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AI Lab プロジェクト医療×AIの発展にご協力いただける方を募集しています

腹部CTに映る肝腫瘍を深層学習で自動検出、IEEE EMBCレポート (前編)―轟・加藤の「医療AI トレンドを追う」(6)

2019年8月22日(木)

アイリス株式会社AIエンジニアの轟佳大氏が、眼科専門医でデジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏と共に、企業や大学における医療AI開発の取り組みを紹介する連載コラムです。取り上げてほしいテーマや質問事項、記事の感想などございましたら、「m3com-editors@m3.com」までメールをお送りください。

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ななめ読み
- 医工学領域では世界最大の国際学会「IEEE EMBC」で研究発表を行う。
- 今回の採択領域トップ3は画像処理領域、信号処理領域、リハビリ領域。
- 学会出展の医療機器メーカーは軒並みBrain Machine Interfaceを取り扱う脳波系ベンチャー企業。


このたび、私、轟が執筆した論文が医工学領域では世界最大の国際学会「IEEE EMBC」に採択され、研究発表を行う機会をいただきました。そこで今回は、7月23-27日にドイツ・ベルリンで開催されたIEEE EMBCの参加レポートをお届けします。

EMBCとは、医工学領域の研究グループを取りまとめるIEEE EMB Societyが主催している国際学会で、正式名称は「International Engineering in Medicine and Biology Conference」。 Biomedical Engineering関連では最も大きな国際学会で、今年で41回目の開催になります。参加者がどこの地域から来たのかを世界地図に記したり、サインボードに名前を寄せたりするのが恒例となっています。なぜか世界地図にはリラックマが居ました。

轟

IEEE EMBSアカウントより引用、左下にリラックマが。https://twitter.com/IEEEembs/status/1154876709935751173

筋電位、眼電位、脳波から睡眠障害を判定

この学会の特色は「医工学領域」という広い領域を対象としている点であり、今年は医療現場向けロボット、応急処置時に使える簡単で強力な治療機材、脳波から行動予測を行うBMI(Brain Machine Interface)研究、睡眠時のサポートを行うスリープテック、医用画像処理研究や病院における医工学研究の実応用など多岐にわたる研究が発表されていました。

昨年EMBCに採択された論文(約2200本)の上位3領域は「リハビリ領域(407本)」、「信号処理領域(370本)」、「画像処理領域(324本)」でしたが、今年(2278本)は「画像処理領域(454本)」、「信号処理領域(451本)」、「リハビリ領域(326本)」の順でした。画像処理領域では「深層学習×画像処理」のテーマがほとんどでしたが、信号処理領域においても「深層学習×センシングした波形情報」がテーマの研究が多く見られました。

例えば信号処理領域における研究発表では「EMG(筋電位)、EOG(眼電位)、EEG(脳波)の3種類の波形を入力とし、SeqSleepNet (新規提案された深層学習モデル)に読み込ませることで、その波形の持ち主が睡眠障害か否かを判定する」という研究などが発表されていました。

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筋電位、眼電位、脳波から睡眠障害を判定

採択論文2278本のうち、アメリカ合衆国からの採択数が最も多く(449本)、日本からも多くの研究者が参加をしていました。私が発表した研究は“Automatic Detection of Focal Liver Lesions in Multi-phase CT Images Using a Multi-channel and Multi-scale CNN”というタイトルで、腹部CT画像に映る5種類の肝腫瘍を、深層学習×医用画像処理を用いて自動検出するという研究です。この研究は大学院時代に行っていたものであり、修士論文として書いたものが採択された形です。(採択時、すでに大学院修了をしていたので所属が現会社になっています)

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認知症発症の予測研究が活発に

学会は5日間開催され、1日目はスポンサー企業によるワークショップ(午前午後合わせて15ジャンル)が行われ、午前:BMI領域、午後:深層学習領域のワークショップを聴講しました。学会2-4日目はオーラルセッション、キーノートセッション、ポスターセッションでした。キーノートセッションでは著名な研究者による特別講演が6ジャンル/日で行われました。学会5日目はオーラルセッションと閉幕セレモニーでした。

特別講演では医用画像処理分野の世界的研究者であるDinggang Shen博士および深層学習のブラックボックス化を解決する研究を行っている世界的研究者であるKlaus-Robert Müller博士の講演を聴きました。Shen博士は米・ノースカロライナ大学にて研究を行う研究者で、今年10月に開催されるMICCAI(医用画像処理領域における世界最大の国際学会)のチェアマンも担っています。講演では自身のラボで取り組んでいる医用画像処理研究について発表されました。Müller博士は深層学習が抱くブラックボックス化に関する問題を解決する手法として、自身が確立した「深層学習がどこを認識しているのかを確認する手法」を発表されました。(詳細などは次回のお楽しみに!)

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『深層学習のブラックボックス化』を解決する研究を行っているKlaus Robert Müller博士の講演での一枚

様々な疾患が研究題材となっていましたが、中でもアルツハイマー型認知症を予測する研究が画像、センシング、その他行動予測などにおいて非常に多く見られました。今回の学会に出展している医療機器メーカーは軒並み脳波計測機製造販売を行う大企業やベンチャー企業でした。この領域に私があまり触れていなかったため、とても新鮮でした。

IEEE

今回もありがとうございました!前編は主にEMBCがどのような学会か、どんな雰囲気だったかについて紹介しました。後編では具体的にどのような研究が行われていたのかをさらに掘り下げていきたいと思います。

轟佳大

轟佳大

アイリス株式会社 AIエンジニア。1992年生まれ、立命館大学大学院 情報理工学研究科修了。大学・大学院を通して医療AIの研究を行い、大学院在学中にはシンガポール国立情報研究所にて医療AIの研究に従事。最新論文は医工学分野のトップカンファレンスに採択された。研究や仕事の傍ら、医学生や医師、社会人向けに医療AIの講演などを行っており、スライド「AI×医用画像の現状と可能性」(http://ur0.work/SfKm)は1万viewを超える。医療と最新テクノロジーとアイスが好き。

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