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国内でも進むAIを活用した医療、個人情報の保護と活用の両立に向けた環境整備もー日本医師会常任理事の羽鳥裕氏講演レポート

2019年11月25日(月)

東京⼤学未来ビジョン研究センター(旧・東京⼤学政策ビジョン研究センター)、慶應義塾大学メディカルAIセンター、エムスリー株式会社m3.com編集部が2019年1月から開催している「医療×AIセミナーシリーズ」のイベントレポートです。

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東京大学未来ビジョン研究センター、慶應義塾大学AIメディカルセンター、エムスリー株式会社m3.com編集部は在日フランス大使館科学技術部と2019年9月27日に医療×AIセミナーシリーズ第9回「AI時代の医療とトラスト:日仏哲学対話」を開催した。日仏の医療制度の現状と課題、特に医療での個人情報の活用と規制について、両国の専門家が対話した。

3人目の演者として登壇した日本医師会常任理事で、はとりクリニック院長の羽鳥裕氏は、医療でも活用されるようになっている人工知能(AI)に対してどう向き合うか、日本医師会での取り組みを中心に話した。日本医師会は「保守的」な組織と思われているかもしれないが、日本に32万人いる医師のまとめ役の一つで、保健医療にAIを活用する総務省のプロジェクトや、より人間らしいAIの研究開発プロジェクトへの参加など、新しいテーマにも挑戦しているという。

内視鏡や眼科画像で実用化進むAI

日本医師会が2016年から2018年にかけて開催した第9次学術推進会議では、AIの専門家を招いて講演を聴き、主に3つのテーマについて議論した。1つ目がディープラーニングを中心にAIの基礎、2つ目が人工知能の医療応用例、そして3つ目が医療と倫理や法、そして患者との関係についてだ。まず最初の基礎では、これまでのAIのブームを振り返り、心電計のように決まったパターンを認識して診断の支援をする装置のようにAIと言える域に達した機器類の登場を経て、3度目のAIブームが来ている状況を確認した。過去の持続しなかったブームと比べて、今回のブームではAIの研究開発も急速に進んでおり、来るべき量子コンピューターの時代には人の知能を機械が上回る「汎用人工知能(AGI)」の登場の可能性などについても議論したという(日本医師会の『第Ⅸ次学術推進会議報告書「人工知能(AI)と医療」について』を参照)。

AIの医療への応用については、東京大学医科学研究所で白血病の最も適切な治療法を選ぶのにIBM社のワトソンが、実際にAIが役立つことを示した具体例と評価し、NECが進めている顔認証の技術開発についても話を聞いた。現在では中国が積極的に顔認証技術の研究と活用を進めているが、日本の企業も得意分野だったはずなのに追い抜かれたのは残念なことだ。そしてAIを医療で活用するためには、医療と倫理や法律、そして患者との関わり方についてそれぞれきちんと理解する必要があるということを改めて最後に確認したという。

すでにAIの活用は具体的に進められており、日本消化器内視鏡学会では、内視鏡を消化管に挿入して検査している最中にAIを搭載したパソコンが0.2秒の間に病変を見つけて診断の支援をできるシステムがもう実現できる時代になった。オリンパスや富士フイルムなどの大手企業や、個人の医師で癌研有明病院のデータを使ってAI内視鏡の開発をしているただともひろ胃腸科肛門科院長の多田智裕氏らの研究成果に期待が集まっているという。

羽鳥氏は多田氏のAI内視鏡が一番早く厚労省の承認を得て実用化される可能性があるとみており、神奈川県川崎市の自身のクリニックで、川崎市医師会、 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、商工会議所、行政などと連携して今後3年で実証実験に取り組む予定だ。羽鳥氏が多田氏の研究について知ったのは3年前で、これほど早く実用化が具体的に進行することは予想外で、リアルタイムに診断がつくことは画期的な技術だと感じる一方で、新しい機械を使いこなせなければ今後は高い品質の医療を提供できなくなるという危機感を持っているという。

他にも日本眼科学会でもAIを活用するための技術開発は進んでおり、これまで蓄積されてきた膨大なデータベースを活かした様々な診断の補助が可能になる。米国でも様々な成果発表があり、例えば眼底の画像をコンピューターで分析して緑内障の判別が可能になってきている。最初は100枚の既存の眼底の画像をコンピューターに学習させて、新しい画像をコンピューターに判別させると正診率が70%程度だったのが、2000枚にすると85%に改善した。たかだか2000枚にするだけでこれだけの精度を実現でき、さらに10万枚や20万枚に増やしていけば機械的な医師よりも正確に病状を判別できるようになる可能性があるという。同じようなことは皮膚科や放射線科のCTの診断でも起きているが、内視鏡や眼科の領域の事例を見るだけでも医療分野へのAI活用がいかに画期的かが分かる。

医療AIについて日医で再度議論

今後、個人情報保護法を踏まえながらも医療データをしっかり活用するために、2018年に施行された次世代医療基盤法に沿って環境が整備されていくことになっている。まだ議論されているところだが、ひとまず厚生労働省が今年2月に医師が最終的な診断をしなければならないと決めたことには、羽鳥氏はひとまず安心したという。そして日本医師会では今後2年間、第10次学術推進会議でさらに医療AIの開発の課題など、AIの新しい展開について理解を深めながら議論をしていく予定だ。テーマとしてはデータ活用・収集のためのインフラの整備や、教育と育成を検討しているという。

日本医師会では6つの文章からなる「医の倫理綱領」を設定していて、特に最後の文章「医師は医療にあたって営利を目的としない」と、4つ目の「医師は互いに尊敬し、医療関係者と協力して医療に尽くす」という点を特に意識して、医療の分野にAIやコンピューターといった新しい技術を取り入れようとしているという。

鴻知佳子

鴻知佳子 ライター

大学で人類学、大学院で脳科学を学んだ後、新聞社に就職。バイオを中心とする科学技術の関連分野を主に取材する。約10年の勤務後に退社。ずっと興味があった現代アートについて留学して学び、現在はアートと科学技術の両方を堪能する方法を模索中。

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