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病理医不足にAIが診断支援、感度95%で胃がんを判定も、日本病理学会

2019年4月9日(火)

日本医療研究開発機構(AMED)が2019年4月7日に開催した「平成30年度臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業成果報告会」のレポートです。

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地域での遠隔病理診断をAI(人工知能)が支援ーー。日本医療研究開発機構(AMED)が4月7日に開催した「平成30年度臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業成果報告会」で、日本病理学会理事長で東京医科歯科大学教授の北川昌伸氏と京都大学大学院医学研究科附属総合解剖センター准教授の吉澤明彦氏が登壇し、病理医不足の現状の解決策としての、AIを活用した病理診断支援の取り組みを紹介した(『病理画像のAI診断支援に向けデータ収集‐佐々木毅・東京大学准教授に聞く』『AIが「ひとり病理医」を助ける‐佐々木毅・東京大学准教授に聞く』を参照)。

「病理医は慢性的に不足」

まず北川氏は、常勤病理医が勤務する病院の43.8%では病理医が一人しかいない「ひとり病理医」であり、病床数400以上の病院の29%では病理医が不在であるという現状を紹介し、「病理医は慢性的に不足」としたうえで、病理医不足を補うために、病理診断支援AIの開発が狙いだと述べた。

病理診断支援AIの開発に向け、同学会ではまず、病理画像を高解像度でデジタル化して取り込むバーチャルスライドスキャナ―を使って作成された病理画像である「P-WSI(Pathology-Whole Slide Imaging)」をデータ収集サーバに集め、匿名加工した上で、国立情報学研究所内のストレージで管理をしている。なお、病理診断のほか病理所見、臨床診断、生年月日や年齢、性別などの患者情報を付帯して収集した。

今年2月末までに収集した病理画像は13万件で、そのうち消化管生検が約4万4千件と最も多く、その次に多いのが婦人科生検で約1万4千件だった。そこで、AI画像診断支援のニーズが多い領域として、AI開発の対象をまず胃生検、大腸生検、婦人科生検とした。

AI開発のためには画像の収集だけでなく、収集したデータに疾患名や病変部位などの必要なデータを付与する「アノテーション」という作業が必要になる。吉澤氏は「詳細なアノテーションを付けるのは大変な作業」として、開発の対象とした胃生検、大腸生検、婦人科生検について、それぞれアノテーションを担うチームを学会内で立ち上げ、作業を進めてきたと紹介した。これまでにアノテーションを付与した病理画像数は、胃生検で約3400件、大腸生検で約6000件、婦人科生検で約4000件という。

病理画像から感度95%で胃がんを判定

同学会では、アノテーション済みの病理画像を機械学習で学習させ、病理診断支援AIの開発を進めている。吉澤氏は、東京大学と国立情報学研究所の研究チームが研究を担当する胃生検病理AIエンジンと九州大学と国立情報学研究所の研究チームが研究を担当する大腸生検AIエンジンについてそれぞれ紹介をした。

胃生検病理AIエンジンは、東京大学医学部附属病院病理部で2011~2013年に撮影された、がんを含む胃生検標本996症例のデータを用いて開発した。胃がんは非腫瘍のGroup1から悪性腫瘍のGroup5まで5段階で評価されるが、AI開発ではGroup1またはGroup5のいずれかを判定するように、学習させた。学習に使用していない同病院のテストデータで性能を検証したところ、Group5感度95.0%、Group1特異度82.2%、Group2-5に対する感度90.7%だった。また、病理医とAI判定の不一致率は16.2%だった。

ただ、他の施設の病理標本でAIの性能をテストしたところ、東大病院の病理標本と比べてGroup2-5の感度はいずれも同等か高かったが、Group1の特異度はいずれも低くなった。これは施設によって病理標本の作り方や染色の仕方が変わることが要因とみられ、今後の課題とした。

病理診断AIエンジンの今後の開発計画としては、子宮頸部生検AIの開発を現状進めているほか、今年度の取り組みとして、慢性胃炎、前立腺、がんのリンパ節転移、肺生検、腎がん、乳がん生検など20項目を計画中という。

地域の遠隔病理診断をAIで支える

病理医不足の対策として、地域の医療機関では遠隔病理診断を行うためのネットワークが長野県(信州病理連絡会)と滋賀県(さざなみ病理ネットワーク)で構築されている。今回、ほかに福島県に福島病理ネットワーク、徳島県に徳島病理ネットワークを新たに構築し、これら遠隔病理診断インフラを基盤に、AI病理診断支援システムの検証を行う計画だ。

これまでに福島県立医科大学を中心として、病理医が不在の星総合病院、福島赤十字病院、ひとり病理医の太田西ノ内病院、竹田綜合病院、南東北病院、会津医療センターの間でネットワークを構築、福島県立医科大学に病理画像データを収集し、日本病理学会のデータベースに供出する仕組みを整えたとした。

日常的に使う顕微鏡撮影画像で使えるように

同学会では病理画像をP-WSIとして収集してきたが、P-WSIを撮影するために必要なデジタルスキャナは1台1~2千万円ほどかかり、大学病院などを除き多くの医療機関には設置されていないという課題がある。そこで、病理医が通常使う顕微鏡のカメラで撮影した病理画像でのAI診断支援ができないかも今後検討していくという。

事業を進める中で、多くの課題も明らかになってきた。診断支援に活用するための判定精度を数値で評価しているが、「(臨床で活用するためには)数値だけの問題ではない。(開発で)数値目標を設定するのは考えものかもしれない」(吉澤氏)という。ほかに、同じ画像の中でがんと炎症など複数の種類の病変を検出するAIの開発、施設間でのAI精度の差、病理画像への個人情報混入の問題、そもそも病理画像をデジタル化できる施設が少ない、といった課題を挙げた。

長倉克枝

長倉克枝 m3.com編集部