伺いするインタビューシリーズ

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スマートフォンなどの携帯端末を利用して医療行為や診療サポートを行う「モバイルヘルス」が今、注目されている。株式会社キュア・アップは、禁煙、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、高血圧といった疾患についての治療用アプリである「CureApp 禁煙」、「NASH App」、「HERB」と、それらの開発知見をもとに作られた健康支援アプリとオンラインカウンリングを組み合わせた法人向けプログラム「ascure(アスキュア) 卒煙」、「ascure STEPS」などを提供するスタートアップ企業である。

治療用アプリのうち「CureApp 禁煙」に関しては2018年に治験を終え、薬事承認に向けて準備を進めている (詳しい治験結果はこちら [キュア・アップ、国内初の禁煙治療用アプリを薬事申請 治験結果も発表])。承認されれば日本初となる治療用アプリとなる見込みだ。アプリによる診療サポートによって、医療を取り巻くさまざまな課題はどのように解決されるのだろうか。株式会社キュア・アップの代表取締役CEOであり、医師の佐竹晃太氏にお話を伺った。


治療用アプリというのはどういったものなのでしょうか?

治療用アプリとは、アプリそのものが治療効果を持ち、医師の診断によって処方されるアプリです。医学的なエビデンスに基づいて診療のサポートを行うという点で、一般的なヘルスケアアプリと大きく異なります。通院と通院の間の空白期間(治療空白)をサポートすることで、患者の行動変容を促し治療効果を出すことを目的としています。患者の治療空白を埋めることで、従来の医薬品や診察だけでは補えない部分に対して、患者ごとに適切な治療介入を24時間提供できるようになります。

キュア・アップ社では、どのような治療用アプリを開発しているのでしょうか?

現在、弊社では、禁煙、NASH、高血圧に対する3つのアプリの開発を行っています。アプリ開発には、医師や看護師、臨床心理士、薬剤師など医療資格保持者も多数携わっています。これらのアプリのうち、慶應義塾大学医学部呼吸器内科教室と開発を進めている「CureApp禁煙」に関しては2018年に治験を終え、現在、薬事承認を目指しています。治験は31施設、約600人を対象に、半年間の禁煙継続率(持続禁煙率)を指標とし、自己申告と呼気CO濃度の2つで禁煙成功の有無を確認しています。

非アルコール性脂肪肝炎に対する「NASH App」は東京大学医学部付属病院と、高血圧治療の「HERB」は自治医科大学内科学講座循環器内科学部門と開発を行っています。これらに関してはphase 2の臨床試験の段階であり、今後も開発と将来的には治験を進めていく予定です。今後、従来の医薬品やハードウェアの医療機器に加わる形で、アプリなどソフトウェアの医療機器による新たな治療効果の創出と普及を行っていきたいと考えています。

さらに、これらの医療向けのアプリで得られた知見やデータをもとに、法人向けのモバイルヘルスプログラムとして、禁煙に特化した「ascure 卒煙」と、特定保健指導に対応した「ascure STEPS」を提供しており、多数の健康保険組合を始めとした法人で導入が進んでいます。

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治療用アプリのコンセプト。株式会社キュア・アップ提供

アプリ開発にあたり、なぜこれらの疾患を選んだのでしょうか?

まず開発に取り組んだアプリは「CureApp 禁煙」でした。その経緯としては、私自身が呼吸器内科の医師であり、禁煙に苦しむ患者をサポートしたいという考えがあったためです。また、アメリカで学んだ公衆衛生学の観点からもたばこが肺癌や多くの疾病のリスクファクターとして重要であることから、禁煙に対する社会的な意義も感じました。さらに、これまでに禁煙治療の医学的なエビデンスが多く蓄積されていますので、これらの根拠に基づけば、良いサービスが作れるのではないかと感じました。

NASHはまだ治療法が確立しておらず、医薬品もない状況が続いています。「NASH App」で患者ごとに適切な形で生活習慣を改善できるよう促し、深刻な事態を未然に防ぐ新しい治療法を創り出すことを目指しています。最後に高血圧に関しては、日本だけで約4300万人の患者がいると推定されており、医療費の負担が大きいことが知られています。また、その治療には生活習慣を改善することが不可欠です。そこで「HERB」を用いて診療ガイドラインに沿ったサポートを行うことで、患者それぞれの生活習慣を改善し、血圧の降下をもたらすことを目指しています。

