2019年5月9日~11日に開催された第18回日本病理学会総会のレポート記事です。
北海道大学大学院医学研究院病理学講座腫瘍病理学教室の石田雄介氏は、同大学で構築を進めているAIを活用した脳腫瘍の組織病理診断システムについて第108回日本病理学会で紹介した。
石田氏は脳腫瘍について
・組織型が問題となる一方で広がりや断端の診断は治療上あまり必要とならない
・頭蓋骨や血液脳関門で閉鎖された空間に生じるため炎症や挫滅などによる修飾を受けにくい
・遺伝子変異が知られているものが多い
などの条件があるため病理診断が決め手になりやすい分野であることを指摘。また、北海道大学独自の現状として、脳神経外科の関連病院が多く、組織画像や免疫染色・遺伝子情報を含む診断データが豊富にあるため、病理診断でのAI支援システムを構築しやすい環境にあると説明した。
同教室では、バーチャルスライドデータの容量やハードソフトともシステム全体の検証のため処理系ではEdge AIを選択した。石田氏らが構築したシステムは、ハードウェアは同大学死因究明センターのバーチャルスライド(WSI:Whole Slide Imaging)スキャナとサーバー、多重ディスクアレイと無停電電源、AI-GPUサーバーで構成。これに公開ソフトウェアであるLinux-ubuntuやDocker、CUDA、そのほか病理診断用のソフトウェアを組み込んだ。さらに深層学習モデルをトレーニングするためのWebアプリとしてNVIDIA DIGITS、深層学習フレームワークとしてはcaffe、画像分類モデルとしてはGoogLeNetを使用した。実際の運用ではWSIを256×256ピクセルの単位に分割して用いている。
このシステムで作成したモデルで神経膠腫の遺伝子・染色体情報予測を行ったところ、染色体1p/19q共欠失(1番染色体短腕と19番染色体長腕が共に欠失している)については91%の精度で判定可能だった。また、神経膠腫とリンパ腫の鑑別診断も90%以上の精度で可能であり、近隣病院から術中にE-mailで伝送されたHE染色画像での鑑別診断でも同様の高精度を得ることができたという。
もっとも現在のモデルでは診断判定が微妙なものでもかなり断定的に提示することもあり、実用化に向けてはより曖昧さを残したモデルに改良したい意向。そのうえで石田氏は「診断の判断根拠がブラックボックスでわからないのが課題」とし、あくまで診断の中心ではなく補助的位置づけになるだろうとの見通しを示した。
村上和巳
1969年宮城県生まれ。中央大学理工学部土木工学科卒。医薬系専門出版社で記者経験の後、2001年からフリー。2007~08年はオーマイニュース日本版デスク。現在は医療、国際紛争、災害・防災の3本柱で執筆、講演活動などを行う。医療では一般向け・専門向け媒体の双方で活動。ForbesJapanオフィシャルコラムニスト。著書に「化学兵器の全貌」(三修社)、「大地震で壊れる町、壊れない町」(宝島社)、共著に「がんは薬で治る」(毎日新聞出版)など多数。