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手持ちの機器と設備で開設可能―オンライン診療が切り拓く医療の形(3)

2020年5月27日(水)

シリーズ解説:医療情報技師である井上昌弘氏が、オンライン診療の要点および今後の動向について解説する連載コラムです。

» 連載1回目から読む


第1回では、オンライン診療でできることを見てきました。今回は、オンライン診療を行うために必要なものをオンライン診療のガイドラインから、読み解いていきましょう。

今、様々な企業から「オンライン診療サービス」が提供されています。このサービスを使わなければオンライン診療はできないのではないか、と思われるかもしれませんが、それは正確ではありません。実は、意外とお持ちのツールでできることも多いのです。これから説き起こしてみましょう。

音声と動画で通信のできる環境

オンライン診療は、音声と動画によって行われることとされています。これは、対面診療と同等の情報を得るという点からきているものです。つまり、文字やチャット、静止画だけのやりとりで終わらせてはなりません。

そこで、皆さまお持ちのスマートフォン(スマホ)を活用することになります。スマホにはカメラと音声の送受信機能がついているため、機器としてはスマホだけでよいのです。または、カメラ付きのタブレットやノートパソコンであってもかまいません。特に専用の通信機器などは必要ありません。

次に、機器だけがあっても通信はできませんので、アプリを入れる必要があります。現在、カルテなどと一体化したオンライン診療の支援サービスが各企業から提供されています。しかし、ガイドライン上は、オンライン診療専用のアプリを使用することを定めてはいません。最低限の準備で始めるのであれば、普段利用している電子カルテ、もしくは紙のカルテに記入すればよく、専用アプリは必須ではないのです。

その場合、SkypeやZoomなどのテレビ電話アプリ、もしくはSNSの通話機能を利用することとなるでしょう。スマホの種類にもよりますが、スマホに標準で付いているシステムでも動画の通話は可能です。これらをガイドラインでは「汎用サービス」と言っています。

専用のアプリやサービスは、オンライン診療のサポートをしてくれる機能もありますし、オンライン診療ガイドラインなどのルールの変更にも随時対応してもらえる点では非常に有用です。そのため、オンライン診療の件数が増えてきた場合は、導入を検討されてもよいでしょう。

一般的に使われている通話アプリを使用してオンライン診療を行う場合は、端末内の他のデータと連携しないようにする必要があります。オンライン診療専用のスマホまたはタブレットとサービスのIDを用意するのが望ましいと考えます。また、一般的なアプリやサービスを利用する場合、医師側から患者側に接続する必要があります。患者側から接続すると誤接続など思わぬトラブルが発生する危険性があるためです。

オンライン診療を行う場所

訪問診療の場合、看護師が患者のお宅を訪問して、医師がオンラインで対応することが認められています。このように、他のスタッフがオンライン診療利用支援者として訪問し、患者側の通信環境を調整することが可能です。

患者は、物理的に隔離されたプライバシーが保たれた清潔で安全な空間にて診断を受ける必要がありますが、診察室と同等の条件の場所に患者が所在することまでは要求されていないようです。職場でもよいとされているので、通常の個室や患者の自宅の部屋で差し支えないでしょう。

一方で医師は、電波状況が良い場所で、音声を用いた診断に影響を及ぼさない場所にて診断を行う必要があります。画像と音声の双方向通信が確保され、その範囲で対面診療と同等となっていることがオンライン診療の前提というのが理由です。一般的な診察室や処置室として利用しているスペースであれば問題ありません。つまり、診察室と同じ環境であればベストであり、少なくとも屋外の公共の場所で行わないことが条件と言えるでしょう。

医師と患者の本人確認

緊急時をのぞいては、オンライン診療では身分確認書類を用いて相互の本人確認を行う必要があります。たとえば、一般の通話アプリを利用するのであれば、医師の側から患者側の端末にかける(接続する)ことで本人確認をしたうえで、医師側が医師本人であることを示す顔写真付きの身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど)を提示し、医籍の登録年を示す必要があります。また患者側についても、本人確認書類(保険証、マイナンバーカード、運転免許証など)を提示する必要があります。

