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募集中 COVID-19肺炎画像診断支援AI、わずか1分で判定

M3 Supported 2020年7月15日(水)
画像診断支援AIについて
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エムスリー株式会社は6月29日、中国のAlibaba Damo Technology Co., Ltdによって開発されたCOVID-19肺炎画像診断支援プログラム(以下、Ali-M3)の医療機器製造販売承認を取得した。このプログラムは、3067例のCOVID-19患者の検査画像データを含む7038例の検査画像データを用いて開発された。さらにその後、日本国内の検査画像データ約800例を用いた臨床性能試験により、精度評価が行われた。

Ali-M3はどの程度の“実力”なのだろうか。Ali-M3の性能を検証した聖マリアンナ医科大学救急放射線部門講師の松本純一氏に、臨床現場での活用方法およびAli-M3に残る課題点を伺った。


読影医の診断をAIが後押し

今回、Ali-M3の性能を検証する実験に参加されたきっかけについて教えて下さい。

私はもともと、救急領域の画像診断においてAIが利用できないかと考え、実際にいくつかのプロジェクトの開発に参加してきました。その時に、COVID-19肺炎の画像診断支援という、現在最も臨床的インパクトの強いAIが開発されたことを知り、さらにエムスリーからお声がけいただいたことがきっかけで、今回検証に参加することを決めました。

実際、使用してみていかがでしたか。

まず、私個人の読影精度は、正確度が85.3%(感度:89.7%、特異度:83.1%、陽性的中率:72.9%、陰性的中率:94.1%)でした(2020年6月24日現在)。それに対して、同様の症例を用いたAIの読影精度は、感度、特異度、正確度とも数パーセントから20%弱ほど下回る結果となった事から、今回のAIは、読影医のサポートとして用いるのがよいかと思います。一方で、我々読影医が想定していない部分について、「ここはどうですか?」とAIが指し示すこともあり、ハッとさせられることもありました。

また、私たち読影医が画像を読む際は、画像がディスプレイに表示されてから通常で15分程度、きちんと検証しようとすると20分程度、迷う場合には前回画像との比較や臨床情報の詳細な吟味も行ったりしますので、30分以上かかってしまうこともしばしばあります。一方、AIは、我々が読影端末で画像を読み始めようとする段階で既に解析を終えています。

COVID-19においては、早く診断を下して次のステップに進みたいという状況が多々あります。このような状況の際、AIがすぐに判定を下してくれるというメリットは非常に大きいと感じます。実際にAIを使用する時は、AI単独ではなく、読影医と一緒に診断することになりますが、陽性所見であっても陰性所見であっても、「AIもこう言っていたので、自分の診断は間違っていないだろう」と、自分の診断をAIが後押ししてくれる効果は大きいと思います。

臨床現場では、CTをどのように使用するのが効果的でしょうか。

日本医学放射線学会や様々な団体が見解を示している通り、無症候の患者など、検査前確率の低い患者に対してスクリーニング的に安易にCTを用いない方がよいと考えます。

COVID-19肺炎を判定するために行える検査の行いやすさや有病率など、時期によって状況は異なるのですが、これまでの状況ですと、COVID-19肺炎の疑いのある患者において、トリアージ的にCTを用いることができる場面はあると思います。 例えば心筋梗塞の疑いのある患者さんで心臓カテーテル検査を緊急で行いたい場合や、緊急手術が必要な場合、PCR検査を行っている余裕や時間的猶予がない場合もあります。

また当院では、救急搬送の段階である程度COVID-19肺炎の疑いがある患者さんにおいては、病院到着後、救急車から直接CT室へ搬入し、まずCT検査を行ってから診療を開始する「direct CT」というプロトコルもあります。当院では、24時間365日画像診断医による診断を得ることができる環境がありますので、まだ患者さんがCT検査台の上にいらっしゃる段階で画像診断医が即座に判定を行い、患者さんがどの程度のリスクなのかを把握して診療を開始することができています。

外来の発熱患者さんや院内で発症した発熱患者さんにおいても、症状や状況に応じて、PCRや抗原検査にCTを組み合わせながら、少しでも早く、そして精度高く、疑いのある患者さんを拾い上げるようにしています。クラスターがひとたび発生すれば、病院機能を停止しなければならなくなるため、患者さんや医療スタッフへの感染を広げないためにも、医療崩壊を防ぐためにも、また、病院の経営上も、疑い症例を含めて、当該症例をいち早く捉えることは、大変重要だと思います。状況に応じて、各検査の弱点を補うように検査を組み合わせていくことが大切で、各病院で場面ごとのプロトコルを策定しておくことが必要だと思います。

COVID-19流行下における診療の質の向上に

Ali-M3を導入する事で、どのくらい診療の時間は短縮されるのでしょうか。

私は性能検証としてAIを使用したため、「実臨床ではこれだけ診療時間が短くなった」とは示せません。しかし診断のフローを考えた時、臨床医には、読影の結果が出るのをただ待つだけの時間が少なからず存在します。つまり、「CT撮影が行われる→画像が生成される→読影環境に映し出される→読影医が読む→結果を臨床医に伝える」という段階を全て経ないと、臨床医は結果を受け取れないのです。

一方でAIは、画像が生成された瞬間から解析が可能で、1分以内に結果を返します。つまり、我々読影医が読み始める前の段階で判定を終えられるといっても過言ではありません。人間による読影は、長ければ30分程度かかるので、それだけの短縮に繋がると言えるでしょう。

Ali-M3は、COVID-19の流行防止の一助となり得るでしょうか?

