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SARS-CoV-2検出のポケットサイズ機器にスペクトルセンサを提供―amsジャパン

2020年8月28日(金)

高性能センサのサプライヤー amsの日本法人、amsジャパン株式会社は2020年8月27日、ベルリンを拠点とするドイツの医療技術スタートアップ midge medicalにスペクトルセンサ技術を提供すると発表し、記者説明会を開催した。midge medicalが開発中の、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症に対するポケットサイズ遺伝子検査技術向けに提供する。

提供されるセンサシステムは 「ams AS7341L」スペクトルセンサソリューションをベースに専用開発されたもの。増幅したSARS-CoV-2粒子のスペクトル分解による読み出しができる。midge medicalが開発中の機器は、スマホの専用アプリを使って最短15分で結果を読み出すことができるという。

PCRと比較して迅速な検査が可能なラテラルフロー(LFT)式

amsはモバイルの顔認識やAR/VRといったコンシューマ市場のほか、産業、医療機器、車載などの市場で高精度のソリューションを設計・製造している企業。ams AG 高度光学センサ事業 医療セグメント担当ディレクターのフィリップ・フレデリックス (Filip Frederix)氏は「デジタルリードアウト方式のラテラルフロー検査(LFT)によって非常に高速なSARS-CoV-2の検査ができるようになる」と述べた。

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ams AG 高度光学センサ事業 医療セグメント担当ディレクター フィリップ・フレデリックス氏。手に持っているのが光学センサーモジュール

SARS-CoV-2の検査法としては、PCRがよく用いられるが、信頼性は高い一方、患者に結果を提供するまでに時間がかかる。一方、amsが推進するセンサを用いた「デジタルLFT」は、検体を検査して結果を見るまでに必要な時間は最短15分程度。医師の診察を受けている間に結果が得られるという利点がある。すぐに結果が得られるので、患者が他人に感染させるリスクも少なくなる。

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PCRとLFTの比較

フレデリックス氏は「デジタルLFTには、高感度で非常に高速で結果が得られるというメリットがある。目視と異なり、光学センサを内蔵したモジュールを使うことで、より客観的な数値を得ることができる」と利点を強調した。Bluetooth Low-Energy(BLE)モジュールを追加することによって、ヘルスケア関連情報を政府に自動提出するなど、結果をクラウド上で利用できるといった利点もある。

また、プリント基板モジュールは反射式と蛍光式に対応しており、インフルエンザなど他の疾病にも応用できる。ストリップや試薬は既存のものがそのまま使用できる。検査試薬のメーカーが使いやすいように設計されているという。

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デジタルLFTの利点

目視に比べて10倍の感度、属人性を排除して定量化が可能

ウイルス感染初期はウイルス濃度が低く、PCRでしか検出できない。だが一定期間が経つとLFTを用いた抗原検査でも検出できるようになる。amsのセンサを用いることで早期の高感度検出、陰性判定のエラーを低減でき、また目視と異なり、デジタルでセンシングができるため、定量化が実現できるという。

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コロナウイルス試験の各段階

従来の目視で行うLFT試験とくらべて、目視では判定が難しい濃度でも判別できるため10倍の感度がある。非常に大きなイメージセンサを内蔵した高価なベンチトップリーダーとほぼ同じ性能があるという。また、スペクトル読み出しと生化学情報を組み合わせることで、特定のウイルスに適用ができる。データをクラウドで収集することで定量的なデータをグローバルで収集することもできる。

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センサを用いることで客観的かつ目視の10倍の感度を達成

反射測定のほか、蛍光測定も可能

光学モジュールはセンサが一つとLEDが二つある構成となっており、二つのLEDを使って二つのターゲットラインをチェックする。センサには異なる感度を持つフォトダイオードが実装されており、LEDの反射光の強度を検知して色の違いを判別する。反射方式センシングだけでなく、蛍光方式もサポートする。なおモジュールはボタン電池で動作する。

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光学モジュール。左がフォトダイオード、右が検出の仕組み

フレデリックス氏は、血清希釈を用いた5名の専門家による目視、amsリーダー、ベンチトップリーダーの比較を示した。人の場合は希釈すればするほど結果が大きくばらつくが、amsデジタルリーダーはバラつきが小さい。高価なベンチトップリーダーと比較しても遜色がなかったという。

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目視、ベンチトップリーダーとの比較

くわえて、蛍光測定も可能だ。非常に含有量が少ない10pg/mlのタンパク質も検出できるという。反射測定では不可能な低濃度の検体でも蛍光測定なら検出が可能になる。

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蛍光測定も可能

クラウドを活用してデータ集約・解析も

またクラウドを用いることで、リーダー装置から暗号化された信号をスマホに送り、クラウドに通信で上げて、解析することができる。

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クラウドを使ってデータを収集、解析

amsでは今後、サンプルの隔離やLFT試験を行う診断パートナー、そしてハードウェアパートナーや、アプリやクラウドパートナーを募集してマーケットにアプローチしていくという。フレデリックス氏は体外診断用医療機器メーカーのSenova社をパートナー例として示した。Senova社は抗体を検査する診断装置を作っており、10月にローンチ予定とのこと。日本でもパートナー企業を探しており、数社と話をしているという。現状はパートナーとクリニカルテストを行っているフェイズ。政府などに働きかけて採用されることを想定しているという。

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森山和道

森山和道 サイエンスライター

サイエンスライター、科学書の書評屋。1970年生。広島大学理学部地質学科卒。NHKディレクターを経て現職。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。