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病理組織画像から免疫CP阻害薬の奏功確率を予測ー第108回日本病理学会総会

2019年7月2日(火)

2019年5月9日~11日に開催された第18回日本病理学会総会のレポート記事です。

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東京大学大学院医学系研究科衛生学教授の石川俊平氏は、第108回日本病理学会のシンポジウムで講演し、がんの病理組織画像に遺伝子変異情報を紐づけて解析するAIプラットフォーム「Luigi」について紹介した。

講演で石川氏は「一般的な猫の画像ならば形体を明示しやすいが、病理組織画像の持つ情報はいわゆる『かたち』とは少し違う情報で形体を口で表現しにくい」と述べ、病理組織画像を用いたAIによる診断支援では、この点が症例間相互の直接比較や多数症例の蓄積による知見の獲得の壁になっていると指摘した。

そのうえで病理組織画像診断は具体的な細胞の形体というよりはむしろそれらを多く含んだ集合体のパターン・模様のようなものと考えられることから、病理組織像の表現に「ディープテクスチャ情報」を用いる考えに至ったと説明した。

これは例えば絵画をディープニューラルネットワークで解析すると、描かれた対象物の情報とディープテクスチャ情報(画風情報)に分離できることに着目し、病理組織画像から空間不変性を持つパターン・模様を認識するもの。具体的にはディープテクスチャの行列をPCAで2次元マッピングとして数値化。多数の症例での組織型を一望できることを可能にした。これにより、多数の病理組織画像から各病理医が注目している病理組織像と類似する画像を検索することが実現した。

また、この2次元マッピングについて石川氏は「特定の遺伝子変異を持つがんの病理組織像などは組織型の特徴空間の中で一定の分布を取ることが分かった」とし、通常の病理組織画像から免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬などが奏功するかどうかを一定の確率で予測できることを強調した。

ゲノム病理情報検索システム「Luigi」

石川氏はこれらを応用してディープテクスチャ情報をもとにしたゲノム病理情報検索システム「Luigi」のwebアプリケーションを開発。「Luigi」では検索したい画像を、アプリケーション上にドラッグ&ドロップして検索ボタンを押すことで類似画像を表示する。表示画像は臓器などで絞り込みも可能で、がん種、類似度スコアなども付記。また、表示された画像各5症例ずつ、「似ている」、「似ていない」というフィードバック情報を与えることで、遺伝子変異のコンセンサスも見られる。現在はiPhone用アプリでも利用できるという。

こうした遺伝子変異の検出には、クラス分類に寄与した部分を基の画像に乗せて表示するGrad-CAMを用いて判定することが可能と石川氏は指摘。p53変異を有する乳がんの病理組織画像でGrad-CAMを行ったところ、「一部はクロマチンの濃い異型板や核分裂像に反応していることが分かった」という。また、「こういう分析をすると今まで人が見たことがない解釈できない特徴量に相関するケースもあり、教科書には載っていない病理学的な形態の検出にも利用できる可能性がある」との展望を語った。

村上和巳

村上和巳

1969年宮城県生まれ。中央大学理工学部土木工学科卒。医薬系専門出版社で記者経験の後、2001年からフリー。2007~08年はオーマイニュース日本版デスク。現在は医療、国際紛争、災害・防災の3本柱で執筆、講演活動などを行う。医療では一般向け・専門向け媒体の双方で活動。ForbesJapanオフィシャルコラムニスト。著書に「化学兵器の全貌」(三修社)、「大地震で壊れる町、壊れない町」(宝島社)、共著に「がんは薬で治る」(毎日新聞出版)など多数。