糖尿病は、いったん発症すると、現代医学の治療でも完治させることはできない。糖尿病になるということは、インスリン注射と血糖値のモニタリングが生涯にわたって必要となるということだ。しかし、コンタクトレンズを着用するだけでインスリンの分泌を制御できたらどうだろうか
最近、韓国の浦項理科大学の研究グループは、ワイヤレスで駆動する「スマートコンタクトレンズ」の技術を開発した。この技術は、糖尿病を検出し、装着するだけで糖尿病性網膜症を治療することを可能にした。
このスマートコンタクトレンズを開発したのは、浦項理科大学の材料科学工学部のセイ・クァン・ハン教授らの研究グループである。このスマートコンタクトレンズは、生体適合性ポリマーからなり、ワイヤレスで駆動する。電気信号で薬物投与を制御することにより、糖尿病を診断・治療できる。コンタクトレンズにバイオセンサーと薬物投与、そしてデータ通信システムの機能がすべて搭載されているのだ。この研究結果は2020年4月、『Science Advances』に掲載された。
研究グループは、スマートコンタクトレンズで分析された、糖尿病のウサギの涙に含まれるブドウ糖レベルと、採血によるブドウ糖レベルを比較したところ、一致することを確認した。研究グループはさらに、スマートコンタクトレンズに封入された薬物によって、糖尿病性網膜症を治療できることも確認した。
さらに最近では、これらの技術を応用することで、糖尿病だけでなくアルツハイマー病やパーキンソン病などの脳疾患、うつ病などの精神疾患を治療する研究も行われている。研究グループは、リアルタイムの生体認証分析を備えた自己制御型の治療用スマートコンタクトレンズの開発が、ウェアラブルヘルスケア業界に迅速に適用されることを期待している。
研究グループを率いるセイ・クァン・ハン教授は、こうコメントする。「世界的企業がウェアラブル機器に関する本格的な研究開発を行っているにもかかわらず、糖尿病と網膜症の診断や治療のためのワイヤレス駆動医療機器の商品化は不十分です。今回、私たちが糖尿病の診断と治療、そして網膜症の治療という薬物投与システムを搭載したワイヤレス駆動のスマートコンタクトレンズを開発したことで、関連業界の発展に大きく貢献できることを期待しています」。
荒川友加理
1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。