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AI Lab プロジェクト医療×AIの発展にご協力いただける方を募集しています

内視鏡分野は世界に挑戦できるAI活用分野の一つ ―胃腸/肛門科医・多田智裕が語る「内視鏡検査におけるAIのこれから」(1)

2019年10月8日(火)

ただともひろ胃腸肛門科院長および、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEOの多田智裕氏が、消化器科領域におけるAI開発の現状について解説・対談を行う連載コラムです。

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皆さまはじめまして。私はただともひろ胃腸科肛門科院長であり、内視鏡AIのシステム開発を行う「株式会社AIメディカルサービス」の代表取締役会長・CEOを務める、多田智裕と申します。本コラムでは、約5回 にわたって消化器科領域におけるAI開発の現状について解説・対談を行っていく予定です。第1回は、「なぜ今、内視鏡検査においてAIが必要なのか?」について話します。

内視鏡分野は世界で勝てる可能性のあるAI活用分野の一つ

ディープラーニング技術と高性能なGPU、そして大量のデジタル化されたデータの組み合わせにより、今、「第4次産業革命」とも称される人工知能(AI)革命が進んでいます。AIはすでに画像認識能力で人間を上回っていることから、医療関連AIの中で実用化に最も近いのは画像診断支援分野です。

5億年前のカンブリア紀に眼を持った生物が登場したことにより、爆発的に種が増えたのと同じように、ディープラーニングにより“眼”を得たAIの活用分野は、CT、MRI、X線、眼底画像、皮膚疾患などに広がっています。中でもオリンパス、フジフイルム、ペンタックスの日本企業3社が世界7割のシェアを占める内視鏡分野は、日本の医師の技術も世界最高レベルにあり、良質な画像と質の高い知見が得られやすいため、日本が世界で勝てる可能性のあるAI活用分野の一つです。

「AIなら現場の困りごとを解決できるはず」

2016年に対策型胃がん検診の指針が改正され、従来のバリウム検査に加えて胃内視鏡検査も指針に含まれるようになりました。バリウム検査に比べ内視鏡検査は精度が優れており、たとえば、新潟市では約6割、さいたま市では約7割が内視鏡検査で行われています。しかし、このように内視鏡検診が普及している地域は一部であり、内視鏡検査を対策型胃がん検診の対象にしていない地域も多いのです。

胃内視鏡検診が普及しない理由の一つに、内視鏡画像のダブルチェック(二次読影)業務負担があります。対策型胃がん内視鏡検診では、1症例あたり40枚程度の画像が撮影され、精度管理のため撮影された画像の二次読影が義務づけられています。二次読影により初めて指摘された悪性腫瘍が6.8%(19/277)あったとの新潟市の研究があり、二次読影の有用性が示唆されています。

しかし二次読影は、私自身の例では、外来業務が19時に終了した後、1回あたり20時から21時までの1時間で約70名分(3000枚弱)の内視鏡画像を読影するという大変なものです。

この業務にAIを活用することができれば、医師業務の負荷軽減になります。また、専門医とAIのチェックが組み合わさることによって精度向上が期待できます。これが、内視鏡AIの開発に取り組んだきっかけです。AIメディカルサービス創業の原点は、このような現場の困りごとを解決したい、という想いです。

医療ベンチャーを設立して目指すゴール

がん研有明病院の上部消化管内科副部長である平澤俊明先生をはじめとする仲間たちと開発したディープラーニングを用いたAIは94%の精度で胃がんを拾い上げ、その判定スピードは1枚あたり0.02秒でした。このスピードであれば、内視鏡検査中にリアルタイムでがんの疑いのある箇所を拾い上げることができます。内視鏡検査中にリアルタイムで診断支援を行うことができれば、がんの見逃しを減らすことができるのではないかと考え、動画に対応したAIの開発にも取り組み始めました。

競争が熾烈なAI分野で安定的に研究・開発活動を続けるには、技術者が安心して働ける器が必要です。そこで2017年9月に「株式会社AIメディカルサービス」を設立し、私は代表取締役 CEOに就任しました。

