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初診解禁、処方・同意・支払いでの注意点―オンライン診療が切り拓く医療の形(2)

2020年4月21日(火)

シリーズ解説:医療情報技師である井上昌弘氏が、オンライン診療の要点および今後の動向について解説する連載コラムです。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて、政府の規制改革推進会議は4月7日、テレビ電話ツールや電話を用いた診療が初診から時限的に解禁となりました。それに対応して診療報酬も、初診料と処方料が算定できることになります。通常のオンライン診療とは異なり電話でも可能ですので、特別な設備を用意することもなく、患者さんに負担をかけることもなく開始することができるようになりました。

長期処方には気を付ける必要が

今回の解禁で最も気を付けるべき点は、薬の処方に関する問題ではないかと考えます。電話・オンラインでは医療処置を行うことはできないので、その点に関するリスクはありません。ただ、特に電話で診療をする場合は症状が視覚でとらえられないため、患者の訴えを言語情報に頼ることとなり、適切な処方ができないというリスクがあります。

今回の通知では基礎疾患やアレルギーの有無などが分からない場合、7日間分までの処方に制限されました。かかりつけや紹介状持参の患者であれば、基礎疾患などの情報が分かるため、アレルギーの有無が全く分からないということはあまり起きないでしょう。また、想定外の症状が現れて「初診」となるのであれば、対面であっても様子を見る意味もあって、長期の処方は行わないと考えられます。また、今回の通知にあるように、初診で向精神薬(特にリタリン)や、薬剤管理指導料1の対象となる、投与に注意を要する薬剤については処方ができません。

患者のなりすましを防ぐ

次に、患者のなりすましの問題があります。対象ではない患者に処方をしてしまうと問題です。なりすましを防ぐために、本人確認は窓口と同じく保険証で行うこととなります。

通知では、最終的に保険証の情報を得られればよいとしているので、保険証の写真をメールで送ってもらうなどの方法、または保険証の券面記載事項と住所氏名連絡先の聞き取りという方法が考えられます。その場合、初診の患者、または久々に来院された方でなければカルテなどが残っているでしょうから、その情報と照らし合わせることで、なりすましの危険性を下げる事ができます。しかし、保険証の保険者の変更、薬剤の配送先の住所が異なる場合などには十分注意して確認をする必要があります。

患者との同意の取り方

また、オンライン・電話での診療では、患者さんへの説明と同意に関しても若干、留意点があります。説明については、
・いつ、誰がどんな方法でオンライン診療を行うのか
・疾患の内容によっては対面診療が必要な場合もある
・急変の場合に行くべき医療機関
・疾患を見落とす危険性があるため、積極的に協力してもらうこと
・オンラインの通話ツールにおけるセキュリティについて
など、説明すべき点をまとめたフォーマットを作り、メールなどで患者さんに送った上で説明をする方法を取りましょう。また電話の場合でも、フォーマットに則って口頭で説明をすることになります。

次に明示的な同意という点です。これはオンライン診療ガイドラインとそのQ&Aを読むと、同意書に署名等をしてもらう(電磁的記録、すなわち画像でも可)ことになっています。現実的なところであれば、記名して説明を聞いて了解した旨のメモを写真で送ってもらう形になるのではないでしょうか。

オンライン診療、支払いはどうする?

電話で診療したときの診療料の支払いについてもまとめたいと思います。クリニックと患者さんが共にスマートフォンの決済アプリをお持ちであれば、個人間送金で支払ってもらえば簡単です。そうでなくともお薬が「院内処方」の場合であれば、お薬を代引きで送るという対応でリスクを下げることができます。院外処方であれば、振込先を記載した請求書を送るなどの方法で対応することになるでしょう。

