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積水ハウスとMIT、病気を早期発見する家を共同開発へ

2019年10月23日(水)

積水ハウスは10月18日、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で、住む人の健康をモニタリングする住宅の開発に着手すると発表した。住まいにセンサーなどを組み込み、住人の心拍数や呼吸数、日常の動作の変化を捉えることで、脳卒中や心筋梗塞といった疾患の早期発見を目指す。MITに研究拠点を設置し、日本だけではなく米国を含む他国でも今後進むと見られる高齢化に備えて実用化を進める。まずは2020年にも急性疾患を対象にした国内向けの早期発見サービスを始めるという。

MITの医工学研究所(IMES)と連携する。会見で積水ハウス代表取締役社長の仲井嘉浩氏は、2020年以降は「人生100年時代の幸せ」をアシストする家の実現をビジョンとして掲げ、データを集めて活用する家「プラットフォームハウス」の開発を進めるとした。その第一弾として、健康をつくりだす家の実現を目指すという。

自宅で心拍数や呼吸数を測定、危険時に自動で連絡

脳卒中は、日本での年間発症者数約29万人のうち、自宅での発症は79%で、心筋梗塞は年間発症者数約10万人のうち自宅での発症は66%だという。自宅でも急性疾患への対応ができるようにする必要がある。同社ではプライバシーへの配慮をしながら、また、利用者の行動を制約しないようにしながらデータを収集するために、非接触のセンサーなどを使って心拍数や呼吸数を測定する仕組みの構築を進める。何か危険な状態が同社の緊急通報センターに自動的に連絡が行き、人の音声での呼びかけを通して緊急性を判断し、状況に応じて病院に救急車の出動の要請などをするという。また、データを継時的に収集することで、高血圧や糖尿病、無呼吸症候群などの疾患の早期発見も可能になるかもしれないという。さらには病気の予防に役立てるために、「プラットフォームハウス」の改良を進めていくとした。

続いて登壇したIMESの教授のブライアン・アンソニー氏は、MITの周辺には製薬やエネルギー、IT、医療技術などの分野の大小さまざまな企業が集積していて、世界のベンチャー・キャピタルの投資の9%が集中しているため、世界にインパクトを与えられるエコシステムがMITを中心にして存在しているという強みをまずは強調した。医学部を持たないMITでは周囲の病院と連携して臨床研究や学生の教育を実施するなど積極的に連携を進めてきたが、中でもIMESは大学の各専門領域を結びつける役割を持っているという。IMES内に積水ハウスの新施設を作り、こうした環境を生かして異分野連携をスムーズに実践していくとした。

自宅での疾患の早期発見のためのモニタリングでは、心拍数や呼吸数の測定に加えて、椅子に座ったり立ち上がったり、部屋を横断したり、階段の上り下りをしたり、と日常の動作にかかる時間の計測も検討しているという。日常の動きを見ることでしか分からない有用なデータが得られると強調した。これらの生理学的なデータをアルゴリズムや機械学習した人工知能(AI)などで分析し、介護者などの周囲の人に役立つ情報を抽出していくという。

在宅で疾患の早期発見も

積水ハウスとの研究開発は、4段階に分けて取り組むことを想定しているという。まずは現在のセンサーやアルゴリズムなどがどのような性能かを把握し、併せて今後利用可能になる技術も洗い出すことでロードマップを作成する。第2段階では健常なボランティアの協力を得て、実際の生活環境での技術の検証をする。第3段階では足りない技術の開発をするための実証研究を進め、例えばMITの中の専門家と協力してセンサーを埋め込んだ新たな建築資材の研究開発などをすることを想定している。そして最後の第4段階では外部の他の企業などとの連携を通して実用化に弾みをつけるという。

すでにデータ収集の研究には着手しており、実際の住宅の環境を再現して最適なセンサーの配置や必要な数について検討をしているという。また、得られた結果をもとに、健康な75歳の女性と91歳の男性という高齢者2名の自宅にセンサーなどを設置する実証実験も予定している。

在宅での健康のモニタリングについては、グーグルなどが身につけるセンサーを使ったシステムの開発を進めている。仲井氏は、慶應義塾大学などの国内大学とすでに非接触型のセンサーを活用したモニタリングの仕組みを寝室や階段、トイレなど部屋ごとに分けて研究開発に取り組んできており、「健常な人を対象にした早期発見ではストレスフリーを追求したい」と差別化するとした。また、すでに国内の大学とも研究開発を進めている中で新たにMITと組むことについては、行動パターンの分析を含むセンサー類の活用について世界的に実績があるため、国内での研究成果を踏まえてより高度な実験ができることへの期待があるとした。

自宅での疾患の早期発見は医療に関連する技術ではあるものの、当面目指す実際の役割は救急車の要請などで「医療行為ではない」という見方を仲井氏は示した。ただ、システムが発展していけばいずれAIを活用した医療などに、より関わるようになる可能性もあり、規制当局である厚生労働省やFDAなどにどう評価されていくかは注意しながら見ていく必要がある。アンソニー氏は、高齢化は日本特有の問題ではないため、今回の連携によって規制や社会との関わり方を日米間で比較しながら、得られた成果は技術として統合されて日本と米国の両方の家に設置されるようになっていくとの見通しを示した。 

鴻知佳子

鴻知佳子 ライター

大学で人類学、大学院で脳科学を学んだ後、新聞社に就職。バイオを中心とする科学技術の関連分野を主に取材する。約10年の勤務後に退社。ずっと興味があった現代アートについて留学して学び、現在はアートと科学技術の両方を堪能する方法を模索中。