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消化管検査すべての診断をAIで― 胃腸/肛門科医・多田智裕が語る「内視鏡検査におけるAIのこれから」(3)

2020年6月5日(金)

ただともひろ胃腸肛門科院長および、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEOの多田智裕氏が、消化器科領域におけるAI開発の現状について解説・対談を行う連載コラムです。

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編集部より:内視鏡診断支援AIが導入されることで臨床現場、そして医師のスキルはどのように変化するのだろうか。コラム「多田智裕が語る『内視鏡検査におけるAIのこれから』」の第3回では、多田氏と、共同研究参加医師である、帝京大学下部消化管外科助教の小澤毅士氏および東京大学医学部附属病院消化器内科 特任臨床医の青木智則氏との鼎談の様子をお届けします。前編はこちら

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鼎談者
小澤毅士――帝京大学下部消化管外科助教。2006年、東京大学卒業ののち、虎の門病院、関東労災病院、Baylor University Medical Centerなどを経て、2018年より帝京大学医学部附属病院で勤務。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医など。

青木智則――東京大学医学部附属病院消化器内科 特任臨床医。2010年東京大学医学部卒業後、国立国際医療研究センター病院での初期研修・消化器内科後期研修を経て、2015年より東京大学医学部附属病院消化器内科で勤務。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本内科学会認定医、日本カプセル内視鏡学会医。2019年東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程卒業。現在の研究領域は消化管出血や小腸疾患。 (AIでカプセル内視鏡画像読影を支援も参照。)

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左から多田氏、小澤氏、青木氏

目下の課題は「カプセル内視鏡画像の読影負担軽減」

小澤先生が内視鏡診断支援AIの開発に携わるようになったきっかけについて教えて下さい。

小澤:2017年当時、私は多田先生のクリニックで週1日勤務をしていました。その時にAIの研究としてアノテーションを手伝って欲しいと多田先生に声をかけられたことがきっかけです。最初は早期胃がんのマーキングを担当していたのですが、大腸外科医の私にとって、早期胃がんのマーキングは非常に難しく、大腸ポリープのアノテーションを行うことになりました。

多田:消化器内科医であっても早期胃がんの診断は難しいですからね。正直なところ、症例によっては周りの粘膜と区別がつけづらい場合もあり、私も判別できない症例がありました。結局、早期胃がんについては、胃がんの大家であるがん研有明病院の平澤俊明先生にマーキングをお願いすることになりました(「職人芸」である内視鏡診断スキルを輸出を参照)。

青木先生はカプセル内視鏡に対する画像診断支援AIの研究を行われていますが、どういう経緯で興味を持たれたのでしょうか。

青木:2018年3月に東京大学医学部附属病院消化器内科の小腸グループでAIメディカルサービスのオフィスにお邪魔し、ごあいさつしたのがきっかけです。その数か月前に、多田先生や以前に東大で勤務されていた七條先生がピロリ菌感染診断支援AIの論文を発表しており、同じ小腸グループの山田篤生先生が興味をもったことがコンタクトのきっかけでした。小腸を研究テーマとして扱っている我々にとって、カプセル内視鏡画像の読影負担軽減というのは目下の課題でした。AIでその読影の負担を軽減できないかと考え、多田先生にコンタクトしたのです。

多田:私がAI研究に取り組み始めたきっかけも、上部内視鏡画像の二次読影の業務負担を軽減したいという現場の課題からでしたので、ぜひ青木先生たちにも協力したいと思いました。

大腸のひだ裏は見逃しやすい

先ほど青木先生から、カプセル内視鏡画像における読影作業が負担であるとの課題感が出されました。大腸内視鏡に関しての現状の課題としては何が挙げられるでしょうか。

小澤:大腸のひだ裏に隠れた病変を見逃してしまうという課題があります。大腸の構造上、ひだ裏は見逃しが多いのです。普通はひだ裏をめくるようにスコープを進めていって観察していくのですが、不慣れだとかなり時間がかかりますし、少しだけ怪しい箇所が映っているだけだと見落としてしまう可能性があります。

