日本医療研究開発機構(AMED)が2019年4月7日に開催した「平成30年度臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業成果報告会」のレポートです。
日本医療研究開発機構(AMED)が4月7日に開催した「平成30年度臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業成果報告会」に山梨大学大学院総合研究部医学部眼科学准教授の柏木賢治氏が登壇し、日本眼科学会が進める眼科画像の収集とAI(人工知能)開発の取り組みにについて紹介をした。
柏木氏はまず眼科領域について、スクリーニング、診療、研究のそれぞれの課題を指摘した。疾患の早期発見に向けたスクリーニングでは担い手である専門医不足、低い健診受診率、自覚症状が少ない場合の発見手遅れなどが課題となっている。また適切な治療に有用な大量のデータ収集と解析体制が不足し、また診療が高度化されるなか、医師自身、専門外の疾患の知識や経験が不足しているという課題をした。一方、研究では、日常業務が膨大となり研究活動に支障が出ているほか、研究対象患者数が少なく海外研究と比べると見劣りしているとした。
これらの課題解決に向けて、同学会では以下を目的として、画像などのデータベース基盤構築とAI開発を進めていくとした。
(1) 眼科診療レベルの向上
スクリーニング、診断支援
個別化医療(テーラーメード医療)の支援:予後判定、診療支援
(2) 眼科研究レベル向上
大規模先進研究:多施設共同研究の推進
トランスレーショナル研究:基礎的研究の臨床応用への支援
(3) 眼科研究開発の推進と世界展開
体制・成果の海外展開
(4) 眼科以外の他の医学領域との連携:新しい病因の発見・治療支援
また、AMEDの助成事業が終了後もこれらを継続的に推進するためのシステム構築に向けて、新たに社団法人を設立する予定という。
事業は産官学で連携して進めていく。同学会の他、日本眼科医療機器協会、アカデミアのデータサイエンティストなどが参加し、データ収集とその解析・利活用を進める。同学会が中心となり運営するクラウド上の眼科データベースに、電子カルテや眼科検査機器などからの画像や診療情報を収集。そこから解析センターデータベースにデータを送り、国立情報学研究所などの共同研究機関とのAI研究や、日本眼科医療機器協会と協力して診断・診療支援機器などの開発を進める。また、他の診療科とのデータ連携による共同研究も想定している。データ収集に当たっては、電子カルテ収載の診療データを自動で行うなど、臨床現場の医師らになるべく負担をかけない形で進める。
現状では、同学会のクラウドサーバが稼働しており、参加医療機関1施設からオンラインで約14万件の眼底画像データの転送が始まっている。また、連携する健診センターからは年間40万件の眼底画像データが送られてくる見込みという。ほかに、オフラインでは診断情報付き眼底画像が参加大学から1万5千枚以上、健診センター約8万枚集まっているという。これらの収集したデータを用いて、眼底画像から緑内障を自動判別するAIの研究などを行っているとした。
柏木氏は、データの収集とそれを活用した画像診断支援AIの開発研究などは「やれば、結果はでる」としたうえで、「ローカルで結果が出てくると大きな流れの阻害になりかねない」として、学会などの枠組みでの運用体制構築の重要性を訴えた。
長倉克枝 m3.com編集部