1. m3.com
  2. AI Lab
  3. ニュース
  4. 手術や治療を支援、医師が語るVRの臨床活用―松村雅代の「VRは医療をどう変...

AI Lab プロジェクト医療×AIの発展にご協力いただける方を募集しています

手術や治療を支援、医師が語るVRの臨床活用―松村雅代の「VRは医療をどう変える?」(1)

2019年5月13日(月)

心療内科医で、医療VRサービスを提供する株式会社BiPSEEの代表取締役・CEOの松村雅代氏が、医療分野でのVR活用について最新情報をお伝えする連載コラムです。月1回更新します。

» 連載1回目から読む

VR(Virtual Reality)という言葉から、何を連想するでしょうか。ゲームやエンターテイメントという方も多いと思います。実は、VRを含むXR(Extended Reality)という領域で最も注目を集めているもののひとつが医療分野での活用なのです。

私は、心療内科医として発達障害の臨床とキャリア支援に携わる中、2016年にVRと出合い、医療領域における活用の可能性を感じ、2017年に医療VRサービスを提供する株式会社BiPSEEを起業しました。米国をはじめとする地域でのVRの目覚ましい進展を横目に見ながら、国内の状況に現実的に対応する日々を送っています。私がVR(を含むXR)に携わる理由は、この技術が医師と患者の関係を前向きな方向に大きく変える力になる、という思いからです。AI(人工知能)との併用や高速通信を可能にする第5世代(5G)移動通信システムの活用等で機能や応用範囲が格段に広がっており、この思いは一層強くなっています。

本連載では、主に以下の5つの視点を軸に、最新情報を俯瞰的にお伝えします。臨床に携わる全ての先生方が、それぞれのお立場でVR(を含むXR)のメリットを享受される一助となることが出来れば幸いです。


1.地域:米国、英国(National Health Service〔国民保健サービス〕の戦略的な取り組みは特徴的)、スイスやスペイン、イスラエル等で様々なサービスが開発され提供されています。

2.サービスの対象と種類:医師をはじめとする医療従事者を対象とするサービス、患者(家族を含む)を対象とするサービスに大別されます。

3.技術の特徴:Virtual Reality (VR)にAugmented Reality (AR)とMixed Reality (MR)を加え、総称してExtended Reality(XR)と表現されています(技術の詳細は後述)。それぞれ特徴を活かしたサービスが開発されています。

4.疾患・領域:手術シミュレーション(外科領域全般)、リハビリテーション、急性・慢性疼痛の緩和、PTSDに対する暴露療法から、自閉スペクトラム症、弱視の補正等、多くのサービスが存在します。

5.目的:医学教育、治療支援、治療手段、と3つに大別できます。それぞれ、医療サービスの提供側(医療従事者)と受け手側(患者・家族)を対象としたものがあります。


第1回となる今回は、①VR, AR, MRとは何か、②医療VRの歴史とハードウエア、についてお伝えします。

VR、AR、 MRとは何か

1.Virtual Reality(VR): 専用のゴーグルを装着する、あるいはVR環境に入る等して、CG映像の世界に実際に入り込んだかのような体験ができる技術です。VRの本質は「みかけは現実ではないが、実質的には現実」であり、「仮想現実」という表現は正確ではありません。例えば、不安障害に対する暴露療法が挙げられます。

2.Augmented Reality (AR): CGで作られた映像を現実世界に重ねて投影する技術で「拡張現実」と訳されています。術野に病変の映像を重ねて手術の正確さと迅速さを高めるといった活用方法が挙げられます。

3.Mixed Reality (MR): 現実に投影されたCGに対して直接干渉(触れて動かす等)ができる技術で「複合現実」と訳されています。代表的なハードウエアとしてはMicrosoft社のHololensが挙げられます。2019年中には、Hololens2の販売が開始される予定です。

医療VRの歴史とハードウエア

最初に医学領域でVRが用いられたのは1965年。Robert Mann氏が開発し、整形外科分野のトレーニング等に用いられました。1980年代後半に、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)が登場します。注目を集めたのは、2000年にUniv. of WashingtonのHoffmanらがPain誌に発表したVRゲームを重度熱傷患者に用いた症例報告でした。オピオイドでも耐えられない熱傷治療の痛みをVRが劇的に軽減したのです。ただ、当時のVR機器は3万USD程度と高額で、専ら研究用でした。

2015年11月にGear VR、2016年3月にOculus Rift とHololens、4月にHTC Viveが発売され、価格面でも仕様面でも導入しやすい機器が充実したことで、臨床での活用が本格化しました。2018年5月にスタンドアロン型(高性能PCを必要としない)のOculus GoとMirage Soloが販売され、更にサービスの幅が広がっています。2019年5月21日にはOculus Quest(Oculus Goの進化版)の販売が予定されており、更なるサービスの充実が期待されます。

松村雅代

松村雅代 心療内科医・株式会社BiPSEE 代表取締役

(株)リクルートを経て、米国MBA留学(医療経営学)。米国医療ベンチャーSkila Inc.日本支社代表等を経て、2002年岡山大学医学部に学士編入。2006年医師国家資格を取得。岡山大学病院総合診療内科・横浜労災病院心療内科にて心療内科専門研修を修了。2014年より成人発達障害を担当している(現在も継続中)。2016年に発達障害者向けプログラミングスクールの設立に参加。VRと出会い、医療領域での可能性に気づき、2017年に(株)BiPSEEを設立。現在、VRを活用したメンタル領域のDTx の開発を進めている。

このシリーズの記事