ただ、社会通念上、医師と患者が本人であることが確認できる状況であれば、繰り返し本人確認をする必要はないとされています。つまり、クリニックや病院で初回の対面診療を行い、そこでオンライン診療のための連絡先を交換したのであれば、次回以降、オンライン診療に移ったとしても、お互い医師であり患者本人であることはすでに確認されているため、あまり問題になることはありません。その意味では、結局、初診が診察室での対面診療であれば、本人確認などは必要ないということになります。

一方、初診をオンライン診療で行う場合は、医師は運転免許証やパスポートと医師免許証を提示し、患者には保険証を提示してもらうことが実際の運用になるかと思います。ちなみに、医師が提示する顔写真付きの身分証明書に住所を含む必要はないので、パスポートの顔写真の入った部分を提示することでも構いません。

診療計画の作成

ガイドラインでは、診療録とは別にオンライン診療の診療計画を作成し、それを2年間保存することが定められています。保険診療を行うのであれば、3年間の保存が必要です。また、診療録の付属書類の扱いとなることから、5年保存が望ましいともいわれています。

診療計画には、
①オンライン診療で行う具体的な診療内容(疾病名、治療内容など)
②オンライン診療と直接の対面診療、検査の組み合わせに関する事項(頻度やタイミングなど)
③診療時間に関する事項(予約制など)
④オンライン診療の方法(使用する情報通信機器など)
⑤オンライン診療を行わないと判断する条件と、条件に該当した場合に直接の対面診療に切り替える旨(情報通信環境の障害などによりオンライン診療を行うことができなくなる場合を含む)
⑥触診ができないことなどにより得られる情報が限られることを踏まえ、患者が診察に対し積極的に協力する必要がある旨
⑦急病急変時の対応方針(自らが対応できない疾患などの場合は、対応できる医療機関の明示)
⑧複数の医師がオンライン診療を実施する予定がある場合は、その医師の氏名および、どのような場合にどの医師がオンライン診療を行うかの明示
⑨情報漏洩などのリスクを踏まえて、セキュリティリスクに関する責任の範囲およびそのとぎれがないことなどの明示
を記載することとなります。入院計画書をイメージしていただくとわかりやすいかと思います。この診療計画については、患者に明示し、同意を得る必要があります。オンライン診療を複数の医師でチームを組んで行うのであれば、チームの医師全員の氏名を記載しておく必要があります。

患者の同意

オンライン診療では、「患者からの明示的な同意」を取る必要があります。ガイドラインのQ&Aによると、書面または電子データで患者に署名してもらう方式になります。

先述した診療計画とともに、オンライン診療の諸注意(対面診療を組み合わせる必要があること、診療の都度実施の可否を判断すること)と、どんなツールを使うのか、セキュリティ面はどのようになるのかについても患者に説明し、同意を取る流れになるでしょう。

医師が自宅で行う場合の届出

オンライン専門のクリニックであっても、公衆に医療を提供する場である以上、届出が必要です。オンライン診療の要件の中に、「オンライン診療を行う医師は、医療機関に所属していること」とあります。自宅でオンライン診療だけを行う場合でも診療所を開設する必要があるので、いずれかの医療機関に所属することになります。

まとめ

オンライン診療の要件について、モノや設備の面から説き起こしてみました。実はオンライン診療を始めるにあたって、大きな設備投資は必要ないことがお分かりいただけたかと思います。今、目の前にあるものでも、十分に始めることができます。開業医の方も勤務医の方も、これを機会にオンラインでの診療を始められてはいかがでしょうか。

井上昌弘

井上昌弘

医療情報技師。現在は、診療所と訪問看護ステーションを有する医療法人の役員。医療については、行政庁、大手医療法人の企画部門、中小規模の医療法人に属し、行政、経営層、現場(事務)の3つのレイヤーでの経験を有する。