2019年7月24日から26日まで奈良市で開催された第38回日本医用画像工学会のレポートです。
2019年7月24日から26日まで奈良市で開催された第38回日本医用画像工学会で25日、特別講演が開催され奈良県立医科大学理事長・学長の細井裕司氏が、「軟骨伝導の発見からMBT(医学を基礎とするまちづくり)へ」と題して講演した。
細井氏は耳鼻科が専門で、約40年間にわたり耳鼻科の手術を中心に行ってきた外科医だ。また、研究テーマとしては軟骨伝導について長く携わってきた。
細井氏はまず、MBE(Medicine-based engineering、医学を基礎とする工学・産業)について解説した。医学による産業の創成・再生をはかる試みだが、対象は医療産業ではなく、医療産業以外に医学の知見や知識を用いて産業創成に活かそうとする試みだという。さらに自治体等によるまちづくりにMBEの考え方を加えるMBT(Medicine-based Town、医学を基礎とするまちづくり)を推進するため、細井氏らは「MBTコンソーシアム」を組織。これまでに103の企業などの会員が集まったという。
MBTの推進にいたるまでに、細井氏は自身の研究成果である軟骨伝導聴覚の発見がきっかけにあったと語った。細井氏は2004年、耳周囲の軟骨を振動させることで音を伝える「軟骨導」を発見し、特許を取得。軟骨導を活用した軟骨伝導補聴器を開発、2017年に4社から発売され、現在医療機関等で利用されているという。
軟骨伝導の仕組みを使ったものづくりでは、ほかに電話やイヤホンなどに応用できる。一方で、2004年に発売された「骨伝導携帯電話」は、医学を知らないままに作られた例だとして、「機械のことだけがわかっていても、人間のことが分かっていないと役に立たない。先に医学的知識を共有するべきだった」とした。
2012年から早稲田大学とMBT共同研究が始まり、2015年からは企業を募りMBTコンソーシアムが形成された。奈良県立医科大学がある奈良県橿原市を中心に、地域活性化モデルケースとしてまちづくりの推進を進めているという。具体的には奈良医大発第一号ベンチャーであるMBT Linkと近畿日本鉄道が共同で進めるプロジェクトなどを紹介した。
MBTの将来像として、細井氏は医学専門職と企業の意識改革の浸透、全国展開、国家プロジェクトを挙げ講演を締めくくった。
長倉克枝 m3.com編集部