ノースカロライナ州立大学・生物医学工学部の准教授であるデレク・カンパー氏らの研究グループは、脳卒中患者を理学療法および作業療法の治療に参加しやすくするために、「VRクリニック」を設立した。 概念実証研究の結果、このVRクリニックは治療への参加を促し、治療時間の向上をもたらすことが示された。この研究成果は2月1日、リハビリに関する学術専門誌『physical medicine and rehabilitation』に掲載された。
理学療法および作業療法は、脳卒中患者が手先の器用さと機能的な運動能力を取り戻すために重要である。しかし、患者の多くはリハビリ関連施設の近くに住んでおらず、しばしば治療の継続が難しい場合がある。
研究グループはこのたび、Kinectモーションセンサーハードウェアを使用して、患者と治療者の動きを追跡するソフトウェアパッケージを開発した。「リハビリテーションゲーム演習用仮想環境(VERGE)」と名付けられたこのソフトは現在、3つの異なるリハビリテーションアクティビティをサポートしている。たとえば、複数のユーザーで仮想ボールの打ち合いをしたり、一人で壁打ちをしたり、という具合だ。
概念実証研究では、20人の脳卒中患者と協力してシステムを評価した。 全ての被験者には慢性的な障害があり、そのうち17人は男性で、平均年齢は60歳だった。この調査ではまず、被験者の半数がシングルユーザーモードで、残りの半数はマルチユーザーモードでVERGEを2週間使用。 その後、グループはモードを切り替えて、さらに2週間使用した。
その結果、マルチユーザーモードにおける被験者の治療参加率は99%だった。 シングルユーザーモードでもコンプライアンスは良好で、被験者の治療参加率は89%だった。 さらに被験者は、マルチユーザーモードでVERGEを使用すると、使用しない場合と比べて治療に22%以上多くの時間を費やした。 また、その間はより活動的になり、シングルユーザーモードでは手を動かした距離が計327メートルだったが、マルチユーザーモードでは約415メートルまで増えた。
研究グループはさらに、脳卒中患者の回復の度合いを定量的に評価する「フグル・マイヤー評価」を用いて、上肢の運動機能を評価した。その結果、平均3.2の上昇が確認され、VERGE療法の有効性が示された。この上昇の度合いは、従来の手法では4週間程度で得られる効果と同等だという。
研究グループは今回の研究成果について「我々の目標は、患者と治療者がリアルタイムで本質的な治療ができるようにするオンラインの仮想現実プラットフォームを作ることだ。患者はこのシステムを使用して、自宅でリハビリを行うことができるようになるだろう。遠くに住んでいる家族など親しい人たちと一緒に治療に取り組むことで、社会的つながりをもたらすことも可能だ」と述べる。
荒川友加理
1980年、石川県生まれ。イギリス、エセックス大学で言語学を学んだあと、英会話講師に。幼児から大人までの英語教育に従事しながら翻訳の仕事も行う。翻訳分野は日本の旅館やホテルのウェブサイト翻訳、ダイバーシティー&インクルージョンにフォーカスしたニュース記事翻訳、企業のウェブサイトや会社案内動画の字幕吹き替え翻訳など。