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「訴求力の高い」AIの構築に向けて―眼科医・升本浩紀が語る「医療AI応用までの道のり」(2)

2019年8月16日(金)

ツカザキ病院眼科で眼科医兼人工知能エンジニアのチーフとして働く升本浩紀氏が、自らのAI開発の経験をベースに、医療AIの現状について紹介する連載コラムです。

» 連載1回目から読む

前回は、医師がAIについての「応用」を学ぶ意味、そして、「箱」を入力し、「箱」を出力するというAIの仕組みについて簡単な解説を行いました。今回は、画像AIにはどのようなものがあるかの解説を行いたいと思います。

画像AIにはたった5種類しかない

誤解を恐れずに言ってしまうと、画像AIにはたった5種類しかありません。「識別」「回帰」「物体検知」「Segmentation」「生成」です。

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(5種類の画像AI)

たった5種類ですが、それぞれに多くの構造や精度向上のための工夫があります。また、これらの技術を組み合わせることで、非常に多岐にわたる処理を行うことができます。では、これらの技術の具体例として、我々が取り組んできた実際の研究・開発を紹介していきたいと思います。

物の分類を行う「識別・回帰」

まずは、識別と回帰について、実際の応用例を示します。識別は、何らかのカテゴリーに分けるものだと思ってください。例えば、正常眼か緑内障かの診断などが挙げられます。我々は、Nikon社のOptosという撮影装置を用いた超広角眼底画像において、正常と8つの眼疾患の識別についての論文をこれまで発表してきました。

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(これまでに発表した、眼疾患の識別に関する論文)

また、症状のGradingも識別に該当するといえます。我々は、結膜充血のGradingを行うAIも構築し、論文化しました。

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(結膜充血のGradingを行うAI)

また回帰については、網膜色素変性症の眼底画像から視野を予測するという試みを行っています。

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(網膜色素変性症の眼底画像から視野を予測する)

対象領域を切り出す「物体検知・Segmentation」

物体検知はともかく「Segmentation」という単語はあまり聞き慣れない言葉だと思います。しかしこの手法は非常に重要で、かつ医学AI論文で最も取り扱われているものです。物体検知とは、対象領域を粗く四角でくくる、Segmentationとは、対象領域を塗り絵のように丁寧に塗るものだとイメージすれば十分です。

Segmentationや物体検知の技術は、医療AIにおいて非常に重要な技術です。というのも、AIは一般的にBlack boxだと言われており、AIが識別によって診断を下したとしても納得感が非常に薄いからです。そこで、Segmentationや物体検知によってAIが病変部を指し示すことで、「訴求力」の高いAIが生まれるのです。

我々は、網膜剥離や緑内障に対してただ診断を下すだけでなく、網膜剥離ならば病変部を、緑内障であれば、視神経乳頭の乳頭陥凹部と乳頭辺縁部を塗り分けることによって、医療者に納得されやすいAIの構築を行ってきました。

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(網膜剥離の病変部および視神経乳頭の乳頭陥凹部と乳頭辺縁部の領域を切り出す)

新たな画像を作り出す「生成」

最後の手法が「生成」です。私の考えでは、生成系AIは大きく2種類に分けられます。単純に画像を新たに生成するものと、画像を異なる画像に変換するものです。

(1) 単純生成系
単純生成系としては、多くの顔写真から存在しない顔写真を作成するAIが有名です。眼科領域でも、眼底写真を作り出すという技術が論文で報告されています。

(2) 変換系
我々は、深層学習を利用した医用ソフトウェアの研究・設計および開発を行うイーグロース株式会社と協力し、正常眼底画像と大まかな位置の指定画像を組み合わせることで、網膜剥離の眼底画像を作り出すことに成功しました。このように、元の画像から違う画像を出力することは、まさに、「変換」といえるでしょう。

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(正常眼底画像から網膜剥離の眼底画像を作り出す)

まとめ

連載2回目の今回は、画像AIには大きく分けて識別、回帰、物体検知、Segmentation、生成の5つのタスクしかないことをお伝えしました。これらを組み合わせることで様々な手法が生まれます。

これら5つの概念に沿って考えてみると、画像AIを用いた研究・開発のアイデアが出てくるのではないでしょうか? 「良いアイデアが思い浮かんだもののプログラミングを学ぶ暇はない!」という方がいらっしゃれば、ぜひ「m3com-editors@m3.com」までご一報ください! 解析のお手伝いができるかもしれません。

升本浩紀

升本浩紀 ツカザキ病院 眼科 医師/株式会社シンクアウト 最高技術責任者

2016年 東京大学医学部卒業。在学中に中小企業診断士や公認会計士試験に合格。2018年からツカザキ病院。眼科医として臨床を行う傍ら、医療AIの研究・開発に取り組んでいる。日本眼科AIのトップランナーとして国内外の学会や、医師、医学生向けの講演をを多く行っている。関心領域はオペレーションマネージメントや、スマートフォンを用いたビジネス。好きな人工知能フレームワークはPyTorch。