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胃生検から腫瘍検出の病理AI、感度95.0%ー第108回日本病理学会総会

2019年6月18日(火)

2019年5月9日~11日に開催された第18回日本病理学会総会のレポート記事です。

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京都大学大学院医学研究科附属総合解剖センター准教授の吉澤明彦氏は、第108回日本病理学会で、同学会が日本医療研究開発機構(AMED)への公募で採択された病理診断支援AI開発事業「Japan Pathology Artificial Intelligence Diagnostics Project(JP-AID)」について講演。同事業による胃生検材料を用いたAIエンジンのβ版の開発が終了し、今後、福島県と徳島県の地域病理診断ネットワークを使って実証実験を行っていくことを明らかにした。

病理現場を取り巻く環境は厳しく、病理医の慢性的不足と高齢化という課題が継続している。JP-AIDは、病理診断を支援するための診断支援AIの開発を行い、病理診断支援ネットワーク基盤を通じた全国的なAIの利活用を目指している。

日本病理学会のクラウド上に用意したサーバーに16大学病院、7市中病院、同学会7支部から病理デジタル画像(P-WSI)の後ろ向き登録を行い、さらに全国の4病理診断地域ネットワークからもP-WSIの前向き登録を行っている。現在までに匿名化した13万症例、約19万枚のP-WSIとその付帯情報が収集され、将来的に症例数を17万症例まで拡大していく計画だ。

収集されたP-WSIデータは、AIによる深層学習用に用いるため同学会内に設置された専門チームがアノテーションを実施し、国立情報学研究所AIアルゴリズム開発チームと共同でAIエンジンを開発。既に個別に胃生検AIチーム(アノテーション付P-WSI数・約3400件)、大腸生検AIチーム(同約6000件)、婦人科生検AIチーム(同約4000件)が稼働している。

福島と徳島で胃生検AIエンジンの実証実験

胃生検に関しては、胃生検病理AIエンジンβ版が東京大学と国立情報学研究所の共同で完成。β版は東京大学医学部附属病院病理部が有する2011~2013年までのがんを含む胃生検標本996例分(非腫瘍2528個、腫瘍1923個)を用いてアノテーションを実施した。学習・テストの際にはP-WSIは256×256ピクセルに分割し、ネットワークはGoogle Netを使用している。

これを用いて連続999症例(がんを含むのは145症例)でβ版の性能を検証した。その結果、非腫瘍の検出感度は95.0%、腫瘍の検出特異度は82.2%、異型・良性腫瘍・悪性腫瘍の疑いの感度は90.7%であった。この結果について吉澤氏は「がんを見落とさないという意味では良好な結果が得られている」と評した。

遠隔診断ネットワークを利用してβ版を6施設のデータで検証したところ、悪性腫瘍の感度は98.3~100%だった一方で、非腫瘍の特異度は37.9~71.7%であり、吉澤氏は「ほぼがんを見落とさないことはわかったが、がんでないものをがんと診断してしまう状況が残念ながら起きている」と説明。これは各施設のHE染色の色調の違いが関係していると推測され、「今後多施設での検証が必要」との認識を強調した。

一方、吉澤氏は新たな病理診断ネットワークが構築された福島県と徳島県でこの胃生検AIエンジンの実証実験を行うことも紹介した。「福島病理診断ネットワーク」は福島県立医科大学のほか民間の6医療機関、「徳島病理診断ネットワーク」は徳島大学医学部ほか民間の2医療機関が参加。それぞれのネットワークでは福島県立医科大学や徳島大学が各医療機関から送付されたP-WSIで病理診断を行うとともに、胃生検P-WSIを日本病理学会のサーバーに集積し、胃生検AIエンジンの実証実験を行う計画だ。

村上和巳

村上和巳

1969年宮城県生まれ。中央大学理工学部土木工学科卒。医薬系専門出版社で記者経験の後、2001年からフリー。2007~08年はオーマイニュース日本版デスク。現在は医療、国際紛争、災害・防災の3本柱で執筆、講演活動などを行う。医療では一般向け・専門向け媒体の双方で活動。ForbesJapanオフィシャルコラムニスト。著書に「化学兵器の全貌」(三修社)、「大地震で壊れる町、壊れない町」(宝島社)、共著に「がんは薬で治る」(毎日新聞出版)など多数。