12月5日から7日までパシフィコ横浜で開催された第32回日本内視鏡外科学会総会で6日、国立がん研究センター東病院大腸外科長で先端医療開発センター手術機器開発分野長の伊藤雅昭氏が「臨床現場で求められる次世代型術中ナビゲーション」と題して講演、同センターなどが取り組む、内視鏡手術動画収集と手術中ナビゲーション開発の取り組みを紹介した。
伊藤氏はまず、腹部内視鏡手術について、呼吸性移動があり腸管が術中に移動することから、術前画像を用いたナビゲーションは難しいことを挙げた。一方で、手術中の視野で領域や部位の名称等を表示することは、手術の支援として有効だ。
そこで、同センターでは2年前から日本コンピュータ外科学会、九州大学、名古屋大学、東京女子医科大学、千葉大学などと共同で、内視鏡手術動画を収集し、約1000例からなる手術動画データベースを作成した。手術動画のフレームごとに画像の中で術具や部位などを色分けしてアノテーションをし、教師データを作成した。これを機械学習で学習させることで、手術中の動画から手術工程を自動認識できるようにした。
このシステムを活用し、手術中の動画に、「血管処理」「血管処理後の内側アプローチ」「外側アプローチ」「直腸周囲剥離」「直腸間膜処理」などの10ステップを約90%の精度で認識する手術ナビゲーションシステムのプロトタイプを開発した。これを手術中にモニターに表示させることで、リアルタイムで起きている状況を表示するほか緊急出血時にアラートを表示することもできるという。有効な使い方の検討はこれからだが、「将来は手術の効果的なマネジメントにつながるのではないか」と伊藤氏は指摘した。
今後の取り組みについては、今年10月に新たに事業の予算を獲得し、日本内視鏡外科学会や日本コンピュータ外科学会とも連携して、アカデミア研究者だけでなく企業も研究開発に活用できる内視鏡画像手術動画のデータベース構築事業を進めていくと紹介した。具体的には上部消化管・肝胆膵の手術動画1500例、下部消化管の手術動画1000例、前立腺の手術動画300例に加え、それぞれの患者情報、医療者情報等を収集する。これらにアノテーションをつけて、機械学習などで活用できるようにする。体制としては同センターのほか北海道大学、東京女子医科大学、アルムなどが参画している。
最後に伊藤氏は、「今後5〜10年でこの分野はロボットやAIがかなりのスピードで入ってくると予想される」として講演を締めくくった。
長倉克枝 m3.com編集部