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スマホアプリで貧血発見、爪の写真撮るだけ

2018年12月27日(木)

AIに関連する医学論文をご紹介します。

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爪の写真を撮るだけで貧血を判定できるスマートフォン用アプリを、米ジョージア工科大学とエモリ―大学のRobert G. Manninoらの研究チームが開発した。WHOによる貧血の定義はヘモグロビン濃度が血液1dlあたり12.5グラム未満の場合に該当するが、画像から得た爪の色やメタデータを使って濃度を推定するこのアプリの結果を全血球計数(CBC)検査のヘモグロビン濃度の測定結果と比較すると、1dlあたり±2.4グラムという精度と感度97%(95%信頼区間 89%-100%)が得られた(n=100)。また、アプリを個人向けに較正した場合の精度は1dlあたり±0.92グラムだった(n=16)。

これまでもヘモグロビン濃度を簡易に測定するための方法は開発されてきたが、特殊な装置が必要だったり、血液採取が必要だったりした。世界中に20億人の患者がいるとされる貧血を低コストで効率的に正確に判定する方法は求められているが、開発した新手法であれば必要なのはアプリをダウンロードしたスマートフォンだけで、非侵襲的に誰でも使える。また、慢性貧血の患者がヘモグロビン濃度をモニタリングするためにいつでもどこでもすぐに使える測定法としてもこのアプリが使える可能性があると研究チームはみている。

研究成果“Smartphone app for non-invasive detection of anemia using only patient-sourced photos”は12月4日にNature Communicationsに掲載された。

研究チームはまず、写真を解析するアルゴリズムを開発するために、貧血の患者の爪の画像を収集した。CBC検査でヘモグロビン濃度を測定する予定になっていた患者265人が研究に参加し、爪白斑による変色や爪の損傷、マニキュアの塗布、服薬による変色などがないことを確認した。診察室での採血後、初期設定から変更をしていないiPhone5sで、フラッシュありとフラッシュなしの2通りの爪の写真を撮影した。同じように、貧血ではない72人でもCBC検査と爪の写真撮影を実施した。

撮影した写真はコンピュータに転送され、爪のデータ、皮膚の色のデータ、画像のメタデータが抽出された。パラメータからCBC検査のヘモグロビン濃度を推定できるアルゴリズムを、二重平方重みによるロバスト多重線形回帰によって導き出した。患者265人と貧血ではない人72人の合計337人のうち、ランダムに選んだ237人のデータは画像のパラメータとヘモグロビン濃度の関係性を算出するのに使い、残り100人のデータは得られたアルゴリズムを搭載したスマートフォンアプリによって画像から推定されるヘモグロビン濃度とCBC検査で測定した濃度を比較するために使用した。その結果、ヘモグロビン濃度は血液1dlあたり±2.4グラム、系統誤差1dlあたり0.2グラムという精度で推定することができた(95%一致限界)。また、受信者動作特性(ROC)曲線を分析すると曲線下面積(AUC)は0.88で、幅広い濃度で高精度に推定することができた。ヘモグロビン濃度が1dlあたり11.0グラム未満になると貧血とする、よく使われる定義に沿って貧血判定をした場合、感度は92%(95%信頼区間80-97%)で特異度は76%(95%信頼区間62-87%)だったが、WHOが使っている1dlあたり12.5グラム未満という貧血の定義に沿うと感度は97%(95%信頼区間89-100%)と向上した。この精度は、現在臨床の現場で使われている採血が必要なヘモグロビン検査HemoCueと同等で、開発が進められている画像を使った貧血の判定方法よりも高い。

また、開発したアプリを個人向けに調整して患者のヘモグロビン濃度のモニタリングに活用できるかどうかも試した。βサラセミア・メジャーの慢性貧血の患者で輸血療法を受けている2人と、貧血ではない健康な男女1人ずつの4名のヘモグロビン濃度を測定した。患者では4週間周期で実施される輸血に合わせてヘモグロビン濃度は下がって行く。この4週間の間、静脈穿刺で採血してCBC検査でヘモグロビン濃度を測り、同時にスマートフォンで爪の写真を撮影し、それぞれの個人に合わせてアプリを調整した。その後、4週間にわたって撮影した爪の写真からどれくらいの精度でヘモグロビン濃度を推定できるかを検証した。

こうして個人向けに個別調整したアプリでヘモグロビン濃度を推定すると、1dlあたり±0.92グラム、系統誤差1dlあたり0.09グラムという精度が得られた(95%一致限界)。これは、現在臨床現場で利用されているHemocueのような採血や必要なヘモグロビン検査や、採血を伴わないMasimo Radicalといった検査と比べても高い。今後、より大規模な実証実験での性能確認や精度の改善を進めれば、CBC検査に代わる手段としてアプリを利用できるようになる可能性があると研究チームは見ている。

アプリによるヘモグロビン濃度の推定は、患者の皮膚の色や周りの照明の状況の影響をほとんど受けないことも確認できた。ただ、カメラのフラッシュを使って爪の写真を撮影した方が精度良く濃度を推定することができた。また、2種類の異なるスマートフォンを使って爪の写真を撮影した場合でも画像のピクセル強度に有意差はなく、3つの異なるスマートフォンで同一人物の爪を撮影した画像を使ってヘモグロビン濃度を推定した場合の標準偏差は1dlあたり±0.17グラムだった。開発したアプリは、スマートフォンの個体差や機種による違いの影響を受けにくいと考えられるという。さらに、同じ50人の患者の爪の写真から5人の血液学の臨床医とアプリのそれぞれがヘモグロビン濃度を推定すると、CBC検査結果と比較して臨床医は1dlあたり±4.6グラム(95%一致限界)という精度で、アプリは1dlあたり±1.0グラム(95%一致限界)だった。ROC曲線を描くと臨床医はAUC0.63だったのに対して、アプリは0.94だった。級内相関係数(ICC)はアプリとCBC検査結果が0.95(95%信頼区間0.92-0.97)と非常によく一致していた一方で、臨床医5人の平均値とCBC検査結果は0.59(95%信頼区間0.37-0.74)に留まり、臨床医同士のICCは0.20(95%信頼区間0.07-0.36)と低くて医師によってばらつきがあった。

原文を読む

Smartphone app for non-invasive detection of anemia using only patient-sourced photos Robert G. Mannino, David R. Myers, Erika A. Tyburski, Christina Caruso, Jeanne Boudreaux, Traci Leong, G. D. Clifford & Wilbur A. Lam |Nature Communicationsvolume 9, Article number: 4924 (2018)| Published: 04 December 2018

鴻知佳子

鴻知佳子 ライター

大学で人類学、大学院で脳科学を学んだ後、新聞社に就職。バイオを中心とする科学技術の関連分野を主に取材する。約10年の勤務後に退社。ずっと興味があった現代アートについて留学して学び、現在はアートと科学技術の両方を堪能する方法を模索中。