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眼底画像からAIが診断を下すしくみ―眼科医・升本浩紀が語る「医療AI応用までの道のり」(1)

2019年7月11日(木)

ツカザキ病院眼科で眼科医兼人工知能エンジニアのチーフとして働く升本浩紀氏が、自らのAI開発の経験をベースに、医療AIの現状について紹介する連載コラムです。

» 連載1回目から読む

皆さまはじめまして。私はツカザキ病院眼科で眼科医兼人工知能エンジニアのチーフをしております、升本浩紀と申します。

「人工知能(AI)」がバズワードとなり始めてから数年経ちましたが、意外と「AIとは何ができるのか?」ということは知られていないように思います。「AIがあれば人間も空を飛べるのではないか?」くらいの言説も流れています。しかし我々、AIエンジニアとしては、「そもそもAGI(Artificial General Intelligence:汎用的人工知能)は存在しない」という説を支持する人が多数派を占めます。また、「AIがあってもまるで不可能なことを可能にする訳ではない」ということが、いわば常識としてあります。

AIは過度な期待から幻滅期へ

「ハイプ・サイクル」と呼ばれる概念があります(下のイラスト)。黎明期が終わると、「過度な期待」の時期から、一旦、その「過度な期待」に応えきることができず「幻滅」期に入ります。次に、「啓蒙の坂」を上りながら、正しい理解が得られていきます。そして、最終的には技術として安定共有されるようになるという概念です。このハイプ・サイクルはマーケティングでよく使われる用語の一つです。

2018年のガートナー社の報告では、AIは幻滅期に入ろうとしているところだといいます。ここで、医療分野においては、医療の中心である医師にあまりAIの考え方が普及しておらず、「過度な期待」が持たれた状態であるともいえるかもしれません。実際に、我々はAI技術・研究についての相談を様々な医療機関から受けますが、過度な期待を持たれている医師の方が少なからずいます。

image2

(ガートナー (2018年10月))

過度な期待のうちから、AIについて「幻滅」しすぎるのではなく、正しく「理解」することが必要と思われます。なぜなら、極力、幻滅期を短くし、啓蒙活動期もしくは安定期に入ることが、医療AIにおいてただでさえ遅れている日本が世界にキャッチアップするうえでは必要だからです。

日本は医療AIにおいては、アメリカ・中国だけでなく、シンガポールにも負けています。日本がアジアのトップだった時代はとっくの昔に終わりました。正しい「理解」のもと、一部の偉いもしくは奇特な人がAI研究をトップダウンで行うのではなく、医療関係者全員がAIについてのアイデアを出し合う状態にならないと、とても追いつけません。質(Impact Factor)にこだわるせいか、日本発のAIについての論文数(特に医学AI)は非常に少ないです。

今回の連載では、AIは実際、どのような事が行えるのかといった基本的な考え方、医療特有の様々な問題を解決する手法としてどのような技術が提唱されているのかなどを紹介しながら、読者の皆さまが実際にAIについてアイデアを出せるような土壌となるような連載にしたいと考えています。

眼底画像を分類するしくみ

世間のAI関連書籍ではまず、損失関数や畳み込み処理、パーセプトロンなどの基本的概念や古典的手法から入り、最後に少しだけNeural Networkが載るという体裁のものが多いです。そのような基本的概念や古典的手法も大事ですし、確かにNeural Networkの構成要素を説明するにあたって、全て重要な要素です。当然、AIの研究・開発を行っている私は書籍に書いてある内容くらいはある程度は理解しています。しかし、医師として、AIの応用先についてのアイデアを出すときに、そのような知識は一切不要だというのが、僕の考え方です。ここからは、AIの代表格であるNeural NetworkのことをAIと呼びます。

皆さまに知っていただきたいAIが行っている事とは、「あるサイズの『箱」を入力すると、あるサイズの『箱」を出力する」という事です。なにを言っているか意味不明だと思いますが、そのまま読み続けてください。

我々は眼底画像を一番のメインとしてAIの開発を行っていますので今回は画像を中心に説明します。画像をRGB(Red, Green, Blue)で読み込んだ場合、入力として「縦×横×3 ch(RGB)」の箱ができます。この箱からできる3つの例をお示しします。

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①正常、病気の分類
これは、識別と呼ばれる問題です。「AIが画像診断を下す」といった話の大半は、この識別AIだと思っていただけたらと思います。
出力の形としては、[0.1, 0.9]というような2つの数字が格納された箱となります。ちなみにこの箱の中身は、正常と思われる確率が0.1 (10%)、異常だと思われる確率が 0.9 (90%)であるという意味です。 このように縦×横×3chの箱から2つの数字が格納されている箱を作成できるのがAIの機能です。

②正常、糖尿病網膜症、緑内障の3クラス分類
先ほどは2クラスに分類する話でしたが、今度は3クラスになりました。これも当然、可能です。出力の形を[0.15, 0.8, 0.05]のような3つの数字が格納された箱を出力させればよいだけです。①と同じように正常と思われる確率が0.15、糖尿病網膜症と思われる確率が0.8、緑内障だと思われる確率が0.05であるという意味です。

③視力の予測
何かしらの値を予測(回帰)する課題です。この場合は、1つの数字(視力)が格納された箱([0.3]とか)を出力すればよいことになります。

これらの例を通じて、「箱」から「箱」を出力するという言葉の意味が少しはお分かりいただけましたでしょうか?このように、「箱」として出力させられるものであれば、性能はともかくとして理論的には出力させられるということになります。そして、医師が考えるべきことの1つ目として、そのしたいことが「箱」で定量的に表せられるものなのか、つまり、数値に変換できるものなのかということが考えるべきポイントです。

20190625 m3 figure3

連載1回目の今回は、医師がAIについての「応用」を学ぶ意味、そして、AIが何をしているのかについての簡単な解説を行いました。次回は、DetectionやSegmentation、GANといった様々な技術、モデルの種類を医療に適用した場合、どのようなことが可能になるかといった具体例を紹介しようと思います。

升本浩紀

升本浩紀 ツカザキ病院 眼科 医師/株式会社シンクアウト 最高技術責任者

2016年 東京大学医学部卒業。在学中に中小企業診断士や公認会計士試験に合格。2018年からツカザキ病院。眼科医として臨床を行う傍ら、医療AIの研究・開発に取り組んでいる。日本眼科AIのトップランナーとして国内外の学会や、医師、医学生向けの講演をを多く行っている。関心領域はオペレーションマネージメントや、スマートフォンを用いたビジネス。好きな人工知能フレームワークはPyTorch。