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高齢患者の「いつもと違う」をAIが判定-林啓介・医療法人芙蓉会医療介護連携本部

2019年12月2日(月)

2019年10月23〜25日に幕張メッセで開催された第2回医療IT EXPOの開催レポートです。

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10月23日から25日まで幕張メッセで、医療およびヘルスケア分野へのIT応用に関する日本最大の展示会である「医療IT EXPO」が開催された。この展示会では、医療法人芙蓉会医療介護連携本部の林啓介氏による「ICT健康管理システムを用いた科学的健康管理の実態と看護支援の実際」というテーマの講演が行われた。

医療法人芙蓉会では、2008年に「安診ネット」という介護・看護業務を支援するシステムを開発。そして、実際に介護施設に導入して使いながら、改良を重ねてきた。2016年からは「安診ネット」が経済産業省や国土交通省、厚生労働省などの中央省庁の補助事業にも認定され、全国の病院や介護施設への導入が進んでいる。今回の講演では、この「安診ネット」を用いた現場での運用法について紹介された。

経験豊かな看護師でないと見つけられなかった高齢者の「異常」

介護施設の入居者や入院中の患者は、毎日血圧や脈拍、体温などのバイタルサインが測定される。このバイタルサインにおいてその人個人の正常の領域から外れた値が検出されたらすみやかに医師の診察を受けて適切な処置を施されることが望ましい。

しかし、高齢者のバイタルサインの値は一般の成人とは異なるうえ、正常値の個人差も大きい。たとえば90代の患者の場合、体温が36.5℃以下でも発熱していることがある。さらに、高齢者は体調の悪化を自覚することが難しいため、高齢者本人が体調不良に気づくころには症状が重篤化していることも多い。そこで、高齢患者を担当している看護師が「いつもと違う」という情報をどれだけ敏感に感じ取れるかが重要になってくる。

しかし、「いつもと違う」という看護師の「勘」は経験に左右される。かといって、すべての看護師を熟練者にすることも難しい。また、看護の現場はシフト制であるため、経験豊かな看護師が異常に気づいても、次のシフトに入る看護師が経験の浅い人だった場合、異常が見過ごされてしまうこともある。そこで、看護師の経験値のばらつきをカバーするためにも、「安診ネット」が開発されることになったという。

「いつもと違う」をスコア化する

安診ネットには、高齢者が毎日測定するバイタルサインや観察記録がデータとして蓄積されている。この蓄積されたデータをもとに、AIが「リスクスコア(以下スコア)」を算出する。このスコアは、その日のバイタルサインが普段の数値とどれくらい違うのかといった情報や病気の可能性などを表したもので、スコアが高くなるほど、体調が悪化している可能性が高い。林氏は、「検証の結果、肺炎入院患者の平均スコアは3.4で、実際現場ではスコア3以上の対象者は入院に至ることが多いため、3以上になったら医師の診察を受けることにしています」とコメントする。

芙蓉会の経営するメディカルケア南が丘の実績では、安診ネットの導入後、高齢者の寝たきり期間が57.4日と短縮され、離床率は84%に上昇した。さらに心不全の入院期間の短縮、要介護度の進行の抑制にもつながったという結果が出ている。

安診ネットは特に役立つという。従来はバイタルデータや食事・水分・排せつ量は手書きで記録していたため、それを集計したりグラフにしたりするのが大変だったうえ、間違えることもあった。また、次のシフトの看護師やほかの医療スタッフへの申し送りのための書類を作ることも負担になっていた。

しかし、安診ネットの導入後は、バイタルサインは体温計などの検査機器をそのままカードリーダーにかざすだけでデータ入力できるため、誤入力を防ぐことができる。また、食事・水分・排せつ量などの値もすべて自動計算で算出できる。こうして入力されたデータは自動的にグラフにすることができるうえ、申し送り用の書類も自動で作成してくれる。

また、スコアは医療管理の優先順位をつけることにも役立っている。担当患者の多い看護師がすべての患者を等しく見て回らなくても、優先順位の高い患者の観察密度を濃くすればよい。これも看護業務の負担軽減に役立っているのだ。林氏は「近い将来、必ず安診ネットが当たり前になっていく時代が来るはずです」と話を締めくくった。

今井明子

今井明子

1978年兵庫県生まれ。2001年京都大学農学部卒。酒造会社や編集プロダクションなどの勤務後、2012年からフリーライターとして活動。気象予報士の資格も持つ。子ども向けや一般向けにわかりやすく科学を解説する書籍や記事を多数執筆。著書に『気象の図鑑』(共著、技術評論社)、『異常気象と温暖化がわかる』(技術評論社)がある。科学記事だけでなく、育児、教育、女性の生き方・働き方などのジャンルでも執筆。お天気教室や防災講座の講師も務める。