そのため、360度を捉えるカメラ技術とAIを組み合わせることで、AIが周囲のチェックをし、少しでも画面に捉えられればAIが病変を拾い上げてくれる、という世界になることを期待しています。そうすると、医師は内視鏡スコープの操作と前進方向の確認に集中できるため、内視鏡検査に不慣れな医師の支援になると考えています。

多田:臨床現場に導入するにあたってのハードルはありますか。

小澤:これまで、病変拾い上げや鑑別などの研究に取り組み、静止画で検証したあと、動画を対象としました。その時に感じたことですが、動画になってはじめて「臨床現場でも使える」という印象を受けました。

青木:臨床現場で使えそうという感覚は期待できますね。カプセル内視鏡でも、静止画から動画(静止画の連続再生)へと移行していますが、動画単位になると様々な画像が入り混じるため精度が落ちてしまう印象があります。

小澤:現在、ポリープの拾い上げや鑑別については臨床現場でも使用できるレベルで有用であると感じます。しかし、鑑別に関しては大腸ポリープや大腸がんの場合、「見たらわかる」ことが多いのと、クリニックでは結局「採ってしまえば良い」というようになるので、正直、診断の難しい食道がんや胃がんと比べると、日本に限って言えば画像診断支援AIはそこまでニーズはないのかなとも思います。

多田:日本の内視鏡の先生の診断レベルは高いですからね。

小澤:はい。一方で、昨年のDDW(Digestive Disease Week)で大腸内視鏡AIについて発表した際の反応をみていると、海外の先生にとってはまだまだ拾い上げや鑑別を行うAIのニーズはあると感じます。

1人あたり1万枚以上の画像を撮影するカプセル内視鏡

カプセル内視鏡検査についての課題はどのようなところでしょう。

青木:先ほども少し話しましたが、まず、読影枚数の負担軽減につながるAIに期待があります。小腸カプセル内視鏡では1人あたり1万枚以上もの画像が撮影されますので。また、撮影が自動であるため無駄な写真が多く、その一方で肝心な診断につながる映像はボケてしまっていたり、そもそも撮れていなかったりします。検査においてもAI研究においても、必要な情報が映っている画像を見つけ出すことが難しいと感じる点です。

さらに、小腸の診断自体の難しさもあります。小腸の病変は種類が多く、大きく分けて4分類、細かく分けると10分類程度あります。がんや血管病変、潰瘍などについても、複数の病変パターンがあります。このような要因が、AI開発のハードルを上げているかと思います。

多田:確かにそうですね。胃がんの場合は胃がんの画像のみを学習させればいいですが、カプセル内視鏡画像の場合、有用性を出すためにどのように学習させていくかが悩ましいと感じます。

青木:おっしゃる通りで、学習の順番は色々と試行錯誤しています。まずは、びらんや潰瘍の画像を学習させ、その次に血管の異常の病変の画像を学習させていき…と、1個ずつ課題を解決しています。

多田:現在、統合を進め、4病変を判定するAIを開発しているところですよね。

青木:はい。単純に統合すると精度が落ちてしまうので、どのように解決していくか研究を進めています。カプセル内視鏡検査の場合、病変の見逃しを避けるためには感度を高くキープしたまま、いかに特異度を上げていくかという方向で考えています。

大腸カプセル内視鏡の普及も視野に入れて

多田:カプセル内視鏡は施設が少ないという課題もあると思います。読影支援AIが登場することで、実施施設が増える可能性は考えられますか。

青木:カプセル内視鏡導入時の一番のハードルは読影量なので、そこが軽減されると実施施設も増えると考えています。患者さんの視点からすると、カプセル内視鏡は負担の少ない検査なので導入が進んでほしいですね。

また、大腸カプセル内視鏡の期待も高くなっています。大腸カプセル内視鏡の保険適用範囲は限定されており、使用の幅は広くはありませんが、小腸から大腸までをカバーすることができれば、カプセル内視鏡を実施する施設はより増加するのではないかと思います。

