2019年5月9日~11日に開催された第18回日本病理学会総会のレポート記事です。
株式会社Preferred Networksアメリカ最高執行責任者の大田信行氏は5月10日、第108回日本病理学会で講演し、同社が国立がん研究センターなどと共同で進めている血中マイクロRNAのAIによる網羅的解析によるがんの早期診断への応用プロジェクトについて解説。この手法で乳がんでは感度98%以上、特異度99%以上を実現していることを明らかにした。
大田氏は「現在の起こりつつある二つの『革命』は、深層学習の登場と、安価になった1000ドルゲノムシーケンサーやゲノム編集の登場である」と指摘。そのうえで「生体メカニズムは極めて複雑。人間がすべての生命現象を正確に把握するのは不可能であり、もはやAIを使わざるを得ない」との見解を示した。
同社はこの二つの革命を融合させる取り組みとして、国立がん研究センター、産業技術総合研究所人工知能研究センターと共同で「人工知能(AI)を活用した統合的がん医療システム開発プロジェクト」を2016年から開始。このプロジェクトは、ゲノムデータ、治療薬データ、アッセイデータ、診療データを深層学習によって包括的に解析するプログラムを確立することで医療機器の承認を取得し、それを個別診断や個別治療、創薬などに利用していくことを目標にしている。大田氏は「口で言うほど簡単な作業ではなく、実現には10~20年は要するだろう」との見通しを示した。
大田氏は同プロジェクトの一環として日本医療研究開発機構(AMED)プロジェクトにも採用されている「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」について紹介した。これは国立がん研究センターのバイオバンクを基に最新AIと血中マイクロRNA分析法を組み合わせ、13種のがんにおける早期診断を目指すもの。
従来、血液によるがん診断では、がん細胞が損傷した時に血中に放出されるRNAやDNAを検出する方法が採用されていたが、こうしたRNAやDNAは早期に分解されてしまう性質があり、正確な診断は難しかった。これに対し、大田氏らの研究ではエクソソームに包まれてがん細胞から分泌されるマイクロRNAを検体としている。大田氏は「個々のマイクロRNAがアップレギュレートしたり、ダウンレギュレートしたりするパターンはがん種によって明らかに異なる」と説明し、これをAIに深層学習させ、重み付けをして13種のがんの診断につなげていくとした。現時点では約6万検体を使用し、このうちの8割を学習用データ、残る2割を検証用データとして使用しているという。現時点では乳がん以外の対象がん種でも良好な感度、特異度が得られているとし、近く論文を公表予定であることも明らかにした。
一方、現時点で学習用・検証用の検体は-80℃に一旦凍結したものを解凍して使用しているため、「若干の劣化があることは我々も確認済み」と説明。今後臨床応用の際にフレッシュな検体利用での整合性をどのようにつけていくかが課題の一つであると述べた。
村上和巳
1969年宮城県生まれ。中央大学理工学部土木工学科卒。医薬系専門出版社で記者経験の後、2001年からフリー。2007~08年はオーマイニュース日本版デスク。現在は医療、国際紛争、災害・防災の3本柱で執筆、講演活動などを行う。医療では一般向け・専門向け媒体の双方で活動。ForbesJapanオフィシャルコラムニスト。著書に「化学兵器の全貌」(三修社)、「大地震で壊れる町、壊れない町」(宝島社)、共著に「がんは薬で治る」(毎日新聞出版)など多数。