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【連載】 人工知能が医療現場にもたらすもの ―AIは医師を超えるか(1)

2018年9月13日(木)

糖尿病性網膜症を判定する医療機器の販売が米国食品医薬品局(FDA)に承認されるなど、今、人工知能(AI)を用いた画像診断支援システムの開発がめまぐるしく進んでいます。果たしてAIは医療現場をどのように変えるのでしょうか。 シリーズ「AIは医師を超えるか」は、『人工知能の哲学』や『人工知能はなぜ椅子に座れないのか』などを著した松田雄馬氏が、AIの仕組みから応用までやさしく解説する全5回の連載です。

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≪シリーズ≫ AIは医師を超えるか(全5回)

 昨今、「人工知能(AI)」という言葉を聞かない日はないほど、AIに関する技術に注目が集まっている。日々、ビジネスの現場が大きく変わることを期待する論調から、人間の仕事を奪ってしまうという論調まで、様々な議論が行われている。現代は、非専門家であっても簡単に情報発信ができる時代である。この為、我々の耳には日々、有象無象のニュースが飛び込み、何が真実なのかがわかりにくくなってしまっている。

 このような流れを受け、本連載では特に医療現場に変革をもたらそうとしているAIと、その原理について解説を行うとともに、その限界と可能性について論じ、これからの医療現場のあるべき方向性について読者の皆さんと一緒に模索していきたい。

強いAIと弱いAI

 AIに関する議論を行う際にまず議題に上がるのが、「AIが人間に取って代わる」あるいは「AIが人間の仕事を奪ってしまう」などと表現される、いわゆる「AI脅威論」である。これについて整理するため、まずはアメリカの哲学者ジョン・サールの提唱する「強いAI」と「弱いAI」という2つの考え方を紹介したい。簡単に言うと、強いAIとは、意識を持つ機械である。精神を宿した機械と言ってもよいだろう。一方で弱いAIとは、人間の知能の代わりの一部を行う機械を指す。

 近年、人間の知的活動の一部を代替することによって、暮らしを豊かにしていく弱いAIが盛んに研究される一方で、人間に取って代わるような強いAIと呼ばれるものは、いまだその研究の目途すら立っていない。医療現場に変革をもたらすとされるAIは、あくまで利用することで医療現場を便利に豊かにしていく道具(弱いAI)なのである。

さて、そうした観点に基づき、いくつかの医療現場におけるニュース記事を紹介したい。

精度98%、世界初の食道癌判別システム開発

加齢黄斑変性の判定AI、精度99%を達成

糖尿病性網膜症を診断するAI機器を初承認

 こうした技術に共通している考え方は、食道癌や加齢黄斑変性といった、ある症状に関する画像を集め、それらの画像に共通する特徴を弱いAIが見出すことで、そうした特徴を持っていれば「症状がある」、持っていなければ「症状がない」と判断するものである。それでは、こうした弱いAIはそもそもどのような仕組みで動いていて、何故そうした画像に共通する特徴を見出す、つまり認識することができるのだろうか。

 次回以降では、人間の脳を模したとされる「ニューラルネットワーク」と呼ばれるものがどのような仕組みで動いており、どのような原理で特徴を見出すことができるのかについて解説していきたい。


(1)人工知能」が医療現場にもたらすもの(2018年9月13日公開)

(2)人工知能はいかにして癌を認識するのか (2018年9月14日公開)

(3)画像診断による誤りは、どのようにして生じるのか(2018年9月15日公開)

(4)人間の認識能力が画像診断システムの限界を突破する(2018年9月18日公開)

(5)人工知能は人間の仕事を奪うのか(2018年9月19日公開)

松田雄馬

松田雄馬

1982年生まれ。博士(工学)。京都大学工学部地球工学科卒。2007年日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。MITメディアラボやハチソン香港との共同研究に従事した後、東北大学とブレインウェア(脳型コンピュータ)に関する共同研究プロジェクトを立ち上げ、基礎研究を行うとともに社会実装にも着手。2016年、NECを退職し、独立。現在、「知能」や「生命」に関する研究を行うとともに、2017年4月、同分野における研究開発を行う合同会社アイキュベーターを設立。代表社員。