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気胸検出AIシステムがFDA認可ー轟・加藤の「医療AI トレンドを追う」(9)

2019年10月25日(金)

アイリス株式会社AIエンジニアの轟佳大氏が、眼科専門医でデジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏と共に、企業や大学における医療AI開発の取り組みを紹介する連載コラムです。取り上げてほしいテーマや質問事項、記事の感想などございましたら、「m3com-editors@m3.com」までメールをお送りください。

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ななめ読み
- (1事例目)GE Healthcareは9月12日、X線画像から気胸を自動的に判断するモバイルデバイスがFDA承認を受けたと発表した。
- このデバイスにより、8時間掛かっていた診断が15分で終わるという見通しも公表された。
- (2事例目)AIの専門知識を持たない臨床医が機械学習ツール「AutoML」を用いて、疾患検出の高精度モデルを構築することに成功したと論文で発表した。


今回は9月中旬に発表された2つの事例についてご紹介したいと思います。1つ目は、GEヘルスケアによって開発された気胸を特定するAIデバイスがFDA承認されたというニュースです。同時期にKaggleというコンペティションプラットフォームにて「気胸コンペ」が開催されていた事もあり、気になり調べてみました。

2つ目は「AutoML」と呼ばれる機械学習ツール(後ほど詳しく紹介)を応用する事でAIを専門としない臨床医が高精度な分類モデルを構築したという論文です。AutoMLの登場以来、AIの初学者でも簡単にモデルを構築できるようになった印象がありましたが、早速論文として登場したことは非常に興味深い点です。

AI プラットフォーム「Edison」

9月12日にGEヘルスケアは、AI搭載の医療デバイスがFDAに認可されたことを発表しました。GEヘルスケアは、今年4月には「TrueFidelity」と呼ばれるディープラーニングを用いたCT画像再構成アルゴリズムなどの研究成果を発表し、また画像再構成の領域や病変セグメンテーションの領域では日本国内の大学や病院との共同研究も行っている企業です。

今回の製品はGEヘルスケアのAIプラットフォームである「Edison」を用いたものです。Edisonブランドとは、Edisonプラットフォームを使用して構築されたアプリケーションとデバイスで構成されるGEヘルスケアインテリジェンス製品の総称であり、昨年のRSNAで披露されました。

8時間の行程がたったの15分に短縮

今回発表された「胸部X線画像を用いた気胸の診断支援デバイス」は、従来であれば診断まで8時間掛かっていた工程を15分にまで短縮できると言います。

todo

GE Reportより引用。入力として用いるGE Healthcare製Optima XR240amxシステムで取得した元の画像

臨床現場にて撮影された画像(上図)をプラットフォームに送ると、Edisonは数秒でAIによる診断結果画像を返します。そしてその診断結果は、PACSに送信される前に拒否や再診断などを行えます。これは、モバイルX線デバイスに組み込まれたシステムとしては業界初となります。

AIの初学者でも高精度な病変分類モデルを作成可能に

学術誌『The LANCET Digital Health』は9月に、「Automated deep learning design for medical image classification by healthcare professionals with no coding experience : a feasibility study」という論文を掲載しました。この論文はタイトルの通り、コーディングのできない臨床医が、自動的に深層学習モデルを構築するサービスである「Auto ML」 を用いて、病変分類タスクを行ったという内容です。実験に使用したデータセットは、以下の5つのオープンデータセットです(眼底画像OCT画像皮膚画像小児および成人の胸部X線画像)。

Auto MLとは、Googleが提供している機械学習ツールです。従来の機械学習ツールは自身のパソコン環境に構築する必要がありましたが、近年はwebブラウザ経由で機械学習が簡単に行えるツールなども増えてきました(SONYが提供する「Neural Network Console」など)。Auto MLもその一つで、機械学習について詳しくない人でも機械学習の機能を利用できるというツールです。 Auto MLには自然言語処理、構造化データ、翻訳、ビデオ、画像の項目があり、それぞれの項目から自身が行いたいタスクを選択し利用します。また深層学習を行うために必要なアノテーション作業を自動処理してくれたり、タスクに合ったモデルを深層学習で自動的に生成してくれたりするサービスもあります。

専門的なモデル構築はAuto MLが自動的に

Auto MLが成立する背景には、「NAS(Neural Architecture Search)」と呼ばれる2016年11月に登場した理論研究があります。この研究は「ニューラルネットワークの構造を自動的に最適化する」というもので、NASによってモデルの自動生成が可能になるのです。

今回の論文では、モデル構築以降の専門的なところはAuto MLを使用し、著者を含む医療従事者らは約10時間の研修を事前に受けた上で、モデル開発と分析を行いました。この研修はプログラミングの基本的な能力トレーニングで、「オープンデータセットの大規模な医用画像を整形する」、「整形した画像からデータセットを準備し、そのデータセットをGoogle Cloud Auto MLプラットフォーム上に流す」などの基本的な使い方を学んだということです。

精度評価基準は感度、特異度、AUC (感度、特異度から計算される精度)です。各データセットをTraining:Validation:Test=8:1:1に枚数分割し、データセットに分けたのちにAuto MLを用いて学習させます。モデルはAuto MLにて自動生成されたアーキテクチャを使用しています。

眼底画像データセットおよび小児胸部X線画像データセットは2クラス分類(糖尿病性網膜症or正常/肺炎or正常)、OCT画像データセットは4クラス分類(加齢黄斑変性、糖尿病性黄斑浮腫、ドルーゼン、正常)、皮膚病変データセットは7クラス分類(光線性角化症、基底細胞癌、母斑、メラノーマ、皮膚線維腫、血管病変、良性角化症)、成人胸部X線画像データセットは15クラス分類(無気肺、肺硬化、肺浸潤、気胸、肺浮腫、肺気腫、肺線維症、胸水、肺炎、胸膜肥大、心肥大、肺結節、ヘルニア、正常)を行いました。

実験では5種類のデータセットを用いて、先行研究の実験結果との精度比較を行いました。結果は下図です。先行研究と比べても遜色ない結果であることがわかります。

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論文より引用

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論文より引用

Auto MLの今後の展望に期待

今回は同じ週に発表された気になったニュースを2つ紹介しました。とりわけ2つ目の論文は今後の展望がとても気になる研究ではありましたが、この機能を使うためには現行の制度との折り合いをどうつけるかなど、今後も引き続き追いかける必要があると感じました。また、ブラックボックス化をどう防ぐかが議論される深層学習領域において、Auto MLといった新たな概念や手法とどのように付き合っていくかも考えていく必要がありそうです。とはいえ、両記事ともとても面白いと感じました。

今週もありがとうございました!次回もお楽しみに。

轟佳大

轟佳大

アイリス株式会社 AIエンジニア。1992年生まれ、立命館大学大学院 情報理工学研究科修了。大学・大学院を通して医療AIの研究を行い、大学院在学中にはシンガポール国立情報研究所にて医療AIの研究に従事。最新論文は医工学分野のトップカンファレンスに採択された。研究や仕事の傍ら、医学生や医師、社会人向けに医療AIの講演などを行っており、スライド「AI×医用画像の現状と可能性」(http://ur0.work/SfKm)は1万viewを超える。医療と最新テクノロジーとアイスが好き。

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