アイリス株式会社AIエンジニアの轟佳大氏が、眼科専門医でデジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏と共に、企業や大学における医療AI開発の取り組みを紹介する連載コラムです。取り上げてほしいテーマや質問事項、記事の感想などございましたら、「m3com-editors@m3.com」までメールをお送りください。
ななめ読み
- 2019年の深層学習×医用画像処理に関する動向を紹介。
- AIを搭載した医療機器の販売が開始し、研究もさらに発展した。新規領域の盛り上がりを多く見ることができた。
今回は2019年の年末に轟が作成した「AI×医用画像の現状と可能性2019年版」に関して説明をしつつ、2020年の医療AIに関して期待するポイントを述べたいと思います。2020年も引き続き「医療AI トレンドを追う」にて連載を続けていきますのでよろしくお願いします!
2019年は研究でも事業でも多くの進展があった一年でした。事業領域では日本初のAI (機械学習技術)を搭載した医療機器の販売開始や、ディープラーニングを使った医療機器の薬事承認などをはじめとして多くのプロダクトが開発されました。また、診断領域のみならず、治療や手術支援を行うスタートアップも誕生し、動きが多かった一年でした。
一方、研究領域では「患者の画像から病変を見つけながら診断書を自動生成する研究」や、「CTとMRIの両特徴を学習したAIにて病変検出を行う研究」など多くの新規研究が考案・発表されました(詳細は「AI×医用画像の現状と可能性2019年版」をご覧ください)。その中でも今回は、昨年個人的に最も大きな議論が巻き起こったと感じた研究について紹介します。
2019年9月、“Can we trust deep learning models diagnosis? The impact of domain shift in chest radiograph classification”というタイトルの論文が公開されたことで、日本でも研究者の間で議論が巻き起こりました。この論文を簡単に要約すると、「学習時およびテスト時に使用する医用画像において、撮影環境やメーカーの種類などの条件が異なれば、結果に影響が出てくる」という論文です。
これは「ドメインシフト」と呼ばれる問題で、深層学習のみならず他の領域でも課題となる問題です。この論文の結論部分に書かれた一文「ドメインシフト問題を解決するために、『GAN(generative adversarial networks)を用いた医用画像の水増し』を行う例が見受けられるが、GANによる闇雲な画像生成は得策ではなく、きちんとバリエーションを補うためにGANを使うべきである」は、激しい議論を巻き起こしました。この論文をきっかけに「そもそもAIを学習させる際にGANで生成した画像を使うこと自体がおかしい」など様々な意見が飛び交いました。
GANが出てきた直後は、集めることが難しく、そもそも枚数の少ない医用画像に対してGANを用いることは最適な水増し手法と考えられていました。しかし現在はGANを用いた「闇雲な画像生成」ではなく、「足りないバリエーションを埋め合わせるため」&「人体の構成に限りなく類似した生成画像を作るため」にGANの新手法研究が多く行われています。たとえば人体の遺伝情報と医用画像を組み合わせることで、より高度な画像生成を目的とした研究などが行われています。このように今後もさらに発展する医療領域においてAIを用いたシステムは改善されながら適合していくと思います。
2020年は社会実装がより進む一年になることが期待されます。臨床現場でAIという言葉を聞くことが様々な場面で増えてくると思います。さらにテクノロジーの進歩により働き方が変わり始める一年でもあると予想します。テクノロジーに合わせて人間が変容し進歩してきた人類史をこの先も継承しながら、様々な場面で働き方の革新が起きてほしいなと思います。そのためにも今年も引き続き医療AIのトレンドをチェックしていきたいと思います。
2020年一発目の記事はいかがだったでしょうか。今年も引き続きよろしくお願いします!では次回もお楽しみに!
轟佳大
アイリス株式会社 AIエンジニア。1992年生まれ、立命館大学大学院 情報理工学研究科修了。大学・大学院を通して医療AIの研究を行い、大学院在学中にはシンガポール国立情報研究所にて医療AIの研究に従事。最新論文は医工学分野のトップカンファレンスに採択された。研究や仕事の傍ら、医学生や医師、社会人向けに医療AIの講演などを行っており、スライド「AI×医用画像の現状と可能性」(http://ur0.work/SfKm)は1万viewを超える。医療と最新テクノロジーとアイスが好き。