現在、当社では消化器内視鏡AIに特化して開発を進めています。開発しているAIは咽頭がん、食道がん、胃がん、大腸腫瘍、カプセル内視鏡と多岐にわたりますが、まずは第一弾製品として胃がん診断支援AIを予定しています。胃がんを優先している理由は、早期の胃がんは発見が困難で5~25%の見逃しがあるとの報告があるからです。胃がん診断支援AIが臨床現場で使用されるようになり、内視鏡検査を行う医師の診断支援をリアルタイムで実現することができれば、胃がんを半減させることができるはずです。

日本において2017年に胃がんで死亡した人は約4万5000人と、がんによる死亡者の約12%を占めています。早期胃がんの見逃しを減らし、ステージⅠでの治療を開始することができれば、医療費の削減が可能になります。また、胃がんの5年生存率は、進行がんで5〜25%なのに対し、早期がんでは90%と高く、胃がんの早期発見は生命予後に直結しています。

さらに、これは日本だけでなく、全世界に当てはまることであり、日本発の胃がん診断支援AIが普及することで内視鏡医療の発展のみならず、全世界の患者を救うことにつながるのです。

AIは医師の診断パートナー

AIはあくまで医師の診断支援のためのツールであり、医師の役割にとって代わるものではないと考えています。実際に、2018年12月の厚生労働省通知において、「AIは(中略)支援ツールに過ぎない」、「判断の主体は少なくとも当面は医師である」と規定されました。

この通知から、AIは“医師のアシスタント”として検査結果の診断を支援し、それを内視鏡医がチェックするといった活用方法が想定されます。医師はAI支援情報と、自身の目と経験、さらに問診を加えた総合的な判断を加えることで診断精度を高め、より付加価値の高い医療を患者さんに提供できるようになるでしょう。

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AIメディカルサービスが医療機関と共同研究開発中のAI。内視鏡検査中にリアルタイムで胃がんが疑われる場所に矩形を表示する。この表示を参考に、医師が総合的な判断を下すという利用を想定している。

内視鏡AI普及のために必要なもの

当社で開発中のAIはソフトウエア医療機器に該当するため、臨床で使用いただくためには薬事承認取得が必要です。AIを利用した診断支援医療機器で、国内で薬事承認を取得した製品は少なく、上市のためには前例にない検討が必要になります。

また、AIを活用した医療機器は、データ量の増加やアルゴリズムの進化によりアップデートを行うことができなければ実力を十分に発揮し続けることができません。これに対して、AIの進化にあわせて、継続して改善改良が可能で、かつ手続きを簡素化する医薬品医療機器等法の改正が計画されており、来年度の通常国会で法案が成立する見込みです。成立すればAIを利用した医療機器の研究開発が加速すると期待されています。

また、AIを利用した医療機器の普及には政府と社会がAIを医療機器に利用することへの理解を深めることも重要です。そのため私たちは今年5月に設立したAI医療機器協議会を通じ、より良い仕組み作りについて国会議員の方々や厚生労働省の方々と協議を行っています。

内視鏡専門医の英知を集めAI開発を促進

現在、私たちはAIを利用した内視鏡診断支援システムの共同研究を行っており、データ提供にご協力いただいている施設は約80施設まで増えました。共同研究参画施設の皆様には感謝しかありません。AIは革新的なイメージが先行しますが、その基になるデータベース制作の多くは、人による作業に依存しているのです。

これからも、日本の消化器内視鏡の英知を結集し、日本発の内視鏡AI医療を開発して世界の内視鏡医療の発展に貢献できるよう、現役医師としてこれからも全力で取り組んでいきます。次回以降は世界最先端の内視鏡AI研究の紹介、豪華ゲストとの対談を行っていきます。

多田智裕

多田智裕 ただともひろ胃腸肛門科院長、AIメディカルサービス代表取締役会長・CEO

1971年生まれ。東京大学医学部ならびに大学院卒。東京大学医学部付属病院、虎の門病院、多摩老人医療センター、三楽病院、日立戸塚総合病院、東葛辻仲病院などで勤務。2006年にただともひろ胃腸科肛門科を開業し院長就任。2012年より東京大学医学部大腸肛門外科学講座客員講師。浦和医師会胃がん検診読影委員。日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。『行列のできる 患者に優しい“無痛”大腸内視鏡挿入法』など著書複数。