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深層強化学習を用いてCT画像から膵臓を自動セグメンテーション―轟・加藤の「医療AI トレンドを追う」(3)

2019年6月7日(金)

アイリス株式会社AIエンジニアの轟佳大氏が、眼科専門医でデジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏と共に、企業や大学における医療AI開発の取り組みを紹介する連載コラムです。取り上げてほしいテーマや質問事項、記事の感想などございましたら、「m3com-editors@m3.com」までメールをお送りください。

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ななめ読み
- 中国・浙江大学の研究グループが発表した深層強化学習に関する論文。
- CT画像から自動的に膵臓の領域をセグメンテーションする。
- セグメンテーション精度は従来の研究結果よりも高いレベルに到達した。


今回は医用画像を題材にした最新論文を紹介します。モデルの詳細や結果画像などは論文を参照してください。こちらの論文を面白いと思い今回取り上げた理由は、「膵臓のセグメンテーションという非常に難しいタスクに挑んでいる」、「深層強化学習を用いている」ためです。

この論文は『IEEE Transactions on Medical Imaging』という医用画像に関するトップジャーナル誌に掲載されており、「深層強化学習」という技術が用いられています。まずはそもそもの深層学習技術の関係性から説明します。

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轟氏 作成

現在多くの“AI”と呼ばれているものは一般的に深層学習(教師あり学習)を用いていますが、今回の研究は深層学習(強化学習)を用いています。深層学習は目的に応じて使用するモデルが異なるのですが、今回の研究ではセグメンテーションを目的とした「セグメンテーションモデル」を使用しています。

今回用いられている強化学習とは、「深層学習モデル自身が様々な試行を繰り返し、結果として返ってくる報酬値の最大を目指すことで、自身の実行パターンを最終目的に最も適する形へと変更する」手法です。強化学習の研究の際に題材としてよく用いられているゲーム領域で例を挙げると、ステージのクリア方法を教えずに報酬の最大化を目指し、機械側がアクションを変える事でクリアさせるというものです。ゲームの中で敵が出た際に「倒す」、「避ける」などのアクションに報酬がついており、報酬値の最大化を目指し、機械側が試行錯誤し実行していくのです。Googleの子会社であるDeepMindが開発した人工知能「AlphaGo」が、世界最強の囲碁棋士に勝利した際のアルゴリズムにも深層強化学習が用いられていました。

本研究でターゲットとなる膵臓は非常に小さく、提案研究にて使用した腹部CT画像においても、他の臓器を含めた領域比の平均として0.5%程度しか映りません。膵臓を自動セグメンテーションするタスクに対して、Axial、Coronal、Sagittal面の腹部CT画像を用いて、「①深層強化学習にて物体の位置検知」 + 「②深層学習・セグメンテーションモデルにてセグメンテーション」を組み合わせて研究しています。

深層強化学習の手法として「Q-Learning」という強化学習手法が採択されており、「最初は腹部CT画像全体を捉え、次に全体の中でも左側領域を捉え、その次に左側領域の真ん中を捉え…」というように自身で膵臓の位置を最適に捉える学習方法をAxial、Coronal、Sagittal面で行います。深層強化学習のメリットとして、報酬値を最大化させることが目的な為、膨大な枚数の教師画像が不要という点が挙げられます。

次に深層強化学習により捉えられた膵臓領域画像を用いて、セグメンテーションを行います。セグメンテーションモデルで用いられているものは「U-Net」というモデルで、医用画像分野ではよく用いられています。Axial、Coronal、Sagittalの3種類の画像に映る膵臓部分をそれぞれセグメンテーションした後に、領域が最も重なった部分を抽出し、Axial面に出力するという流れです。

セグメンテーション精度は従来の研究結果よりも高いレベルに

今回の研究では、腹部CT画像が82症例含まれている「NIH pancreas segmentation dataset」を用いています。また評価指標として、医用画像処理のセグメンテーション研究で一般的に使用される「Dice similarity coefficient(DSC)」を用いて精度を評価しています。結果としては従来研究よりもMean DSCが高く、86.93±4.92 となりました。

これらの結果を受け、研究グループはさらなる膵臓部のセグメンテーション方法の検討、および膵臓部に生じる疾患の検出・セグメンテーションを目指すとのことです。この研究は中国のIT企業である騰訊(テンセント)との共同財団よりサポートを受けて進められました。ただ、このような最新技術の応用研究は現在積極的に行われている段階であり、医療現場に登場するのはまだ少し先になりそうです。

第3回目も読んでいただきありがとうございました。この連載では読者からのリクエストに応えていきたいと思っています! 連載の感想や「○○について聞いてみたい!」「xxについて教えて欲しい」などがありましたら「m3com-editors@m3.com」までメールを頂けると嬉しいです!

轟佳大

轟佳大

アイリス株式会社 AIエンジニア。1992年生まれ、立命館大学大学院 情報理工学研究科修了。大学・大学院を通して医療AIの研究を行い、大学院在学中にはシンガポール国立情報研究所にて医療AIの研究に従事。最新論文は医工学分野のトップカンファレンスに採択された。研究や仕事の傍ら、医学生や医師、社会人向けに医療AIの講演などを行っており、スライド「AI×医用画像の現状と可能性」(http://ur0.work/SfKm)は1万viewを超える。医療と最新テクノロジーとアイスが好き。

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