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脳構造から認知症のなりやすさを予測、IEEE EMBCレポート (後編)―轟・加藤の「医療AI トレンドを追う」(7)

2019年9月26日(木)

アイリス株式会社AIエンジニアの轟佳大氏が、眼科専門医でデジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏と共に、企業や大学における医療AI開発の取り組みを紹介する連載コラムです。取り上げてほしいテーマや質問事項、記事の感想などございましたら、「m3com-editors@m3.com」までメールをお送りください。

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ななめ読み
- 医工学領域では世界最大の国際学会「IEEE EMBC」の参加レポート後編。
- 米ノースカロライナ大学のShen博士が、自身のラボにて行う最新研究の報告を行う。
- Berlin Big Data CenterのMüller博士が、AIのブラックボックス化を防ぐ最新研究の特別講演を行う。


今回も、前編に引き続き7月23-27日にドイツ・ベルリンで開催されたIEEE EMBCの参加レポートをお届けします。後編では、特別講演や私が聴いて面白かった研究をまとめていきたいと思います。なおEMBCに関する情報は前編をご覧ください。

幼少期の脳構造の変化と自閉症発症の関係にAIで迫る

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「Deep Learning in Neuroimaging and Radiotherapy」というタイトルで特別講演を行ったDinggang Shen博士は米ノースカロライナ大学で医用画像処理の研究を行う研究者で、今年10月13日から開催されるMICCAI(医用画像処理領域における世界最大の国際学会)のチェアマンも担っています。

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Shen博士のラボでは主に、脳画像を用いたセグメンテーションに関する研究や、モダリティの異なる同部位の画像を用いた研究(位置合わせや、MRI画像からCT画像の生成など)を数多く行っています。特別講演内では主にこの2領域の研究に関して講演をされました。

脳画像を用いた研究については、博士自身も参画している「NIH Lifespan Human Connectome Projects」と呼ばれるプロジェクトを交えて紹介されました。このプロジェクトでは、0-5歳における脳構造、5-23歳における脳の使われ方、45歳以降における脳疾患に関する研究が行われているとのことです。

このプロジェクトの最終的なゴールは、幼少期の脳構造の変化と自閉症などの精神疾患の関係、そして70歳以降の脳構造の変化とアルツハイマー型認知症の関係などを解明する事に設定されています。

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Neuroimagingに関するプロジェクトの最終ゴールを説明するShen博士

脳画像を用いた研究領域ではとりわけセグメンテーションを目的としたものが多く、T1強調画像とT2強調画像から脳脊髄液と白質・灰白質を自動的にセグメンテーションする研究なども紹介されました。この研究では、主に医療系のセグメンテーションを行う際によく使用される「Densely-connected U-Net」と呼ばれるU-Netの改良モデルを用いていました。

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モダリティの異なる同部位の画像を用いた紹介パートでは、異なるモダリティの画像をいかに扱うかということにフォーカスを当てた研究が数多く紹介されました。例えば、GAN(Generative Adversarial Network)と呼ばれる深層学習の生成モデルを用いて、MRI画像から高精度な擬似CT画像を生成する研究などが取り上げられました。

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またGANにヒントを得た下画像の研究は、データの前処理時にどのような画像を教師画像として用いるのかを自動的に仕分けるというものです。テンプレートとする画像に似た構造を持つサブジェクト画像のような画像を生成します。構造が似たものを登録し、最終的に訓練時に使うためのデータにするのです。

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AIのブラックボックス化を防ぐには

続いて、ドイツ・ベルリンビッグデータセンター所属のKlaus Robert Müller 博士は、深層学習が抱くブラックボックス化に関する問題を解決する手法として、博士自身が確立した「深層学習がどこを認識しているのかを確認する手法」について特別講演を行いました。

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『深層学習のブラックボックス化』を解決する研究を行うMüller博士の講演での一枚

Müller博士は、ブラックボックス化問題を解決するために考案した出力から入力までの経路を逆に辿る手法である「LRP(Layer-wise relevance propagation)」に関する研究内容を中心に講演されました。これは出力までの経路をもとに、レイヤー間の関係性を維持した上で逆伝搬していき、出力から入力までの経路を辿るというものです。Müller博士はこちらのサイトでさらに詳しく解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

今回は、EMBCの様子をさらに掘り下げていきました。前編・後編と2回にわたって記したレポートはいかがだったでしょうか? 今回もありがとうございました。次回からは再び通常の医療AIのトピックについて書いていく予定です。ご期待ください。

轟佳大

轟佳大

アイリス株式会社 AIエンジニア。1992年生まれ、立命館大学大学院 情報理工学研究科修了。大学・大学院を通して医療AIの研究を行い、大学院在学中にはシンガポール国立情報研究所にて医療AIの研究に従事。最新論文は医工学分野のトップカンファレンスに採択された。研究や仕事の傍ら、医学生や医師、社会人向けに医療AIの講演などを行っており、スライド「AI×医用画像の現状と可能性」(http://ur0.work/SfKm)は1万viewを超える。医療と最新テクノロジーとアイスが好き。

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