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「AIは医師のサポートツール」医師がAI作り、使いこなすには?

2019年10月1日(火)

東京⼤学未来ビジョン研究センター(旧・東京⼤学政策ビジョン研究センター)、慶應義塾大学メディカルAIセンター、エムスリー株式会社m3.com編集部が2019年1月から開催している「医療×AIセミナーシリーズ」のイベントレポートです。

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東京大学未来ビジョン研究センターは慶應義塾大学メディカルAIセンター、エムスリー株式会社m3.com編集部と共同で、2019年9月5日に医療×AIセミナーシリーズ第8回を開催した。第8回のテーマは「医療者がゼロから学ぶ、AI・データサイエンス超入門」。文字通り、自身でゼロからAI(人工知能)のイロハについて習得し、臨床現場への応用にこぎつけた株式会社データック代表の二宮英樹氏と湘南記念病院乳がんセンターの井上謙一氏の医師2人が登壇し、学習方法や苦労したことなどについて語った(『医師がゼロからAI学ぶ「課題定義がすべて」』『国内多施設でマンモグラフィAI開発、5年後に臨床応用へ』参照)。

二宮氏と井上氏の講演が終わった後、会場からは医療関係者から切実な声が上がった。その質疑応答は以下の通り。

会場:まずどこから手を付ければいいか、アドバイスが欲しい。

井上氏:AIをなんのために使うのか、目標を決めることが大事だ。私の場合はマンモグラフィで使えるAIを作るという最終課題を決めて、それに必要な情報を集めた。最終目標が見えてくれば頑張ることもできる。

二宮氏:少し突き放した言い方になってしまうかもしれないが、結局はやるかやらないか。今は、オンラインや書籍の教材はたくさんある。そういった教材とか参考となるホームページのURLとかを教えても、やる人はやるし、やらない人はやらない。

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井上謙一氏

コーディネータの藤田卓仙氏:技術の進歩にキャッチアップするのは大変だろう。どういった立ち位置でAIやデータ解析に関わるかということが大事ではないか。最先端のAIを自ら開発したいのか、使う側になるのか。

井上氏:こういう世界におもしろくてのめり込むか、それともできあがったAIが入手できればいいか。そういう立ち位置がどこにあるかだ。本来、自分が何をしたいかを考えればおのずとポジションもわかってくるのではないか。プログラミングの技術などでは、本当のエンジニアにはかなわない。それでも、今回説明したAIぐらいは作れるし、また周りを啓蒙することもできる。例えば自分としては、医師としての専門性を持ったまま、エンジニアとの懸け橋になれればいいなと思っている。

二宮氏:社会実装をテーマに置いている。自分たちの力で5年以内に実現できそうなことのうち、グーグルなどに勝てる領域でやる。

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二宮英樹氏

藤田氏:いかに質の高いデータを作るかが重要だが、それには手間がかかる。どうやったらいいデータが集まるようになるか。

二宮氏:人が介在しない形でどうデータを収集するかということをテーマにしている。例えば、「リハビリを解析したい」という相談を受けたことがある。だが、リハビリ記録などがフリーテキストで格納されていると、データとしては全く使えない。ちゃんと記録ルールを設けて、カテゴリカルな値として格納されていれば使いやすいが、それでも入力漏れや記入者や施設によるバイアスは避けることができない。私だったら、入居者の位置情報や加速度から、どういったリハビリを行っているか定量的に評価、分類して、解析に使いたいと考える。

会場:AIに興味はあるが、やはりどこから手を付けていいのかわからない。

二宮氏:やらないことを決めるのが大事。医師であれば、コンピューターサイエンスの分野はやらないとか。Pythonなどの知識を座学で習得するなら、40~80時間くらいでできるのでまずはそこから始めるのもいいだろう。加えて重要になるのが、論文で読めるかどうかということだ。自分の専門分野に関する論文を読めればデータサイエンティストとも深い議論ができる。また、CTO(最高技術責任者)など、どういうパートナーに恵まれるかがカギを握る。データ解析においてはプロダクトマネジメントが重要だが、それもCTOがやってくれるならそれでもいいと思う。

井上氏:ひとには得意不得意があるので、仲間を集めることが大事だろう。例えば、プログラムが好きな人、やってもいいと思っている人、もしくはそういう人を知っている人を集めて、自分は得意なことに専念するというのもありだ。今はプログラミングができなくてもAIのアルゴリズムを作ることはできるため、プログラミングは必須ではない。

井上氏:イベントや勉強会に積極的に参加して人脈を作ることは大切だろう。

二宮氏:マニアックな領域はコミュニティーがあって情報が回っているので、いかにそこに地道に入っていくかがポイントとなる。こういう人に会いたいという要件を定義することが大事だ。

会場:私はリハビリを担当しており、AI活用の必要性も感じているが、上司の関心がない。そういう人にどうやって働きかければいいか。

井上氏:みんな「おもしろいな」とは言ってくれるが、実際に動いてはくれない。それでも、地道に訴え続けるのは重要だろう。あとは、相手に「目に見えてトクだな」と思わせるのが大事。モノをある程度作って、楽になる、残業代が減る、腰が痛くならない、といった具体的なメリットを見せる。そうやって一点突破できれば広がるだろう。 私はスタッフに恵まれた。当院の放射線技師は勉強熱心なので、そういう人たちにおもしろいと思わせたら自然と盛り上がっていく。

会場:(中身がブラックボックスな)AIと医師はどのようにして判断をすり合わせたり、役割分担したりしていくべきなのか。

井上氏:ずっとついて回る問題だろう。最近は「Explainable AI(説明可能なAI)」、つまり結果についてそこに至るまでの理由を説明してくれるAIの研究が進められている。AIはまだ発展途上。あと2~3くらい大きなブレークスルーが必要だ。だが、そのスピードはどんどん上がっていくだろう。

二宮氏:まずは医師たち(専門家)のサポートツールとして、協働していく形になる。AIの技術と運用が成熟していくにつれ、一般の方も直接AIを使うようになっていくだろう。

中尚子

中尚子 フリーランスライター

早稲田大学大学院を修了後、大手全国紙に入社。記者として日用品や素材、外食、ITサービスなどの業界を幅広く担当した。ビジネス誌の記者などを経験。

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