自治医科大学発ベンチャーのDeepEyeVisionは2月5日、AI(人工知能)を用いて眼底画像の診断を支援するサービスの提供を始めたと発表した。健康診断センターなどの利用を想定しており、AIが診断候補を提示し、さらに読影医が診断して診断結果を健診センターなどに戻す。2月7~8日に東京都内で開催される日本総合健診医学会第48回大会で展示する。
提供を開始するのはクラウド型AI診断支援ソリューション「DeepEyeVision」で、医療機関が眼底画像をクラウドシステムにアップロードすると、AIが解析して診断候補を出し、眼科専門の読影医がその結果をチェックして最終診断し、診断結果を医療機関に返す。専門の読影医が常駐していない健診センターなどでは外部機関に読影を依頼しているが、今回提供するサービスは、読影依頼をやや下回る価格を想定しているという。
DeepEyeVisionは自治医科大学眼科学講座准教授の高橋秀徳氏が代表取締役CEOを務めるベンチャー。眼科医でAIの開発を進めた高橋氏に、開発の意図、今後についてお伺いした(2020年2月6日にインタビュー)。
先生は眼科医でいらっしゃいますが、ご自身で眼底画像の診断支援をするAIを開発し、また事業化に至った経緯をお伺いできますか。
眼底画像の診断支援AIの開発は、松尾豊先生(東京大学工学系研究科教授)の本を読んで、研究として面白いと思い始めました(『専門医以外も眼科専門医並みに「AIは診断レベルを標準化」―自治医科大学眼科学講座准教授・高橋秀徳氏に聞く』を参照)。研究を進めるうちにいいものができたので、実際に使ってもらいたいと思い、事業化することにしました。
ソフトバンクが出資するベンチャーキャピタル「ディープコア」が運営するAI特化型のインキュベーション施設「KERNEL HONGO」に通って開発を進めていたのですが、1年ほど前から、メンタリングを受けて事業化に向けた計画を進めてきました。
今回提供するサービスは、健診センターなど常駐の専門の読影医がいない施設に対して眼底画像の読影を行うサービスで、最終的に医師が診断して結果を返す仕組みです。
対象は、企業健診などで眼底画像を撮っている健診センターなどを想定しています。現状は、専門の眼科医がいない場合は、読影する眼科医がいる会社に委託をしています。それに対して、私たちの提供サービスでは、AIがまず画像を解析して、診断候補を5位まで挙げた解析結果を出し、その上で読影医がその解析結果を参考に読影し、依頼元の健診センターなどに結果を返します。AIと読影医のダブルチェック体制になるので、見落とし防止などの精度向上になると考えています。
読影にかかる費用は、外部の読影の会社に依頼すると1枚400円程度なのですが、私たちのサービスは、それをやや下回る価格で提供させていただく予定です。
今回のAIはどのように開発されたのでしょうか。
自治医大の眼科で撮影された約50万枚の眼底画像を学習させて、ディープラーニング(深層学習)のアルゴリズムを作りました。
自治医大の健診センターなど複数機関で、開発したAIをすでに使われているということですが、使われてみていかがでしょうか?
自治医大の健診センターと共同研究として、読影医の読影と併用してAIを使ったところ、AIを使うことで読影医の読影時間が半分以下になりました。AIが先に診断候補を解析結果として提示してから、読影医が診断するため、時間が短縮されたのです。今後は、AIと読影医が一緒に読影することで、眼底画像の読影価格が下がると考えています。
今後についてお伺いできますか。
眼科でも専門が細分化し、眼科医でも、専門外の分野の眼底の診断は難しいこともあります。そこで、診療所などの眼科医を対象に、専門外の眼底画像の診断をサポートするAIを作るのが最終的な目的です。
画像診断支援のAIの性能は、人を上回ることもあるのですが、一方で間違えた時には、なぜ間違えたのか理由が分かりません。そのため今の段階で、医師の診断をサポートする画像診断支援AIを医療機器プログラムとして薬事申請をして世の中に出すのはまだ難しく、今はまず、読影医にとって「オンライン医学専門書」のように使える、情報提供をするAIが良いのではと考えました。
まずは今の段階で使っていただき、今後AIの精度がさらに上がったところで、診療所などの眼科医向けの診断を支援する医療機器プログラムとしての承認申請をする予定です。
高橋秀徳(たかはし・ひでのり)
DeepEyeVision株式会社 代表取締役CEO
自治医科大学 眼科 准教授、医学博士。東京大学医学部卒。日本眼科学会 AI、ビッグデータ、遠隔医療 戦略会議 委員。
東京大学眼科と自治医科大学眼科で眼底の失明性疾患の研究に従事。2015年に深層学習が人の画像識別能力を超えたことを知り、深層学習の研究を始めた。2016年、DeepEyeVision合同会社起業。現在は栃木を拠点とし、自治医科大学眼科准教授として多くの失明性疾患を診断・治療しつつ、健診眼底写真読影支援システム「DeepEyeVision」を開発。眼科基幹病院で難症例を多数経験。クリニック勤務経験も豊富。
長倉克枝 m3.com編集部