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放射線科医の研究から、AI医療機器が薬事承認―東京大学医学系研究科博士課程、放射線科医の越野沙織氏講演レポート

2020年4月9日(木)

東京⼤学未来ビジョン研究センター(旧・東京⼤学政策ビジョン研究センター)、慶應義塾大学メディカルAIセンター、エムスリー株式会社m3.com編集部が2019年1月から開催している「医療×AIセミナーシリーズ」のイベントレポートです。

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2020年3月26日、医療×AIセミナーシリーズ第11回 シンポジウム「医療現場で本当に価値あるAIを作るために」がオンライン配信形式で行われた。主催は東京大学未来ビジョン研究センター、慶應義塾大学メディカルAIセンター、エムスリー株式会社m3.com編集部。協力は日本ディープラーニング協会(JDLA)、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター(C4IRJ)。

臨床現場でのAI実装を進めるため、AI・ICTの現状の情報共有、課題整理を通じて、医師ら医療関係者、開発者、利用者、政策関与者らステークホルダーの交流をはかってきた医療×AIセミナー。第11回となる今回のシンポジウムでは、医療現場でのAIの開発・実装を行うエンジニアや医療情報関係者、医療現場でのAI活用人材育成に取り組むステークホルダーが参集して講演。話題提供とエコシステムの形成や臨床実装に向けてパネルディスカッションが行われた。

東京大学大学院医学系研究科博士課程、放射線科医の越野沙織氏は「放射線科医が取り組む医療AIについて」と題して主に脳動脈瘤AIと骨転移を検出する画像診断AIの開発について講演した。越野氏は放射線の診断医。 2019年9月17日に、エルピクセル株式会社が日本で初めて、深層学習を活用した脳MRI分野のプログラム医療機器として医用画像解析ソフトウェア「EIRL aneurysm (エイルアニュリズム)」の薬事承認を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)から取得したが、それは越野氏の研究を基にしたものだ。画像とAIの相性は抜群であり、放射線科医にとってAIへのアプローチは他の診断科よりも容易だという。

放射線科医が取り組む医療AI

放射線科医は脳血管を立体的に抽出することができるMRA(磁気共鳴血管撮影法)を使って検出している。近年、画像が増えており、見逃しリスクを減らすためにもAIの開発は重要になっている。CAD(Computer-Aided Diagnosis、コンピュータ診断支援)の研究も多く行われている。

越野氏らは脳動脈瘤を検出するAIを使うことで、医師がAIを使うか使わないかで検出能力がどのように変わるのか研究を行った。実際に用いた症例は100例。そのうち47例は脳動脈瘤が一つ以上あり、53例は全くないもの。動脈瘤の大きさは3.8±3.1mm。

エルピクセルと共同開発したAIアルゴリズムは、MRA画像を取得して、脳動脈だけを抽出、脳動脈瘤の候補点をピックアップして、CNNの一種であるResNet-18を使って検出、最後に候補点を集めて脳動脈瘤らしさを順位づけして医師に提示するというシステムだ。教師画像には682のMRA画像を用いた。AIが示す候補点は上限を3つまでとした。

参加したのは16人の医師。そのうち8人は放射線専門医。残りの8人は専門医ではない。症例が100あることは伝えているが、感度や脳動脈瘤が何個あるかは伝えていない。最初はCADなしで確信度も含めてランクづけをしてもらい、そのあとにCADありでランクづけを行った。統計解析にはROC曲線とJAFROC解析を用いた。

結果としては、AI解析の感度は92.1%だった。偽陽性の検出は2.3。それぞれの医師のパフォーマンスを見ると、AIを用いたほうが読影パフォーマンスは上がった。全ての医師において検出能力が上がり、非専門医への教育効果もあることが示唆されるものとなった。

また、骨転移検出AIの研究にも携わっている。骨転移とはがんが骨に転移することだ。早期発見が治療計画構築においても患者のQOLにとっても重要だ。近年はPETとCTを組み合わせた「PET-CT」が用いられることが増えており、今回のAIにおいてもこれを用いた。感度が高いが非常に高価だというデメリットがある。そこでCTのみで骨転移を検出することが重要になっている。

ディープラーニングの活用、画像診断AIの開発においてはアノテーションをつける作業が重要だ。だがスタンダードがなく、また画像データが非常に多いため難しい作業でもある。この研究は、PET-CTデータを教師データとして用いて、CTだけで骨転移を検出することを目的としている。使用したPET-CTデータは201例。すべて骨転移があるもので、アルゴリズムはエルピクセルと開発した。

どうやってアノテーションの自動化を行ったのか。まずCT画像で骨だけを抽出する。それをマスク画像とする。それとPET-CTデータをかけあわせた。評価方法は一人の放射線科医(越野氏)がラベル付けをした。使用した201例のうち161例を教師データ、40例を検証に用いた。教師データに対して様々な畳み込みネットワークを試し、越野氏がラベルづけしたものをグランドトゥルースとして用いた。教師データのなかで最も成績が良かったネットワークを検証データに使用した。

評価方法にはIoU(intersection over union)という手法を用いた。グランドトゥルースとAI検出部の重なりが大きければ大きいほど、より病変らしいとして感度・特異度などを計算した。PETと骨だけをマスクした画像を足し合わせた画像を使って、実際に検出を行ったところ骨転移の病変は814あった。感度は97.1%、特異度は59.1%。なお教師データに対してさまざまなニューラルネットワークを試したところMask R-CNNがもっとも成績が良かったという。病変ごとのパフォーマンスの感度は、造骨性転移は77.8%、溶骨性転移は74.6%。なお人間は73%くらいなので、それよりちょっといいくらいということになる。

また、CT画像だけでは放射線科医が骨転移があるかどうか全くわからない症例でも、AIアルゴリズムで検出させたところ、骨転移を発見したという。越野氏は「これは衝撃だった」と語った。

まとめると、越野氏らのシステムはPET-CTから自動アノテーションを行い、CTのみで骨転移を検出することができた。「今後、AIの開発が進めばアノテーションの負担を減らして、病変の見落としを減らすことができるだろう」と述べた。

また最後に医療AIに期待することとして、見落とし減少に加えて、教育ツールとしての役割、医師の不足・遠隔医療への貢献の三点をあげた。医療AIは人間と違って疲れない。また、将棋棋士がAIに鍛えられているように医師も教育ツールとして用いることができるのではないかと考えているという。また医師がいないところでも使える技術ではないかと述べた。

森山和道

森山和道 サイエンスライター

サイエンスライター、科学書の書評屋。1970年生。広島大学理学部地質学科卒。NHKディレクターを経て現職。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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