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薬物依存患者の離脱症状を緩和するVR―松村雅代の「VRは医療をどう変える?」(9)

2020年1月23日(木)

心療内科医で、医療VRサービスを提供する株式会社BiPSEEの代表取締役・CEOの松村雅代氏が、医療分野でのVR活用について最新情報をお伝えする連載コラムです。月1回更新します。

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第9回目となる今回は、米ラスベガスで2020年1月7~10日に開催された世界最大のテクノロジーカンファレンス「CES2020」のDigital Heath Summitより、VRの薬物離脱症状に対する活用についてお伝えします。 

背景

米国における薬物依存問題と言えば、直ぐに想起されるのがオピオイドでしょう。臨床ダイジェスト『時流 米オピオイド危機と日本』でも取り上げられているように、米国では1999年から2017年までの間に約40万人が過剰摂取で死亡したと報じられ、トランプ大統領が2017年10月に「公衆衛生上の非常事態」を宣言するに至り、2018年10月には公的医療保険制度での対応や代替薬の開発などでオピオイド患者と地域を支援する「SUPPORT法」が成立しました。VRの疼痛緩和効果への注目を一層高め、医療現場への積極的な導入を後押ししてきた要素の一つが、オピオイド危機であったとも考えられます。

離脱症状を緩和するVR

2020年1月8日、“VR Tackles Addiction & Latest Government Updates”と題したセッションで登壇したのは、救急専門医で、Kyle ER & Hospitalの代表であり、Cynergi Health Partners社のCEOであるHarbir Singh医師。同社は薬物依存患者(特にオピオイド依存)のリハビリに特化したVRサービスを提供しており、Singh医師はKyle ER & Hospital(地域密着型の救急専門病院で、365日24時間体制)での活用の実際について語りました。

同病院では、離脱症状への対応に標準的な薬物治療を行ってきましたが、2019年にVRを薬物治療と組み合わせるアプローチを開始。不安や痛み・パニックといった離脱症状を大幅に改善することが出来るようになったとのことです。このVRは、心を落ち着かせるような音楽(穏やかなメロディの繰り返し)と360°見渡せる動画(海辺など)のコンテンツで、リラックスを促します(動画はこちら)。Singh医師によると、VRを施行された患者の85%は「ストレスが軽減された」と評価しており、アルコールやベンゾジアゼピン系薬物依存にも有効であるとのことです。

考察

薬物依存患者の離脱症状に焦点を当てたVR治療という視点は新しく、医療VRの可能性を広げた試みと言えるでしょう。evidence構築は今後の臨床研究に委ねられるという状況ではありますが、①ターゲットとしている離脱症状が、不安・痛み・パニックという、従来からVR治療の対象となっている症状であること、②VRコンテンツは、リラクゼーションを促す音楽と風景という、多くの医療用VRで用いられているモチーフであること、を考えると、既にevidenceが確立されたVRの応用と認識しても差し支えないのではないかと思われます。心療内科医の視点から、心身医学領域で用いられる「漸進的筋弛緩法(筋肉の緊張と弛緩を繰り返す、リラクゼーション法)」がVRに盛り込まれていることは興味深く、評価できます。

日本ではオピオイド依存が問題になることは考えにくいものの、アルコール依存やベンゾジアゼピン系薬物依存は大きな課題となっており、手詰まり感を禁じ得ない場合も少なくないと感じています。VRの活用を積極的に検討することは、治療側にとっても患者にとってもメリットが大きいものと考えます。

参考資料

松村雅代

松村雅代 心療内科医・株式会社BiPSEE 代表取締役

(株)リクルートを経て、米国MBA留学(医療経営学)。米国医療ベンチャーSkila Inc.日本支社代表等を経て、2002年岡山大学医学部に学士編入。2006年医師国家資格を取得。岡山大学病院総合診療内科・横浜労災病院心療内科にて心療内科専門研修を修了。2014年より成人発達障害を担当している(現在も継続中)。2016年に発達障害者向けプログラミングスクールの設立に参加。VRと出会い、医療領域での可能性に気づき、2017年に(株)BiPSEEを設立。現在、VRを活用したメンタル領域のDTx の開発を進めている。

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