医療AIに取り組むトップランナーインタビュー
CT撮影に伴う被ばく線量は、胸部のレントゲン撮影と比較しても高いことが知られている。そのため、UNSCEAR、IAEA、WHOなどの国際機関は、特に小児への撮影や同一の患者に対する繰り返し撮影などについて、被ばく線量へ注意を払うことを提唱しており、CTによる被ばく線量の評価は重要な課題の一つとなっている。
日本国内のCT導入台数は約1万3000台と世界と比べても類を見ないほど多く、撮影件数は2005年時点の調査で年間約2070万件を超えると推定されているが、実際の医療現場での撮影の状況や受ける総被ばく線量を把握する体制はいまだ確立していない。
このような問題の解決を図るため、誰でも簡単にCT撮影時の適切な線量条件を解析できる被ばく線量評価システム「WAZA-ARIv2」が運用開始されている。さらに現在、このシステムを改良することで日本全国の医療機関から線量データを自動的に集め、そのビッグデータから放射線診断時の患者被ばく線量を計算、評価、管理するという取り組みが行われている。
WAZA-ARIv2の開発を行う国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所放射防護情報統合センターの古場裕介氏と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 本部基盤部の奥田保男氏にWAZA-ARIv2の概要と、今後の医療被ばく線量評価に関する展開についてお話を伺った。(後半はこちら[ビッグデータから適切なCT撮像を])
WAZA-ARIv2とはどのようなシステムなのでしょうか。
古場 WAZA-ARIv2は、体型や性別、年齢に応じて被ばく線量を計算できるWebシステムです。2015年1月30日から運用を開始しました。成人については、日本人の標準体型をもとに被ばく線量を計算できるという特長を持っています。海外でも被ばく線量を計算するシステムが開発されていますが、WAZA-ARIv2のみ、日本人を含めたアジア圏の体型に対応しているソフトウェアになります。さらに成人男性、女性の体型別、幼児に関しては年齢、体型別と、計18種類に分類して計算することができます(下図)。このように、それぞれの患者に近い標準体型を用いることで、精度の高い線量計算を行えるものとなっています。
もう一つ大きな特長としては、線量単位として、臓器の吸収線量である「グレイ」単位と実効線量である「シーベルト」単位で表示できることが挙げられます。東日本大震災以降、放射線被ばくに対する一般の方の意識も変わってきており、医療被ばくについて説明する機会も増えていると思われます。その際、WAZA-ARIv2を用いて数値を具体的に示すことで、患者には検査におけるベネフィットとリスクを十分理解したうえでCT検査を安心して受けてもらえるようになることを望んでいます。
WAZA-ARIv2は国内に導入しているほとんどのCT機種に対応しており、また無料で利用できますので、ぜひ活用してほしいと考えています。
WAZA-ARIv2は、臨床現場で具体的にどのように活用されているのでしょうか?
古場 どなたでも利用可能ですが、やはり医師や放射線技師に多く利用いただいています。2018年10月の時点でユーザー数は累計1800人を超え、そのうちの約7割が放射線技師です。最近では、シミュレーションを行えるという特長から、放射線技師を育てる大学などにおいて、教育の一環として利用されるケースも出てきています。
WAZA-ARIv2は、CT装置である管電圧や電流に応じて、どれほどの放射線量が放出され、どの臓器にどの程度のダメージを与えるかを数値として示すことができます。そのため放射線技師に関しては、患者への被ばく線量を抑えつつも診断に支障が出ない、という適切な線量を定めるために利用いただくケースが多いです。また医師に関しては、患者から被ばく線量について説明を求められたときに、想定される臓器への影響をWAZA-ARIv2で実際に示しながら説明するという、コミュニケーションツールとして使用いただくケースが多いですね。(後半に続く)
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