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色彩基準も均一化、読影医の負担軽減に、―胃腸/肛門科医・多田智裕が語る「内視鏡検査におけるAIのこれから」(4)

2020年9月8日(火)

ただともひろ胃腸肛門科院長および、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEOの多田智裕氏が、消化器科領域におけるAI開発の現状について解説・対談を行う連載コラムです。

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編集部より:胃がん検診の現場は、内視鏡診断支援AIやクラウドストレージの導入によって大きく変わろうとしている。コラム「多田智裕が語る『内視鏡検査におけるAIのこれから』」第4回では、多田氏と、日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科部長の二神生爾氏および宮城県対がん協会がん検診センター所長の加藤勝章氏との鼎談の模様を2回にわたりお届けします。
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鼎談者

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二神 生爾(ふたがみ・せいじ)―日本医科大学消化器内科学教授、日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科部長。1990年、日本医科大学卒業。2017年より日本医科大学武蔵小杉病院で勤務。日本内科学会認定・専門医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

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加藤 勝章(かとう・かつあき)―宮城県対がん協会がん検診センター所長。1988年、東北大学医学部卒業。1997年、東北大学医学部附属病院第三内科助手。2004年より宮城県対がん協会がん検診センターに勤務、現在に至る。

二次読影医への研修会を開催 ―川崎市の取り組み―

多田:二神先生は長年、川崎市の胃がん検診に取り組まれていらっしゃいますね。現在、どのようなシステムが構築されているのでしょうか。

二神:川崎市は2012年から胃がん検診を始めました。それまではバリウムによる胃の透視検査を行っていたのですが、2012年に内視鏡による胃がん検診を導入して以降、その割合は年を追うごとに増えています。胃がん検診におけるチェックシステムに関しては、二次読影、いわゆるダブルチェックを活用しています。私も委員を務める内視鏡検診の運営委員会では、以下のような取り組みをしています。

①読影する先生方のレベルを維持するための研修会
内視鏡実施医のスキルの均一化を図ることを目的に、内視鏡による偶発症の頻度などを確認しあう仕組みを構築しています。

②AIを用いた胃がん内視鏡画像診断支援システムの構築と海外遠隔診断へのサスティナブルな展開システムの開発
二次読影における膨大な読影量が医師への負担となっています。これを踏まえ、川崎市では胃がんの読影にAIの内視鏡補助診断を入れ込むことで医師の負担を軽減できないかと検討しました。そこで、多田先生を中心とした株式会社メディカルサービスと共に、NEDOの国家プロジェクトとして「AIを用いた胃がん内視鏡画像診断支援システムの構築と海外遠隔診断へのサスティナブルな展開システムの開発」を目指しています。基幹病院としては、がん研有明病院、聖マリアンナ医科大学付属病院と、私共の日本医科大学武蔵小杉病院消化器内科を中心に、多くの病院と連携しながら取り組んでいます。(参考:AIメディカルサービス、NEDO事業に採択 「胃がん内視鏡画像読影支援AI」を構築へ

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クラウドシステムで複数の医師がダブルチェック -仙台市の取り組み―

多田: 加藤先生が携わられている仙台市ではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

加藤:仙台市では昨年度から対策型胃内視鏡検診がスタートしました。実施体制組織としては、運営協議会で実施要綱を決めて、読影委員会でダブルチェックを行うというところは他の地域と差はありません。ただし、検診に参加する各医療機関で撮られた画像と所見レポートについては、専用ソフトで提出ファイルを作成し、クラウドに上げて、オンラインを通して宮城県対がん協会にデータを提出するという点が異なります。いくつかの医療機関ではUSBフラッシュメモリでの提出もありますが、そのデータについては当方から人を出して回収しています。提出された胃内視鏡検診画像は、もともと当協会が構築していたデータサーバーに胃X線検診画像とともに保存して、同一受診者の胃内視鏡検診と胃X線検診を一元管理するシステムを構築しています。

また提出されたデータは、当協会の「二次読影専用ビューアー」を使って読影しています。読影委員は、運営協議会の下に設置した認定審査委員会で承認された先生方です。認定審査委員会では検診に参加する検査医や医療機関の審査認定も行います。読影医が胃X線検診の二次読影や内視鏡検査の手伝いに当協会に来所したときに合わせて、提出画像の中から読影画像を準備し、ダブルチェックを行ってもらっています。したがってダブルチェックは先生方のご都合に合わせて随時行っています。他の地域のように特定曜日に検査医が画像を持ち寄り、読影医と対面で一斉に読影するという体制ではありません。ダブルチェックは基本的には読影医が一人で行いますが、読影で迷った点などはお互いに共有しながら一定の読影精度を保つようにしています。単施設にオンラインでデータを集約し、検査医や読影医の時間にあまりとらわれずに読影ができているというのはメリットだと思っています。

教育システムの充実

加藤:さらに、一次検診の医療機関においても撮影を一定のレベルで揃えるため、事前に色彩強調や構造強調の設定を各施設に指導しています。読影結果は、診断のほかに再検査の指摘を受けた画像レビューコメント、さらに画像評価を含む二次読影レポートをデジタルファイルで各一次医療機関にお返ししています。再検査の場合はダブルチェックで指摘された画像をファイルに添付し、必要に応じて囲み丸や矢印などのアノテーションを付けて検査医に通知します。画像評価については、粘液や残渣などののっかりが多い、光量オーバー、また空気量が少ない、などをフィードバックしています。そのほか、年に数回、検査医を集めて症例検討会を行い、全体の見逃し症例や、再検査の症例結果などを各先生方に報告しています。このように教育レベルを上げるための取り組みも行っています。

