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皮膚臨床画像から専門医よりも精度よく疾患判別―筑波大皮膚科・藤本学教授、藤澤康弘准教授に聞く(1)

2018年8月15日(水)

医療AIに取り組むトップランナーインタビュー

» 連載1回目から読む

 専門医よりも精度よく、人工知能(AI)で皮膚がんを判別する――。今年6月、筑波大学と京セラコミュニケーションシステムの研究グループがそんな研究論文を発表した(プレスリリースはこちら)。約4800枚の臨床写真を使いディープラーニング(深層学習)に学習させることで、感度96.5%、特異度89.5%で皮膚腫瘍の良性と悪性の判定をできるようにした。これは皮膚科専門医を上回る精度と言う。

 画像認識の精度を飛躍的に向上させるディープラーニングを用いた、画像診断支援への期待が高まっている。ただ、ディープラーニングの精度を高めるには、診療診断結果などの正解データが付与された画像のデータセットが必要だ。そこで今年5月、日本皮膚科学会は日本医療研究開発機構(AMED)の事業の一環として皮膚疾患の臨床写真を収集しデータベースを構築するプロジェクトを開始した。

 筑波大学医学医療系教授で日本皮膚科学会AIワーキンググループ委員長を務める藤本学氏と、同准教授で京セラコミュニケーションシステムとの共同研究を行った藤澤康弘氏に、皮膚科での今後の画像診断支援についてお伺いした(全2回の連載)。


臨床画像から皮膚腫瘍を判別するAIのご研究に取り組まれた経緯を教えてください。

藤本 2014~15年頃、AIが話題にはなっていましたがまだ医療に入ってくる前、皮膚科医局員(当時)がコンピューター好きの整形外科医の夫に教わって、趣味で「ラベリオ」という画像認識ツールを使った皮膚科画像診断をやっていました。同じ時期に、隣の部屋にいる放射線科の教授に「放射線科にはAIが入りつつあるが、皮膚科はどうなっていますか?」と聞かれ、AIを意識するようになりました。皮膚疾患でも、臨床写真から皮膚病を診断するといった画像認識のニーズはあると思いましたが、当時はまだそのようなシステムはありませんでした。

 そこで筑波大皮膚科として本格的にAIに取り組もうと考えて、「ラベリオ」のサービスを提供している京セラコミュニケーションシステムに相談してみたところ、共同研究をすることになったのです。2016年秋ごろのことです。

 ところが、2017年2月に、2032の皮膚疾患計12万9450枚の臨床画像のデータセットを用いて、ディープラーニング(深層学習)のひとつである「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」を学習させることで、皮膚科医に相当する精度で皮膚がんを分類できたという研究がNatureに掲載されました。やられた、と思いましたが、ただ、皮膚疾患は皮膚の色が異なる人種差があるので、海外のものを日本でそのまま使えないと考えています。

具体的にどのように研究を進められたのでしょうか?

藤澤 まず、筑波大病院で診察した患者さんの皮膚疾患の写真を十数年分用意しました。これらの病変の場所を目視でチェックして、その部位だけを切り抜いていきます。その後、診断カテゴリー別に分類しました。約6千枚になります。アルバイトの学生にも手伝ってもらったのですが、最終チェックはすべて自分でやりました。この画像を用意する準備に3~4カ月かかりました。

 これをプログラムに学習させるのですが、はじめは私一人でやってみたのですがなかなかうまくいきません。そこで、画像を用意するところまでは私たちでやり、その先の技術的なところは京セラの方にやってもらうことになりました。

 画像を使う研究は学内の倫理委員会を通していたのですが、倫理委員会を通す際に、画像は院内で利用するという形にしました。そのため学習させる画像は院外へ持ち出すことができません。そこで、京セラのシステムエンジニアの方たち2~3人が週数回ここに通って進めてくれました。

京セラコミュニケーションシステムとは共同研究という形なのでしょうか?

藤本 研究費を取ってこられる段階でもなかったので、研究費もありませんでした。当初は、ラべリオを使ってみたいと思い京セラの方を紹介いただきましたが、京セラの方たちも関心を持って下さり共同研究をすることになりました。

 2016年末から始めて2017年7月にはデータは出そろって論文を書き始めていたのですが、普段私たちが書いている論文とはMaterial & Methodの書き方が異なるため、そこで苦戦をしました。

皮膚科では、AIによる自動診断支援はどういったニーズがあるのでしょうか?

藤澤 皮膚科の専門医には現時点のレベルの画像診断支援はさほど必要ありませんが、皮膚科以外の先生が皮膚疾患を鑑別するのにニーズがあると思います。患者さんが最初に受診する先生が皮膚科医ではないことがあり、不適切な診断のために重症化したり治療が手遅れになったりすることがあります。専門医でない、たとえば総合診療内科の先生などが皮膚疾患を判断して皮膚科医に適切に紹介してくれるような使い方になるといいと思っています。

皮膚病変から画像認識で疾患を分類するAIについて、実際にやってみていかがでしたか?

藤澤 「意外といけるな」という感覚を持っています。初めは、「機械で何が分かるのだろうか?」と思っていましたが、やってみると案外正しい答えを出します。ただ、現状は良性か悪性かの判別はできますが、細かい診断は間違っていることが多いのが課題です。今後は学習するデータセットを増やして、精度をよくしていく必要があります。

藤本 現状は問題がいくつかあります。今は限られた14疾患(色分けなど含めると21分類)の分類をできるようにしていますが、実際の臨床ではそれ以外の疾患もたくさんあります。まずはこれらに対応できるようにする必要があるでしょう。


筑波大皮膚科・藤本学教授、藤澤康弘准教授に聞く

- (1) 皮膚臨床画像から専門医よりも精度よく疾患判別 - (2) オールジャパンで皮膚画像を収集

長倉克枝

長倉克枝 m3.com編集部

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