アイリス株式会社AIエンジニアの轟佳大氏が、眼科専門医でデジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏と共に、企業や大学における医療AI開発の取り組みを紹介する連載コラムです。取り上げてほしいテーマや質問事項、記事の感想などございましたら、「m3com-editors@m3.com」までメールをお送りください。
ななめ読み
・今回用いる資料は筆者である轟が作成した「AI×医用画像の現状と可能性 2020年上半期版」のスライドをもとにしています。
・2回に分けて2020年上半期にプレスリリースなどで発表されたAI×医用画像に関する取り組みの中から自身が関心を抱いた事例を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連とその他の関連に分けてご紹介します。
毎年年末に「その年のAI×医用画像の総集編」と称して轟がまとめ、無料公開をしている「AI×医用画像の現状と可能性」という医療AIに関するまとめスライドがあります。2020年上半期は各社の医療AIに対する取り組みが活発になったことや、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で新たな医療AIの取り組みを発表した会社が増えたことなどを受けて、上半期版 & 下半期版に分けてまとめスライドを発表することにしました。すでに「AI×医用画像の現状と可能性 2020年上半期版」は無料公開済みで、今回はこちらのなかから注目する取り組みを解説したいと思います。
前回の記事にて「日本で登場予定のCOVID-19を題材とした画像診断支援システム」を3つ(エムスリー株式会社、株式会社CESデカルト、富士フイルム株式会社)紹介しました。今回はそれらの取り組み以外を紹介しようと思います。
株式会社NTTデータはインドのDeepTek社とともにインド国内にてCOVID-19関連の診断支援技術の提供を開始しました。 CT画像もしくはX線画像内の正常領域と対象とする画像とを比較した際に異常が見受けられる部分を画像解析の結果と解析結果をレポートとして出力するという診断支援システムです。こちらはインドでまずは実証実験を行ったのちに、アジア太平洋諸国と日本への展開を検討しているとのことです。
シーメンスヘルスケア株式会社は、Siemens Healthineers(ドイツ)が開発したCT画像内の「すりガラス陰影(GGO)」や 「浸潤影(consolidation)」を自動的に検出し、セグメンテーションを行う診断支援システムを日本国内のユーザーとともに共同研究すると発表しました。 シーメンスヘルスケア株式会社は同様の医療AI診断システムに関するプレスリリースをいくつか発表しており、最近ではコニカミノルタ株式会社と協業し、AIを用いた受託画像解析サービスを行うと発表しました。
株式会社両備システムズは岡山大学にてCOVID-19を対象とした画像診断支援システムの臨床試験を開始しました。カナダのスタートアップであるDarwinAI社が開発&公開しているCOVID-19患者のX線画像を事前学習したAIモデルであるCOVID-Netを活用したAIモデルです。
前回の連載時にも記載しましたが、COVID-19関連の医療AIシステムは実証実験までの速さが大事なため、多くの医療AIモデルが海外製や海外のCT画像・ X線画像を事前学習したモデルとなっていることが多いです。
画像領域以外でもAIを用いたCOVID-19対策は活発に行われており、問診領域では一般社団法人日本医療受診支援研究機構が「AI受診相談サービス ユビー」の提供を開始しています。こちらは風邪らしき症状が出た際に、質問に回答するだけで問診AIが病院に行くべきか、行くならば何科を受診するべきかを教えてくれるサービスです。そのほかには創薬領域でもAIを活用した新薬候補化合物の分子設計構築や、新薬候補化合物の探索を行う会社も出てきています。
さらに世界的な機械学習コンペティションプラットフォームであるKaggleでは、米ホワイトハウス主催でCOVID-19に関する新たな知見を見出すために、約3万本のCOVID-19に関する論文をオープンデータベースとして無料公開したり、COVID-19の新規患者数の予測を行うコンペティションなどを開催したりしています。このコンペティションでは、日本人の医師兼Kaggler(Kaggleに出場しているデータサイエンティストのこと)が優勝しました。
いかがでしたか。 前回紹介した3社以外にも様々な企業が、突如発生したウイルスによる世界的被害を少しでも食い止めるべく現在も日夜研究や製品化に取り組んでいることが分かります。また画像領域のみならず、創薬領域や問診領域などでも医療AIによる活用の広がりをとても顕著に見ることができました。次回は2020年上半期におけるCOVID-19関連以外の医療AIの取り組みをご紹介したいと思います。
次回もお楽しみに。
轟佳大
アイリス株式会社 AIエンジニア。1992年生まれ、立命館大学大学院 情報理工学研究科修了。大学・大学院を通して医療AIの研究を行い、大学院在学中にはシンガポール国立情報研究所にて医療AIの研究に従事。最新論文は医工学分野のトップカンファレンスに採択された。研究や仕事の傍ら、医学生や医師、社会人向けに医療AIの講演などを行っており、スライド「AI×医用画像の現状と可能性」(http://ur0.work/SfKm)は1万viewを超える。医療と最新テクノロジーとアイスが好き。