多田:画像の保存場所をクラウドにすることで、データ回収の手間暇は削減できましたか。

加藤:そうですね、基本的に受診票を1カ月に1回ほどの頻度で回収するだけになりました。

負荷軽減のため一次読影医の撮影順番を指定

多田:二次読影の課題として、読影医のレベルアップや撮影漏れ、読影不可の画像が含まれていることなどについてはどのように改善しようとしていますか。

二神:二次読影の大きな課題として、一つ目に内視鏡読影医の負担、そして二つ目に精度管理が挙げられます。

読影医の先生方は、日常診療が終わってから三々五々、皆さん集まってきて、医師会館で大量のフィルムの読影を始めます。これは市町村によってもちろん数のばらつきはありますが、70名の患者さんがいる場合、3000枚近くを読まなければいけません。ヒューマン・エラーが出やすい状態といえます。元々かなり疲れているところからスタートしますので、この疲労からくる見落としをいかに防ぐかというのが非常に重要です。

加藤:仙台市は内視鏡検診を昨年から始めたばかりで、昨年度の実績としては、1万人弱が内視鏡検診受けています。検査医が撮影した画像は、画像提出ソフトを使って当方が指定した標準撮影法の順番に合わせて並べ替えた後に提出していただくようにしているため、読影自体はそれほど手間ではありません。逆に言うと、読影しやすい画像順番で提出していただくために、各医療機関の一次検査の先生方にご負担をお掛けしていることになります。ただ、一次検査医の先生も、後から並べ替えなくてもいいように、こちらが指定した手順に合わせて撮影するようになりますので、撮影法の標準化は進みますし、撮影レベルも上がってきます。ダブルチェックの在り方としては少し特殊かもしれません。

多田:内視鏡検診が導入できない理由として、二次読影のマンパワーや読影負担などの問題を挙げる地域もあるようですが、それに関してはいかがですか。

加藤:仙台市に関しては、まだ検査数がそれほど多くないため、そういった問題が見えていないというのはあるかもしれません。これから負担が大きくなってくる可能性はあります。読影医の確保については、やはり「読める」読影医に偏ってしまう傾向はあります。読影の質を担保した状態で、読影医のマンパワーを確保するというのは、今後の大きな課題ですね。

二神:川崎市はやはりマンパワーが足りていないと思いますね。今、加藤先生のお話にもありましたように、ある一定のレベルの内視鏡専門医、あるいは、それに準じたクラスの先生方が当たるようにはしていますが、それでも足りないなという印象はあります。マンパワーを確保していくのも大変です。

色彩強調や構造強調の基準を定める

二神:内視鏡画像も実際のところきれいに撮られている写真ばかりとは限りません。シチュエーションにもよりますが、粘液が付いていて、必ずしも胃の全貌が100%見られる状況ではない場合もある程度あります。検査している担当の先生方の力量もそうですが、読影医のレベルを維持するということも重要です。

加藤:読影医については、確かに二神先生がおっしゃった通り、ばらつきがかなり大きくなるので、読影レベルをいかに一定レベルに保つかというのは非常に大切です。特に検診の場合、「がんを発見する」ということはもちろんですが、「がんが無い」ということもきちんと診断して受診者に通知しなくてはいけません。そのためには、胃の中全体をきちんと網羅できている写真が撮られていることが最も大事になってきます。ただ、網羅性を上げようとすると写真の枚数が増え、読影の効率が落ち、パンクしてしまう、というジレンマに陥るのです。

二神:精度管理において、色彩強調や構造強調に関しては具体的にどのように対応されているのでしょうか。

加藤:仙台市では、検診に参加を希望する医療機関には事前に画像を提出してもらい、審査を行いました。提出された各画像から、使われている色彩強調や構造強調のレベルを全てチェックして、標準となる画像条件を認定審査委員会で定めて、各医療機関にはその規準に合わせていただくように頼みました。一次検診の画像レベルで色彩強調や構造強調の均一化を図ったということです。自分が撮っている画像が赤過ぎるのか、赤過ぎないのか、それを認識せずに写真を撮られている先生方がかなり多かったと思います。それは全部チェックして、症例検討会とか最初の講習会の時点でデータ化して皆さんに示し、認定審査委員会が定めた規準に合わせていただきました。場合によってはメーカーにメンテナンスや調整の協力をお願いしました。

二神:なるほど、よくわかりました。

多田:二次読影でチェックする以上に、一次読影機関がきれいな画像をしっかり撮ることが重要だということですね。本当にその通りかと思います。(後編に続く

多田智裕

多田智裕 ただともひろ胃腸肛門科院長、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEO

1971年生まれ。東京大学医学部ならびに大学院卒。東京大学医学部付属病院、虎の門病院、多摩老人医療センター、三楽病院、日立戸塚総合病院、東葛辻仲病院などで勤務。2006年にただともひろ胃腸科肛門科を開業し院長就任。2012年より東京大学医学部大腸肛門外科学講座客員講師。浦和医師会胃がん検診読影委員。日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。『行列のできる 患者に優しい“無痛”大腸内視鏡挿入法』など著書複数。