はい、AIがSARS-CoV-2の感染拡大を防ぐ効果はあると思います。 なぜなら、患者は24時間/365日いつでも来院されますが、特に救急領域では画像診断医がいない時間帯が多くあるためです。もし、来院もしくは救急搬送された人がCOVID-19肺炎の疑い患者である場合、当直医は感染リスクを背負ったまま診療を行わなければなりません。

しかし、もしここにAIがあれば、24時間/365日、判定することが可能です。AIがその患者をCOVID-19肺炎の疑いが高いと判定した場合、その時間帯に読影医がいなかったとしても、とりあえず隔離などの措置を取って治療を行うこともできます。このように、AIのサポートは画像診断医だけでなく、臨床医の助けにもなり、診療の質を向上させます。その結果、COVID-19の拡大を防ぐことにつながると考えています。

一方で、Ali-M3を使用してみて感じた課題点はありますか?

私は開発者ではないので、このAIが何をどう考えて結論を出しているのかが分かりません。短い付き合いですと、そういったこともあり、信頼関係を築くにはもう少し時間が必要だと考えています。画像診断医同士であれば、結論が異なった場合、議論しながら両者とも納得できる診断を下せるのですが、AI相手だとこのようなことができません。

今回のAIは、3000症例近くの陽性症例を見て学習していると聞いています。そのため、実際、AIの提示してきた所見を見ると「よく学習してきているな」と実感することがあります。しかし一方で、画像診断医であればまずそのようには判定しない、つまり誤って判定しているように見えるものもあり、AIが何をもってそう言っているのか、ということを理解する必要があると思います。

今回のAIはあくまでもCOVID-19肺炎様の「パターン」のCT所見を判定しているのであって、COVID-19肺炎という病気を診断しているわけではない、ということを理解する必要があると思います。 このAIが何を判定しているか、どう考えているか、を正しく理解することで、それ以外の情報との重みづけのバランスを考慮に入れて診療に生かすことができるのだと思います。

日本のAI開発が抱える2つの問題点

続いて、医療AI全般についても、お話を伺えればと思います。今後、医療AIはどのような診療科で活用されていくとお考えでしょうか。

医療業界には非効率的な部分がとても多く、どの領域でも活用できる余地があると考えています。例を挙げればキリがないのですが、たとえば問診に関しては、患者さんに入力いただいた基本事項をもとに、AIが想定される疾患の鑑別診断や必要な検査などを事前に提案し、電子カルテ上に表示するというものも実際にあります。医師が電子カルテの方を向いて問診内容を入力する必要がなくなり、患者さんを診察する時間が増えたり、効率的に診療を進めたりすることもできるでしょう。患者さんとの時間が増え、医師のストレスや無駄な検査も減り、効率的に検査や治療方針の決定も行えるとなれば、大変有用です。

私の専門である救急領域の画像診断支援においても、「画像診断医がいないのでAIが欲しい」という要望は数多くあります。しかし、救急領域で役立つAIはまだ国内では開発途上といった段階です。

なぜ、医療AIの開発は難しいのでしょうか。

医療AIの開発における問題点は大きく2つあると考えています。一つ目は、人材や予算といったリソースの不足、そして二つ目は、機械学習のために必要な膨大な医療情報の確保と個人情報の取り扱いの難しさです。これらのハードルを突破するためには臨床現場と研究者との連携は必須であり、私はそうした役割を担いたいと活動していますが、多くの臨床医にそのような時間はなく、これも大きな課題の一つだと思います。

これらの点において、現状、日本は海外に負けています。しかし、たとえ質の高い海外のAIシステムがあったとしても、国産のシステムを作る意義はあります。国が音頭を取り、さらに積極的に取り組むべきだと思います。

今後医療AIによって、医療現場はどのように変わっていくでしょうか。

まずは「膨大な種類と量のデータをどこからどう扱っていけばいいかわからない」「AIとどう付き合っていけばいいか分からない」という段階を経て、取り組みやすい領域から、分業や置き換え可能なものが明確となり、その後、医師のスキルを強化する領域が現れてくるでしょう。私は、これまでと大きく状況が変化する医療の在り方を考える時、「医療を受ける側、提供する側、双方のために」という視点で、積極的にデータとAIを利活用していくことが必須だと考えています。しかし、日本ではそれは難しいだろう、来るべき時代に間に合わないのではないか、と思っていました。

今回のCOVID-19問題を通して、医療の変革の兆しが少し見えてきました。「医療を受ける側、提供する側、双方のために」より良い医療を実現するためには、国民の意識変容も促しながら、更なる技術の発展に期待したいと考えています。

現在、COVID-19肺炎画像解析AIの無償トライアルを行っています。興味のある方は、下記のボタンよりお申し込み下さい。

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