2019年9月13〜15日に名古屋市で開催された第67回日本心臓病学会学術集会の開催レポートです。
9月13〜15日に名古屋市内で開催された第67回日本心臓病学会で13日、会長特別企画「心臓のロボット支援手術」が開かれ、国立循環器病研究センター名誉総長の北村惣一郎氏が基調講演し、「今は低侵襲心臓手術(MICS)経験者がロボット支援手術を行っているが、将来的にはMICSとは別の方向に発展するだろう。またVR(バーチャルリアリティー)による手術シミュレーションは医療事故を防ぐ」と今後の医療を展望した。
北村氏は手術支援ロボット「ダビンチ」を用いた手術のこれまでの経緯を振り返った。「ダビンチ」はアメリカでは2002年に承認されたが、リスクの高い心臓手術では抵抗があり、当初は取り組みがあまり進まなかったという。一方、2016年に米国の胸部外科の学会が出したステートメントでは、ロボット支援手術導入にあたって「小さなチームを作ること」「チーム全体でトレーニングをすること」「レポーティングシステムを作ること」などを求める報告書を出している。
国内では2008年に日本ロボット外科学会ができた。当時心臓外科は参画していなかったが、2010年にダビンチによるロボット支援手術の臨床試験を北村氏が中心となり実施、2015年に薬事承認を取得し、NCD(ナショナルクリニカルデータベース)登録の義務化を進めた。2015年12月には日本ロボット外科学会、日本心臓血管外科学会、日本胸部外科学会が「ロボット心臓手術関連学会協議会」を設立した。さらに、プロクター制度や研修施設の整備を進め、2018年4月から手術支援ロボットを用いた胸腔鏡下弁膜症手術が保険収載となった。
国内のロボット心臓手術の実施は2016年が51症例、2017年が69症例だったのに対し、保険適用後の2018年は295例、2019年(7月31日時点)が153例と大きく伸びている。実施施設は年間100例以上のハイボリュームセンターで、チームワークを重視するため施設基準では施設と術者はセットで認定されている。
一方で北村氏は現状の課題も指摘。国内では手術支援ロボットによる心臓手術は24施設で実施しているが、保険収載後に研修希望施設数が急増したにもかかわらず、プロクターが8人と少なく、研修施設が少ない。また登録施設・認定の審査が増加しているが、事務作業を担うロボット心臓手術関連学会協議会はボランティアで運営されており、今後の運営体制の見直しの必要があるとした。また、現状はロボット支援手術の術者はMICSを経験しているが、今後はMICSを経験しない医師がロボット支援手術に進む可能性があるとして、その条件整備も検討する必要があるとした。
最後に北村氏は今後のロボット支援手術の展望として、遠隔医療によるロボット手術支援が、次世代通信規格「5G」によって可能になるとした上で、今後の実施に向けたガイドラインの作成、診療報酬点数引き上げに向けたエビデンス構築、VRシミュレーションの活用を挙げた上で、「ロボット支援手術の未来は明るい」とまとめた。
同企画では、ロボット心臓手術の現状と今後について、北村氏のほかにロボット心臓手術を実施する4施設からの報告があった。
長倉克枝 m3.com編集部