一般的なアプリと比べ、「CureApp禁煙」を使うことによるメリットについてご教示ください。

診療と診療の間の、医師や看護師などの支援がない家や仕事場などでの時間、すなわち「治療空白」時の孤独な戦いを医学的に信頼できる水準でサポートできることが大きいと考えています。特に禁煙に関しては、ニコチンによる心理的依存の影響が大きく、「つい一本」と吸いたくなってしまうことも多くあるでしょう。しかしこのアプリがあれば、誘惑に駆られた時にいつでも対話型システムで適切な対処法を提案できるため、患者の禁煙に対するモチベーションを保つなど、精神的なサポートが行えます。このシステムは、診療ガイドラインや最新の論文といった医学的なエビデンスだけでなく、禁煙外来の診療現場で使われるテクニックなども加味した上で、患者ごとに個別化された適切な回答を返すように設計しています。

アプリではどのようなデータが収集されているのでしょうか?

ライフスタイルや感情の変化なども含め基本的な生活習慣のデータを収集しています。さらに、自社で開発を進めたIoTデバイスであるポータブル呼気CO濃度測定器や、ワイヤレス体重計と連携することで、「CureApp禁煙」では呼気CO濃度を、「NASH App」では体重データも経時的に収集しています。

今後、どのような疾患に対してアプリを開発したいとお考えでしょうか?

治療用アプリは、生活習慣病だけでなくメンタルヘルスや癌領域、免疫系疾患など様々な病気に対する治療サポートとしてのポテンシャルを秘めていると考えており、今後も開発を進めていきたいと考えています。

医療現場と治療用アプリはどのように連携していくべきだとお考えでしょうか?また、未来の医療はどのように変わっていくとお考えでしょうか?

治療用アプリの強みは、今の臨床の現場だけではカバーできない「診療を受けている時間以外の時間帯」をカバーできることです。診療以外での患者のデータを診察時にフィードバックさせ、診療の価値や効率を上げるサポートを行うために、アプリと臨床現場を連携していきたいと考えています。

いつでも安心して良質な治療を平等に受けられることが、医療のあるべき姿だと思っていますので、テクノロジーを使って貢献できることはどんどん進めていく予定です。例えば禁煙治療を保険内で診療するためには呼気COの濃度測定を行う必要があるのですが、1台10~15万円もするため、これまで自宅で行うことはできませんでした。その壁を乗り越えるために、「CureApp 禁煙」の開発とともに、ポータブル呼気CO濃度測定器を自社で開発し、自宅でも測定ができる手段を整えました。こういったIoTデバイスを用いることで、オンライン診療が保険診療として、より受け入れられやすくなるような環境作りにも貢献していきたいと考えています。

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ポータブル呼気CO濃度測定器。株式会社キュア・アップ提供

今後、オンライン診療や治療用アプリによって、病気の予防や早期診断ができるようになるでしょうか? 佐竹先生が考える理想の医療、将来の医療の在り方についてご教示ください。

現在の公的医療保険制度の中で予防医療までを担うことはなかなか難しいでしょう。しかし、治療用アプリの知見を活かして開発している法人向けのモバイルヘルスプログラムなどを使えば、効果的に予防領域をカバーしていけるのではないかと考えています。

すべての人がいつでもどこでも良質な治療や健康支援を受けることができるように、治療用アプリで診療の効率化と質の向上の実現をし、加えて、健康支援プログラムである「ascure」シリーズを通して予防・未病領域における健康支援ができるようにしていきたいと考えています。

弊社のコンテンツは医学的なエビデンスに基づいているのが強みですので、今後も継続して治療効果や健康支援に関する情報を積み重ねてサービスに反映させ、そこから得られた価値を皆様にお返ししていきたいと強く考えています。

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株式会社キュア・アップ代表取締役CEO 佐竹晃太氏