医療現場での課題解決に向けて取り組む、起業家医師(アントレドクター)にお伺いするインタビューシリーズ
現在、m3クイズにて、AIを用いた画像診断支援システムによる画像クイズを掲載しています。ぜひ挑戦してみてください! ※m3クイズは医師限定コンテンツです。あらかじめご了承ください。
内視鏡などの医療画像からがんなどの病変を検出する人工知能(AI)の開発が進む。ただともひろ胃腸科肛門科(さいたま市南区)院長の多田智裕氏はがん研究会有明病院(東京都江東区)などと組み、初期の胃がん病変を高精度に見つけ出すAIによる画像診断支援システムを開発した(『内視鏡画像から胃がん検出、感度98%、がん研有明と医療ベンチャー』参照)。ダブルチェックやスクリーニングとして臨床現場での実用化にむけて、AI画像診断システムの開発のために、昨年秋には医療ベンチャーの「AIメディカルサービス」を創業した。現状の内視鏡検査での課題と、その解決に向けた試みを多田氏に聞いた(2018年1月19日にインタビュー、全2回の連載)。
AIによる医療画像診断支援システムの開発を始めた経緯を教えてください。
まず医療現場には大量の医療画像があふれて、それを診る専門医の処理能力を超えるようになってきているという課題があります。例えば、胃がん検診では一人当たり5-60枚の内視鏡画像を撮ります。私が所属している浦和医師会の管轄内で6万人が胃がん検診を毎年受けるので、300万枚の内視鏡画像ダブルチェックを専門医約70人で1年間かけて行っている現状です。通常業務に加えて1日3000枚の読影を行わなければなりません。これは、専門医の処理能力を明らかに超えています。ここ数年間、本当に困っていました。
そんなときに、「ディープラーニング(深層学習)によって『機械に目ができる』。医療画像検査をディープラーニングでできるようになる」という(ディープラーニングに詳しい東京大学特任准教授の)松尾豊先生の講演を聴きました。2016年11月のことです。松尾先生に聞いてみたところ、「(内視鏡画像のAI診断支援は)誰もやっていないのでは?」ということだった。AIが診断支援をしてくれるならやってもらったほうがいい。でも本当にできるのかわからないのなら、まずは自分がやってみようと、昨年1月から研究を始めることにしました。
大学や研究機関ではなく民間の診療所で、どのようにして仲間を集めて研究を進めていったのでしょうか?
東京大学の後輩に、ディープラーニングができるエンジニアを紹介してもらいました。東大は1~2年生の教養学部で、医学部生以外の学生と同じクラスになるので、いろいろな学部の知り合いができるのです。そこで「ディープラーニングができる人誰か知らない?」と聞いてみたら、「彼ならできる」と紹介してもらったのが、AIメディカルサービスのCTOの青山和玄です。最初は研究といっても予算も少額。自分のやりたい研究でしたので全て自己資金で行い、国の研究費助成も得ていません。
2017年5月までに開発したのは、内視鏡画像からピロリ菌感染有無を判別するAIです。やってみると、感度90%でピロリ菌病変を見つけられました。約2万枚の内視鏡画像をAIに学習させたのです。トップクラスの医師には負けるとはいえ、十分に使える精度です。ピロリ菌感染の判別って結構難しいんです。内視鏡でピロリ菌感染の有無を見分けるようになるには「10年1万件の修業が必要」と私たち内視鏡医は言うのですが、ピロリ菌感染があるかないかは、そうした修業なしでAIが内視鏡画像から判別できるようになったというわけです。
これで「そこそこ行けそうだぞ」と考えました。でもちゃんと開発をして臨床現場で使えるようにしようとしたら、当然お金がかかります。そこで、ビジネスコンテストに出ることにしました。ネットで調べれば誰でもできることです。2017年6月には、「brave」というビジネスコンテストで優勝しました。僕らのチームがぶっちぎり1位だったと聞いております。
続いて8月には、合宿形式で行われる「インキュベーションキャンプ」に参加しました。ここでは、起業家やベンチャーキャピタルの人らがホテルで合宿をしてビジネスプランを練ったり議論したりするんです。夜の12時までプレゼンのディスカッションと修正をゴリゴリと行う体育会系合宿でした(笑)。ここでもいくつか賞をいただいて、数億円の資金調達のメドが付きました。これで開発資金はまかなえる。そこで9月にさらに開発を進めるためにAIメディカルサービスを創業しました。本気でやろうと思ったらこれくらいのペースでできますよ。
多田智裕・ただともひろ胃腸科肛門科院長に聞く
長倉克枝 m3.com編集部