また、診療を開始する際、ホームページなどに、以下の特定商取引法の表示を掲載する必要があります。
1、診療報酬と薬価(送料を含む)
2、診療報酬の支払い時期、方法
3、診療の提供時期
4、診療契約の解除に関する事項(即時に履行が終わるので解除できない旨)
5、個人開設の場合クリニックの名称(開設者、管理者〔院⻑〕の氏名)、住所、電話番号、法人の場合法人名、法人の主たる事務所、診療所所在地、診療所の電話番号
6、開設者が法人であって、ホームページなどのオンラインで広告をする場合には、理事長または管理者(院長)の氏名
7、診療報酬、薬価、送料以外に負担すべき金銭がある場合には、その内容およびその額
8、2回以上セットで診療する場合は、その旨及び診療の条件
9、診療に特別な条件があるときには、その内容(リスクや診療しない条件などはこちらと別にページを作るのが望ましい)
10、電子メールによる広告を送る場合には、診療所の電子メールアドレスを表示すること

初診をオンライン・電話で行った場合は1カ月ごとに都道府県へ報告する必要があります。また、オンラインの診療であっても、文字だけのチャットや静止画だけの診療は認められていませんので、ご留意ください。

初診ではない患者への対応方法

ちなみに、慢性疾患で特に変わったところがなく、定期的な経過観察をしている患者さんの処方に大きな制限はありませんが、予想外の症状が現れた場合は「初診」になります。その場合、対面診療と同じ長期の処方は行いにくいのではないかと考えます。慢性疾患で、定期的に同じ処方を継続する場合は、特に制限がないとは言え、オンライン・電話などでの診療のリスクや、今後の見通し、処方する薬剤について説明をし、患者さんの同意を得た上で、その説明の内容をカルテに記載することとなります。電話・オンラインでの診療ではコミュニケーションを丁寧に行うことと、その説明のエビデンスを残すことが求められています。

現実的には、初見の患者対応というより、慢性疾患の患者さんの定期的な来院を避けるため、または訪問診療の患者さんの体調が少々変化して看護師に対応をお願いする場合などにオンライン診療を利用することが多いのではないかと思います。もちろん、オンライン・電話の診療で適切な診療ができないと判断して、来院してくださいと言っても応召義務に違反することはありませんので、オンライン・電話での診療に自信が持てない場合は対面に切り替えることもできます。

COVID-19患者にオンラインで対応する場合

今後多く発生するパターンとして、COVID-19患者にオンラインで対応する場合が挙げられます。主に次のパターンが考えられます。

1, 発熱等の症状があり、COVID-19が疑われるかかりつけの患者

このケースはまさに先ほどの「初診」の対応となります。別の疾患の可能性が否定できない場合でも、今回の通知では処方が可能ですので、医療者の側の感染リスクをおさえつつ、対応ができることがメリットです。

2, かかりつけの患者さんがCOVID-19について陽性と判断されて、入院施設ではなく自宅などで療養し、定期的な処方が必要な場合

この場合は、COVID-19の診断をした医療機関から情報を受ける、または情報の提供依頼を行って情報を得てから対応することになるかと思います。その際、特に処方や診察の制限は記載されていません。そのためか、処方箋に自宅等の療養者である旨の記載をする必要があります。ただその記載によって、COVID-19患者であることが分かってしまいます。そのため、この処方をする際には患者の同意を得る必要があるとされています。処方箋の記載によって薬剤師の処方監査(疑義照会)の機能を期待するという点からだと考えます。

3, 依頼を受けて初見の患者をオンラインで対応することになった場合

この場合も患者の情報については依頼先の他医療機関等から入手できる場合もありますが、仮に情報が入手できなかったとしてもオンラインや電話で処方して問題ないと思われるだけの医学的な所見が得られれば、処方してよいとのことになっています。この場合も処方箋の記載は同様に行うことになります。

慎重な説明と同意が必須

結局は、電話・オンラインであっても、通常考えられる問診などを行った上で、電話・オンラインの特性から積極的なコミュニケーションをとり、慎重に説明と同意の手順を踏み、そのエビデンスを残すことが求められています。その点に留意されればよいかと思います。

なお、今後この特例が廃止された場合には、オンライン診療に関する研修を受けていない場合は行うことができなくなりますのでご注意ください。

井上昌弘

井上昌弘

医療情報技師。現在は、診療所と訪問看護ステーションを有する医療法人の役員。医療については、行政庁、大手医療法人の企画部門、中小規模の医療法人に属し、行政、経営層、現場(事務)の3つのレイヤーでの経験を有する。