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病院経営に貢献する医療機器、利用データから適正台数算出

2019年8月28日(水)

2019年7月19日から20日まで名古屋市で開催された第21回日本医療マネジメント学会学術総会の開催レポートです。

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日本医療マネジメント学会は7月19日と20日に学術総会を開催し、20日のシンポジウム12では「危機管理スマート医療機器が医療安全・業務効率を変えるか」をテーマに、4人による講演と総合討論があった。ロボット技術などを活用して病院内の様々な業務効率を進めた事例が紹介された。前半と後半に分けてシンポジウムの概要を紹介する(前半『ロボット麻酔でヒューマンエラー削減、ロボットPCIで放射線被曝防ぐ』はこちら)。

機器稼働状況をモニタリング、適正台数を割り出す

3番目に講演した神戸大学の加藤博史氏は、「医療機器の利用データを活用した適正台数の検討」をテーマに取り組みを紹介した。臨床工学士として医療機器の開発に関わってきた加藤氏だが、病院の経営にどうやって貢献するかは課題だと感じていたという。臨床工学士が診療報酬を得られる項目は少なく、確かに収益増にはなるものの人件費などの費用を考えると病院の赤字幅を拡大してしまう。そこで、医療機器の管理を見直すことで費用削減に貢献することを目指したという。

病院内の医療機器購入は各診療科がそれぞれに要望を出すために重複があり、優先順位も付けにくい。機器の使用状況などの客観的なデータの必要性を感じていた時、電子カルテや院内のネットワーク更新のタイミングとなったため、情報システムを活用して機器の稼働状況をモニタリングできるようにした。機器に取り付けられる電源コードのデバイスを新規開発し、コードから直接電気を得て無線LANネットワークに繋がり、位置情報センサーと電源通知センターの情報をサーバーに送る仕組みを構築した。こうしたデバイスなどを活用することでデータ収集が可能になり、どの機器がどこでどれくらい使用されているかが把握できるようになった。他科への機器の貸し出し状況や、貸し出し頻度が少ない時に点検をするように運用方法を見直すといったことも可能になったという。

医療機器に減価償却の考え方を持ち込むと、使用していなくても価値は減っていくため、使用頻度が少ないと単価が上がることになる。こうしたコスト計算の考え方を活用して患者ごとの必要な処置に合わせて必要な医療機器を予測したり、配置する人員に合わせて機器の適正台数を予想したり、医療機器の回転率を上げて費用対効果の高い管理が可能になると見ているという。

看護師の業務を可視化する

最後に登壇した山口県立総合医療センターの清水由美氏は、「業務量測定を活用した看護部門の業務変革」をテーマに看護師として進めてきた業務の可視化について紹介した。これまでも2年ごとに看護部門の業務量測定を実施していたが、全員入力と集計の負担があったものの現状が分かるだけで結果を有効活用できていなかったという。そこで改めて目指す理想の看護を考え、その理想に近づいていくためにデータを活用することにした。

高度急性期病院として、カルテへの入力業務といった周辺業務よりも患者と接することに専念したいという理想や、増えている時間外勤務を減らしたいという思いがあることが判明した。まずは業務量測定がより効率的にできるように、ウェブブラウザ上で見られる簡便な入力シートを開発した。そして看護業務の数値化ができたことで、必要に応じて業務をコメディカルに移管するといった改善策が取れるようになったという。

例えば患者のデータを測定したら簡単に電子カルテに入力できるシステムを導入したところ、即時入力が可能になり看護師の記録にかかる時間も大きく短縮できたことが明らかになった。他にも患者の超早期のリハビリを実施するようにしたことで自立支援の時間が長くなったこと、病棟薬剤師が配置されたことで薬剤業務が減少したこと、緊急入院の患者への対応の時間が増えたことなども分かった。時間外業務を見ると、データの記録が引き続き一番多いが、年々時間は短くなっていて他の時間外業務も減少していたという。

現在は外来看護の担当者が2交代と3交代の勤務形態を選択できる体制を整備しており、その影響を測定しているという。高度なサービスを提供できるようにするために、引き続き測定データを活用して目指す看護に向かっていきたいとした。

新規プロジェクトで予算を獲得する工夫

4人それぞれの取り組みを紹介した後の総合討論では会場からの質問に答えた。新規のプロジェクトに取り組む際の予算獲得の工夫については、Robot PCIを導入した福岡山王病院循環器センターの横井宏佳氏(前半『ロボット麻酔でヒューマンエラー削減、ロボットPCIで放射線被曝防ぐ』を参照)は機器の費用がかかって予算的なメリットはなかったものの、業務を変えていくことの挑戦についてチームに説明して理解を得て、「イノベーション」をキーワードにしたことでスタッフにも受け入れてもらえたとした。

清水氏は看護師は予算がないため、まずはシステムに強い個人が独自で業務量測定の入力シートの仕組みを構築してくれたという幸運な巡り合わせがあったこと、そして電子カルテのシステムについてはデモを実施し、業務効率化による経費削減で1年後にはシステム導入コストを上回る利益があることを経理担当者に示したことが効果的だったと振り返った。経営に役立つことを証明することが新プロジェクト着手では大事だと強調した。

導入したシステムがどこの医療機関でも役立つかという質問に対して、ロボット麻酔システムの導入事例を紹介した福井大学の重見研司氏(前半『ロボット麻酔でヒューマンエラー削減、ロボットPCIで放射線被曝防ぐ』を参照)は麻酔科医が十分に確保できる大学病院などではいらないのかもしれないとした。ただ、麻酔科医がいなくて日々大変な業務をこなしている医療機関は国内外にあるはずで、そうした機関を「サイレントマジョリティ」と表現して需要はあるとの見方を示した。横井氏はロボットPCIは術者の被曝低減に繋がるため、長期のキャリア形成も考える若い女性医師も働きたいと考える魅力的な職場作りには役立つ可能性があると指摘した。また、離島が多い地域では緊急時に医師がヘリコプターで移動するのを待つ代わりに遠隔操作で対応できるようになるのではないかとした。

医療機器の適正台数をデータから見るシステムを導入した加藤氏は、実際に一台500万円するエコー装置が100台以上見つかったという。現状の機器の配備状況を把握した上で必要な機器や機材をどう整備していくかは医療機関の課題で、当初は保有している機器数が多い大きな医療機関での利用が想定されるが、中小規模の医療機関でも評価方法として有効だという見方をした。

鴻知佳子

鴻知佳子 ライター

大学で人類学、大学院で脳科学を学んだ後、新聞社に就職。バイオを中心とする科学技術の関連分野を主に取材する。約10年の勤務後に退社。ずっと興味があった現代アートについて留学して学び、現在はアートと科学技術の両方を堪能する方法を模索中。