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AI Lab プロジェクト医療×AIの発展にご協力いただける方を募集しています

デジタル治療で研究会発足も、アプリでADHD治療など―神戸医療産業都市クラスター交流会デジタルヘルス人材交流セミナー・レポート

2019年12月4日(水)

360を超える医療関連企業や研究機関が集積する医療クラスターである神戸医療産業都市が、デジタル技術の導入が進むヘルスケア分野での技術理解や人材交流・育成を目的に11月27日開催した「デジタルヘルス人材交流セミナー」から、AI(人工知能)・ビッグデータなどの先端技術に関する展望や課題、導入事例を紹介する講演の内容を紹介する。

自然言語処理と医療AIを結びつける

医療分野では画像に続きテキストをAIで活用する研究が進んでいる。医療言語と自然言語の研究に取り組む奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)ソーシャルコンピューティング研究室特任准教授の荒牧英治氏は、電子カルテの解析、ソーシャルメディアの応用、患者の声の利活用の3つをテーマに、自然言語処理から医療AIを研究開発する事例を紹介した。

電子カルテに記入される内容は医師によって、また看護師や薬剤師など立場によって使われる単語や文章が異なるが、AIを利用して固有表現(病名)の認識や類似する症状を判別することで症例を検索するデータベースとして診断の支援に役立てられる。荒牧氏の研究室では臨床現場で実際に使う病名を収載した「万病辞書」を作成しており、自由に使える形で公開されている。

また、ツイッターなどオンライン上でリアルタイムに発信される情報を収集、分析して感染症が流行る兆候を予測する手法として世界中で論文発表も増えているinfodemiology(情報疫学)にも取り組んでおり、風邪や頭痛といったキーワードをAIでスコアを付けて抽出するほか、検索エンジンやショッピングサイトなどの情報を観測データに利用するなどの研究をしている。SNSを応用した代表的な論文「インフルくん」はオンラインでも公開されている。症状ベースのサーベイランスは日本でも重要視されており、海外からの渡航者が増える2020年東京五輪・パラリンピックで利用される予定だということも紹介された。

医療従事者だけでなく患者とその関係者の声からまだ見出されていないアンメットニーズを調査し、研究や学びに結びつけるエピソードベースドラーニングとして利活用しようという取り組みでは、東京大学先端科学技術研究センターと共同で「当事者研究エピソードバンク」を立ち上げ様々なエピソードを集めている。収集方法としてはスマートスピーカーと音声対話システムを搭載したお地蔵型のデバイスを開発しており、実験実施を予定している。大阪国際がんセンターと共同で再来年の3月まで実施する「KOTOBAKARI CANCER study」の研究は、治療中の成人がん患者の話し言葉から認知機能への影響をAIで分析して早期発見モニタリングに応用するなどを目指している。

荒牧氏は「自然言語処理技術を用いればもっと多くの医療AIを開発できる可能性があり、アイデアを考えられる人材の必要性が高まっている」とし、研究室では医療と学際分野、企業からも協力者を募集していると話していた。

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奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)ソーシャルコンピューティング研究室特任准教授の荒牧英治氏

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デジタルデバイスを使って患者の声を集めて分析するなど様々な研究が行われている。

デジタルが当たり前になる時代のヘルスケアとは

塩野義製薬デジタルインテリジェンス部長の小林博幸氏は、世界で市場が拡大しているDigital Therapeutics=DTx(デジタル治療)=Digital Therapeuticsを紹介。エビデンスに基づいた治療的介入を患者に提供するソフトウェアプログラムで、日本が得意とするゲームやアニメなどのデジタル技術を用いて新たなデジタル治療ビジネスを開発しようと、塩野義製薬を含む医療やIT関連企業やスタートアップ7社が共同で「日本デジタルセラピューティクス推進研究会」を今年10月に発足させている。他にも米・AKILI 社が開発した小児ADHD(注意欠如多動性障害)のデジタル治療用アプリ「AKL-T01」の日本導入を共同で進めており、ADHDの治療パラダイム改善を目指していることなども紹介された。

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塩野義製薬デジタルインテリジェンス部長の小林博幸氏

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米・AKILI 社が開発するデジタル治療用アプリ「AKL-T01」

富士通のヘルスケアの取り組みを伝えるエバンジェリストの岩津聖氏からは、同社が関わった歯科医向けのクラウドサービスや電子カルテとスマートフォンを連携して快適な通院をサポートする「ホープ ライフマーク-コンシェルジュ」などが紹介された。医療現場との連携としては、製薬企業と共同で地域医療ネットワークに適正な使用情報を提供する効果の検証を2018年度に行い、将来的には患者の特性に応じた欲しい情報をAIですぐ提供できるようにすることを目指している。サービスの実現には個人医療データの活用が不可欠だが、できるだけ現場の医師と連携して実用化を進めたいと話す。さらにデジタル技術が当たり前となるアフターデジタル時代に向けて、個別化医療サポート、治験実施の支援、遠隔地からの治療サービス、健康カウンセリングによる疾病予防などの提供を目指そうとしている。

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富士通ヘルスケア担当エバンジェリストの岩津聖氏

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AIと病理医のコラボで病理診断を改革

長崎大学病理診断科で開発した技術を基に病理医不足の病院にデジタルソリューション提供するベンチャー企業「N Lab(エヌラボ)」は、研究・臨床試験の病理検査の受託やパソコン上で診断できるバーチャルスライド(あるいは「ガラススライドのデジタル画像」)の作製等の事業を展開している。代表取締役の北村由香氏は現役の呼吸器外科医だが病理医の勉強を始めたのをきっかけにエヌラボを立ち上げ、AIとヒトのコラボで病理診断のばらつきや作業負担を軽減し医療現場と患者の両方に役立つ事業を目指している。具体的には病理医の不在や経験不足を遠隔からサポートしたり、クラウド上に保存した様々な病理診断データを共有したりするサービス「メディイメージバンク」の構築、AI学習に利用できる超高品質な病理データの診断AIを開発するソフトウエアメーカーらに提供するAI診断コンサルテーションサービス等の展開を計画していることが紹介された。

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エヌラボ代表取締役の北村由香氏

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AIとヒトがコラボすることで最適な診断報告書が書けるようになる。