毎年1月に米国ラスベガスで開催される国際エレクトロニクス展示会「CES(シーイーエス)」は、4日間の開催期間に160を超える地域から18万人近い参加者が集まる世界最大規模のビジネスイベントであり、ここ最近はデジタルヘルスや最新の医療関連ソリューションが発表される場として注目を集めています。CESを主催するCTA(Consumer Technology Association)も、注目すべきジャンルとしてデジタルヘルスを今年も取り上げていて、企業からの出展も毎年増加傾向にあります。特に今年はP&Gやユニリーバといった大企業が出展し、デジタルヘルス分野に向けて本格的に参入することがアピールされていました。
CESは50周年を迎えた2017年までは「コンシューマ・エレクトロニクス・ショウ」という名称で、家電やオーディオビデオ、パソコンなどのデジタルデバイス、カーエレクトロニクス製品の最新製品を紹介する展示会と位置付けられていました。この数年はビジネスや専門分野向けの製品やサービス、先進的なテクノロジーの紹介が増え、デジタルヘルス分野も一般ユーザーに向けた製品から、医療機関や研究所、救急施設など専門事業者に向けた展示へと内容が拡がっています。
ライフスタイル向けでは、健康やウェルネスをサポートするウェアラブルウォッチやスマートフォンアプリと連動する歯ブラシやカミソリ、体重計や血圧計もクラウドと連携して体調を分析する機能を搭載した製品が登場しています。睡眠を管理、コントロールするスリープテックは数年前から人気で、ベッドと一体化して診療データの参考になるほど精密なデータが取得できる製品が開発されています。子どもの健康をモニタリングするベビーテック、女性や母子ならではの健康問題や病気に対応するフェムテックといった細分化も進み、アダルトグッズも今年から展示が正式に許可されています。
医療分野では、日本のNTTにあたるAT&Tが高速ネットワーク5Gのサービスをまもなく開始するのにあわせて、遠隔から救命救急、手術現場をサポートするソリューションを展示。3Mは自社製品の展示ではなく医薬品や医療機器を開発するためのモニタリングを行っており、CESに医療関係者の参加者がいかに増えているかがうかがえます。
テクノロジーの展示会らしく、スマートホームと呼ばれる住設機器とデジタルヘルスを連携させた展示もありました。この分野は世界でも日本企業の取り組みが先進的で、TOTOは使用すると健康をチェックしてくれるトイレを展示。公共スペースや出先でアプリから快適なモバイルトイレが予約できるアイデアを開発している、サンフランシスコのGood2Goというスタートアップに出資することを発表しています。
積水ハウスは非接触のセンサーとAI解析技術を使って住人のバイタルチェックを行い、家庭内の事故や突然の病気を検知して通報する「在宅時急性疾患早期対応ネットワーク HED-Net(In-Home Early Detection Network)」を開発し、プラットフォームハウスで実証実験を行うことを発表しています。また、寝室、リビング、洗面所といった部屋の使い方を測定して、体調管理や病気の予防ができるシステムも開発中で、健康を守り、医療機関とも連携できる次世代住宅の実現を目指していることが紹介されていました。
CESでは先進テクノロジーを利用した新しい製品も次々に発表されています。DnaNudgeが開発するウェアラブルバンド「DnaBand」は、簡単な遺伝子検査と同社が構築した食品データベースを基に、専用のリストバンドで食品のバーコードを読み取るとライトの色で自分の食生活にあう食べ物かどうかを簡単にチェックできます。専用アプリを使って、アレルギーだけでなく体質やその時々の体調、ダイエット、トレーニングなどの目的にあわせてチェック項目が自在に変えられるのが特長で、医療用機器としての認可も申請中ということでした。
フランスのスタートアップBodyoが開発した「AI POD」は、座るだけで身長や体重、体脂肪、血糖値、ヘモグロビンなど19の項目を10分で測定できるボディスキャナーです。3年かけて独自のアルゴリズムを開発しており、プロトタイプによる実証実験が行われています。目的は医療ではなく、あくまで自分の体調を知るのが目的とのこと。スキャンして問題があれば、対応できる医療施設やサービスにその場で連絡ができ、アドバイスをしてもらったり、場合によっては診療を受けられるようなサービスを目指しています。今後は精度をあげて医療機関に設置し、問診時間を減らしたり、処方せんを出したりするのに利用するといったことも検討しているそうです。
専用アプリを使って音を聴くだけで耳の機能を改善できる「AudioCardio」という製品も出展されていました。特許取得済みの独自技術「Threshold Sound Conditioning」テクノロジーによって、その人にあわせたオーディオセラピー用の音声信号が生成でき、1日1回1時間聴き続けることで一定の改善ができることが臨床的にも証明されています。面白いのは好きな音楽やポッドキャストを聴きながら治療ができる点で、日本市場への進出も検討しているという話でした。
CESに出展される製品やサービスは、アイデアレベルで実用化できるか不明な展示もあるのですが、デジタルヘルス分野に関しては公式に機能が確認された上で展示が行われている印象があります。会場では専門家によるセミナーやトークイベントも多数あり、デジタルヘルスの最先端を知る場として、これからさらに医療関係者からの出展が増えていくことになりそうです。