多田:小腸から大腸まで全てを網羅するとなると、読影枚数はさらに倍くらいになるのですか。

青木:大腸カプセル内視鏡はカプセルの両サイドにカメラがあるため倍近くになることもあります。小腸の部分では電池を節約するために撮影枚数が少なくなっています。ただし、人によって大腸の長さも異なるし、排出までの時間も異なるので一概には言えません。

多田:大腸内視鏡検査を嫌がる患者さんも多いので、大腸カプセル内視鏡も広まるといいですね。

青木:おっしゃる通り、特に女性の方では、便潜血で陽性となったものの大腸内視鏡検査は受けたくない、という理由で検査を拒否する方が少なくない印象です。

多田:大腸カプセル内視鏡に関して色々と課題はありますが、海外に目を向けると大腸がん症例が多いのでニーズは大きいかもしれませんね。ぜひ、データが集まってきたら大腸カプセル内視鏡でもAIの研究をやりましょう!

望まれる「深達度を判定するAIの開発」

国内では内視鏡画像診断支援AIとして「EndoBRAIN®」や「EndoBRAIN-EYE®」が登場していますが、多田先生は製品化への取り組みとしてどのような開発を行っていますか。

多田:わたしたちは消化管すべての診断サポートをAIで行うことを目指していますので、下部消化管においても様々な視点から多くの施設と共同研究を進めています。例えば、内視鏡画像を3Dで再構築するという取り組みを産業技術総合研究所と共同で行っています。

青木:多田先生の論文の一つに胃の部位認識がありましたが、それの大腸版というイメージですか。

多田:そうですね。大腸だと部位認識は難しいので、撮れていない部分を見つけるための技術というイメージでしょうか。5年先を見据えて新しい技術と組み合わせた研究も行っています。

今後、内視鏡検査の現場にも続々とAIを利用した医療機器が導入されると予想されます。どのような機能が望まれますか。

小澤:私個人の意見としては、がんの深達度を判定するAIが欲しいですね。開業医にはそこまで需要はないと思いますが、病院では「ESDにするか外科的手術にするか」という治療指針に必須な情報ですので、ニーズは高いと思います。

多田:たしかに深達度の区別できるようになれば、AIが活躍する場所が増えますね。

小澤:将来的には、医師はスコープを挿入するだけになるのが理想だと考えています。

多田:診断はAIが行うということですか?

小澤:そうですね。挿入も支援してくれるとさらに良いです。

AIが技術的な面からもサポートできるようになれば、医師以外が内視鏡検査を実施することへのハードルも下がりそうですね。

多田:胃がん検診と同じように、大腸がん検診でも内視鏡検査が実施されるようになった場合、相当な数の検査をこなす必要が出てきますね。

小澤:そうですね。そうなると、医師だけでは検査を実施できなくなります。カプセル内視鏡の利用も考えられるでしょうか。

青木:はい、短期的に見ればAIの導入によって読影負担が減り、カプセル内視鏡検査が普及することで、より早期に病気が見つかるようになればよいと考えています。また、長期的に見れば、カプセル内視鏡が全消化管をスクリーニングするというアイデアがありますので、もしそうなった場合、効率的に正確に読影するためにAIを用いるという期待があります。

多田:デバイスの進化も同時に求められていますね。本日はありがとうございました。

多田智裕

多田智裕 ただともひろ胃腸肛門科院長、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEO

1971年生まれ。東京大学医学部ならびに大学院卒。東京大学医学部付属病院、虎の門病院、多摩老人医療センター、三楽病院、日立戸塚総合病院、東葛辻仲病院などで勤務。2006年にただともひろ胃腸科肛門科を開業し院長就任。2012年より東京大学医学部大腸肛門外科学講座客員講師。浦和医師会胃がん検診読影委員。日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。『行列のできる 患者に優しい“無痛”大腸内視鏡挿入法』など著書複数。